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アップルストアもカーボンニュートラルに。すべての製品で、これ以上、地球に素材を求めない

浙江省温州市に中国56店舗目のアップルストアがオープンした。このアップルストアはビンテージEと呼ばれるデザインが採用されたが、全体でカーボンニュートラルを目指している。リサイクル可能な素材でつくられた初めてのアップルストアになると愛范児が報じた。

 

アップルが宣言をしたカーボンニュートラル

アップルが初のカーボンニュートラル製品「アップルウォッチシリーズ9」を発売した。再生可能素材を採用するだけでなく、製造にもクリーン電力を使う。それはアップルだけでなく、サプライヤーもクリーン電力を使う。さらには輸送やユーザーが充電する電力から排出される二酸化炭素に関しても、アップルがクリーン電力発電に投資をしたり、排出権を購入してキャンセルをするという徹底ぶりだ。アップルは2030年までにすべての製品をカーボンニュートラル製品にすると宣言している。

アップルストア温州店。カーボンニュートラルの考え方を採用した初めての店舗。アップルはアップルストアそのものもプロダクトのひとつだと考えている。

 

アップルストアカーボンニュートラル

このカーボンニュートラルの徹底ぶりは、アップルストアにも及んでいる。浙江省温州市にオープンした中国56店舗目のアップルストアは、初のカーボンニュートラル店舗ということができる。このストアのデザインは、ビンテージEと呼ばれるものだ。

見た目は、オーク材をふんだんに使ったナチュラルデザインのアップルストアに見える。しかし、あらゆるところにカーボンニュートラルの工夫がされている。

もともとアップルストアの床は、明るいフローリングが採用されていたが、創業者のスティーブ・ジョブズはそれが平凡すぎると気にしてた。そして、イタリアのフィレンツェの歩道で見つけたグレーがかった青い石に触発をされて、これを採用しようとした。しかし、山から採掘した石を調べてみると、色や質感など、要望を満たす石はわずか3%しかないことがわかった。そこで、プランBとして、大理石を使った樹脂板フローリングが採用された。大理石の破片、石、ガラスなどが混合されて樹脂で固めてあるというものだ。

しかし、樹脂は石油製品であり、容易には分解されない。そこで、植物樹脂を採用し、ここにイタリアとギリシャから集めた素材、英国でリサイクル回収されたガラスなどを埋め込んで、化学樹脂の使用量を大きく減少させた。

アップルは「すべての製品で、これ以上、地球に素材を求めない」と宣言しており、カーボンニュートラル製品に切り替える施策を進めているが、同じことをアップルストアでも行っているのだ。

▲床は植物樹脂を使った部材が採用されている。

 

店舗は消費者とのUI/UX

アップルは、アップルストアも製品のひとつとして開発をしており、店舗はユーザーインタフェースのひとつであると考えているようだ。そのため、アップルストアの壁はホーム画面であり、サイネージはアイコンにあたる。

これまで石英石灰岩の壁を使っていたが、ビンテージEデザインでは壁を天然素材のオーク材に切り替えた。

▲場所はアイコンで示される。iPhoneなどのアップル製品と同じ考え方のUI/UXが採用されている。

 

サードパーティー製品も統一

さらに、展示販売されるサードパーティ製グッズにもデザインのガイドラインを課している。白を基調にしたパッケージ、クリーンな印象を受けるフォント、開封せずに内容がわかるビジュアルなどのパッケージ基準が定められている。

サードパーティー製品のパッケージもガイドラインを定め、統一感を持たせている。

 

天井を変え、照明と音響環境を改善

温州店の最も大きな特徴が照明と音響環境だ。これまでのシート状の天井をやめて、すのこのような天井を採用した。これで照明が柔らかい光となり、店内の反響も吸収され、柔らかく、静かな空間が実現された。

▲天井にスノコ状の梁を入れることにより、照明を和らげ、音響も柔らかくなる。

 

漢方薬局風のキャビネット

店内には、漢方薬局の薬棚に触発されたと見られるキャビネットもある。オンライン注文された製品を一時保管しておくための収納だ。この引き出しは、カウンター側からも開くことがきるし、キャビネットの向こう側であるバックオフィスからも開くことができる。ユーザーからオンライン注文があると、スタッフが倉庫から製品を出し、キャビネットの引き出しに入れる。カウンターのスタッフは、カウンター側から引き出しを開けて、来店客に渡すというものだ。

漢方薬局をイメージしたキャビネット。裏側でも引き出すことができ、修理が終わった製品は裏側から入れ、スタッフが店側から取り出し、顧客に引き渡す。

 

椅子の高さもユニバーサル対応

リッツカールトンのコンシェルジュに触発されて生まれたジーニアスバーにも工夫がされている。多様な身長、姿勢、身体状態の来店客に対応できるように、高さの異なるカウンターが用意をされている。アップルストアではユニバーサルデザインがデザイン原則のひとつになっており、障害のある来店客に対応できるだけでなく、障害をもつスタッフが快適に働けるようにも配慮されている。

ジーニアスバーでは、さまざまな高さの椅子が用意され、カウンターの高さも異なっている。ユニバーサルデザインが採用されている。

 

UI/UXは共通させ、デザインをカスタマイズ

現在、世界中に527店舗のアップルストアがある。すでにアップルストアは、グローバルなチェーンストアとも言えるが、多くの人がチェーンであるという印象は持っていない。それは、アップルストアが1店舗ごとにデザインが異なっているからだ。典型的なチェーンストアのように、どこに行っても同じ顔ではなく、その店舗ごとに顔が違っている。

2019年には、米ワシントンにある歴史的な図書館「カーネギー図書館」の一部を使って、アップルストアをオープンしている。図書館のスペースや運営にはアップルは干渉をせず、賃貸料を支払うことで、図書館は修復作業を進めることができる。商業活動と文化活動を融合させている。

店舗ごとにまったく異なるアップルストアだが、そこにアップルのUI/UX(ユーザーインタフェース/ユーザー体験)の原則は共通をしている。まるで、iPhoneが人によって異なる壁紙を使い、アイコンの配置を変え、カスタマイズしながらも、iPhoneiPhoneであるかのようだ。アップルストアはユーザーとの接点であり、物販の場所ではなくなっている。そのため、「ストア」というネーミングがそぐわなくなっているのではないかという議論もされるようになっている。「店舗」の概念が変わっていくことになるかもしれない。

▲ワシントンにあるカーネギー図書館の中にもアップルストアが開店した。