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BYDのEVは欧州市場で成功できるのか。スイスUBSの衝撃的なレポート

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今回は中国EVが欧州市場でシェアを大きくあげると予測したUBSのレポートをご紹介します。

 

日本でだけEVシフトが進まないことが話題になっています。中国はEVシフトが本格的に進んで、2022年のEV化率(登録車のうちの新エネルギー車割合)はすでに25%。4台に1台がNEV(新エネルギー車)です。欧州も各国政府がガソリン車の販売に2035年という期限を設けたためEVシフトが進み17%になっています。また、最もEVに興味がなさそうに見える米国も7%にまでなっています。一方、日本はまだ1%にも達していません(新車販売の中での割合も2%代前半)。

東南アジアですらEVシフトが始まっているため、日本は世界のEV潮流から取り残された形ですが、この要因は日本の自動車技術が遅れているということでもないようです。皮肉なことに、日本のハイブリッド車の性能がよすぎるために、EVシフトが進まないのです(ハイブリッド車をNEVに分類するかどうかについては議論がありますが、世界が目指しているのは温室効果ガスを排出しない車です)。

燃料車からいきなりEVに変えると、エネルギー補給はガソリンスタンドから充電スタンドに変えなければなりません。エネルギー補給が瞬時に終わるガソリンから、時間のかかる電気に変わるため、乗り方も変えなければなりません。多くの場合、自宅の駐車場に充電設備を設置することが必要になりますが、一戸建てであればともかく、マンションでは自治会と交渉をしたり、共用電力の使用料金の分担割合など、話し合わなければならないこと、マンションの管理規約を改定しなければならないことがいろいろ出てきます。しかも、充電環境を整えやすい戸建ての多い郊外では長距離を走る傾向にあるためEVは使いづらいということがあり、充電環境を整えるのが難しい都市部ではEVの利用が向いているというミスマッチもあります。

ハイブリッドであれば、ガソリン車とまったく同じ感覚で利用することができます。それでいて、燃費は大幅に向上します。ハイブリッドに満足をしてしまって、そこからさらに不自由さをわかった上でEVに変えようという人はなかなかいないのではないかと思います。

 

ただし、ハイブリッドの場合、化石燃料を使い続けるという問題は残ります。どの国であっても、時期は異なるものの温室効果ガスの排出をゼロにする目標を掲げているため、日本もEVシフトを行い、再生可能エネルギー発電を進めていくほかしかありません。

中国は、すでに温室効果ガスを排出する火力発電の割合は50%を切っています。

▲2023年の中国の発電種類別内訳。火力発電は50%を切っている。国家エネルギー局の統計より作成。

 

▲日本はまだ火力が70%以上ある。発電の再生可能エネルギー化という点では中国に大きく遅れをとっている。経済産業省の2022年の統計より作成。

 

このように発電をクリーンエネルギー化し、EVシフトを進めるというのが中国の戦略です。EVは構造がシンプルであるため、自動車製造で遅れていた中国が、いったんリセットされて、国際的なメーカーに追いつくチャンスになっています。追いつくどころかリードすらできるかもしれません。中国がクリーエネルギー化とEVシフトに成功をすれば、世界の中で環境問題に対する発言力も強まります。10年前の都市でも郊外でも煙をモクモクさせ、深刻な大気汚染に悩まされた中国がウソのようです。

 

中国は社会主義国であるために、目標を設定すれば多少の問題があっても推し進めるため、クリーンエネルギーとEVシフトは目標達成をするでしょう。しかし、問題は中国のEVメーカーが海外に進出できるかという点です。

この問題については、スイスの金融機関UBS傘下のUBSエビデンスラボが衝撃的なレポートを公開しています。それは「BYD teardown:Will Chinese EVs win globally?」(BYD分解検証:中国EVがグローバルで成功できるか?)というものです。

結論から言うと、中国メーカーは欧州市場で成功をする可能性がきわめて高いというものです。UBSの予測によると、欧州市場での現在の中国メーカーのシェアは3%であるものの、2030年には20%となります。伝統的なグローバルメーカー(フォルクスワーゲンルノーなど)はシェアを現在の95%から70%にまで落とします。これによりグローバルメーカーとグローバルサプライヤーは大きな打撃を受けることになるというものです。

UBSではBYDの海豹(シール)を購入し、分解をしてその構造やコストを詳細に分析しまた。以前、UBSではテスラモデル3、VWのID.3を同様に分解検証した経験があるため、この3車種のEVを詳細に比較をしました。そして、4つの可能なシナリオを想定し、その中で最も確率が高いシナリオに基づいてさまざまな試算をした結果、欧州市場でグローバルメーカーが大打撃を受けるという結論を導き出したのです。

 

UBSのシナリオによると、米国市場には中国メーカーはほとんど進出できません。2030年でも中国のシェアは0のままです。しかし、それ以外の地域で中国EVは広く普及をするため、世界でも中国のEV、ガソリン車を含めたシェアは17%であるものが、33%にまで拡大します。既存グローバルメーカーは81%から58%までシェアを落とします。

幸いなことに(ほんとうに幸いなのかどうかはわかりませんが)、日本はあまり影響を受けません。なぜなら、日本ではEVシフトの進み方が遅く、なおかつ欧州でのシェアは小さく、日本と米国での販売が中心だからです。米国メーカーはやや影響を受けます。米国市場に中国メーカーは入ってきませんが、テスラの躍進があるため、米国市場のグローバルメーカーのシェアは96%から86%に低下をします。

 

UBSがこのようなシナリオを予測する根拠になっているのは、BYD(比亜迪、ビヤディ)のEVです。そのコストパフォーマンスが、フォルクスワーゲンVW)と比べても圧倒的で、テスラをも上回っています。欧州市場はオープンな市場で、厳格なルールは定めますが、それをクリアすれば誰でも参入ができる仕組みになっています。他の地域(中国、米国、インドなど)は、経済的な安全保障を考えて、他国のメーカーに不利になるようにルールを改定していくところがありますが、欧州市場は比較的オープンです。

また、欧州市民もオープンで、どのこの国の製品であろうとも、優れたものは受け入れます。また、コンパクトカーとSUVが人気の中心であることも中国市場と似通っています。

そのような事情で、中国メーカーは欧州市場で成功する可能性がきわめて高く、既存のグローバルメーカーは戦略変更を迫られるというのがUBSの出した結論です。

UBSはどのようなデータやロジックでこの結論を出したのか。レポートのデータをご紹介しながら、UBSのロジックを追いかけていきます。

今回は、UBSのレポートの基づいて、中国EVが欧州市場に参入する未来についてご紹介します。

 

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