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中国を中心にしたアジアのテック最新事情

大企業を中心に導入が進むAI面接官。採用の可否もAIが判定をする時代に

求職者の多い大企業を中心にAI面接の導入が進んでいる。スマートフォン、PCなどでAIが出題する質問に回答をするというもので、その様子はカメラで撮影され、表情や行動が分析され採用の参考資料にするというものだと極目新聞が報じた。

 

AIが求職者の面接をするAI面接

求職者の採用で、大企業を中心にAI面接が導入され始めている。指定されたアプリをダウンロードすると、スマホの画面にCGの面接官が登場し、さまざまな質問をしてくる。これに答えることで、表情を分析したり、返答内容を分析することで求職者を採点をして、採用の参考情報にするというものだ。

▲AI面接サービスの求職者に表示される画面。CGの面接官が表示されるが、基本的に無反応であり、視線は面接官の顔ではなく、カメラに向ける必要がある。

 

勝手が違うAI面接

新卒生の王芒さん(仮名)は、ある大企業のAI面接を受けた。事前にネットで想定質問集などの情報を収集して臨んだが、うまくいったようには思えなかったという。「一人でカメラに向かって答えるので、相手のAI面接官が理解をしてくれたのかどうかがわからないのです。普通の会話では、語気が強くなったり、考えるために言葉が途切れたりするのがあたりまえですが、AI面接ではマイナスポイントになると言われています。回答時間も定められているため、途中で言葉が途切れると必要以上に焦ってしまいます」。

王芒さんは、途中で言葉が途切れるのがマイナスポイントになると考え、想定質問を暗記し、流れるように答えられるように練習をしてAI面接に臨んだ。ネットで挙げられる想定質問は「前職の業務でどのような困難に遭遇しましたか?それをどうやって解決しましたか?」「社内コミュニケーションで難しさを感じるのはどんなことですか?それをどうやって解決しました?」などだが、ほんとうにその質問がAI面接ではよく出題されるという。

▲面接官の質問が表示され、それを制限時間内で回答することが求められる。

 

大企業を中心に採用されていくAI面接

このようなAI面接は求職者の多い大企業を中心に、中国だけでなく世界中で採用され始めている。中国では、中国銀行招商銀行、中国移動などの大企業、P&G、ユニリーバルイ・ヴィトンなどの外資系企業が採用している。

と言っても、AI面接だけで採用を決めている企業はまれで、一次面接やスクリーニングとして使っているところがほとんどだ。AI面接はスマホでどこからでも24時間いつでも受けられるため、大量の人を面接することができる。AI面接により、問題のある求職者を弾くスクリーニングテストに使われたり、あるいは全員を人の面接官が行う2次面接に進ませ、そこでの参考資料にしたりする。

 

韓国でも進むAI面接

韓国でもAI面接の導入が進んでいる。韓国経済研究所の調査によると、韓国企業価値ランキング上位131社のうち、1/4近くがAI面接を採用しているという。

そのため、AI面接の指導を行う塾まである。すでに数百人が受講をしたAI面接塾では、10万ウォン(約1万円)の料金で3時間のトレーニングを行ってくれる。AI面接で高評価を得るには、AI面接特有のテクニックが必要になるという。

AIは、顔の表情をカメラで撮影し、表情の画像解析を行い、強い感情表現を記録する。怒り、軽蔑、嫌悪、過剰な喜び、悲しみなどだ。また、面接に対する集中度なども測定し、応募している職業に適した性格であるかどうかを判定する。

このような仕組みであるため、AI面接を有利に進めるポイントは3つになる。1つはゆっくり、はっきりと話すこと。2つ目は回答に与えられた時間を守ること。3つ目は表情の変化をできるだけ少なくし、視線をカメラから外さないことだ。

 

コツは好ましい単語を多用すること

2020年に、HR管理士の国家資格を持つ李亜男さんが発表した「AIがあなたを淘汰する。慰めの言葉もない」の中には、AI面接の注意事項が書かれている。それによると、話の内容は論理的にしなければならず、企業が目指す理想の人材に合致する特徴語(例えば、チームワーク、学び、成長、責任感など)を多用することを勧めている。

李亜男さんは極目新聞の取材に応えた。「AI面接は企業の採用業務に大きな助けとなります。人件費の節約、効率の向上などのメリットもありますが、最も大きいのは面接官の主観的評価の誤差を減らせることです。同じ職種を大量採用するような企業に向いています」という。

しかし、「管理職などの上級職については、AI面接は慎重に扱う必要があります」とも言う。

エンジェル投資家であり人工知能の専門家である郭濤氏も問題を指摘する。「AI面接はまだまだ技術的な成熟度が低く、選別精度は設問の設定やアルゴリズムモデルに大きく左右されます。信頼性はまだ高くはありません」と言う。

SNS「小紅書」にはAI面接で出題される想定問題集が出回っている。求職者はこれを暗記して、澱みなく話せるように練習をする。

 

面接官の主観による誤差を減らせるAI面接

中国でも、多くのテック企業がAI面接システムの販売を始めている。「AI易面」(智聯招聘)、「多面」(猟聘)などの他、滴孚、近嶼知能などのテック企業がAI面接システムの開発と販売を行なっている。

多面は元々、リモート面接システムだった。人間の面接官が応対をし、人間の求職者を面接するものから出発したため、AIの評価基準は、人間の面接官の評価基準を学習することで成り立っている。現在でも、人間の面接官が二次面接などでリモート面接する機能があり、そこでAIは評価基準を学習し続けている。

多面市場責任者が極目新聞の取材に応えた。「人間の面接官は疲労、求職者に対する個人的な好みにより、評価基準が絶えず変動します。しかし、AIは常に客観的で公平な評価が可能になります。また、AI面接は1システムで24時間に1800人を面接することができ、その効率は人間とは比べものになりません。ただし、AIの評価基準はまだ人間のレベルに達してはいないため、常に人間のレベルに近づく学習をし続けることが重要です」。

▲あるAI面接サービスの出力結果。リラックス、緊張、自信などの行動の数値評価がされ、人間の面接官はこのデータを元に面接を行う。

 

求職者にとってはやりづらいAI面接

企業にとっては歓迎されているAI面接だが、求職者からの評判はさんざんなものだ。まず、「人ではなく、AIに不合格にされることが、人間としてのプライドを傷つけられる」という問題だ。人に不合格にされるのであれば、それは相性の問題だったと自分を納得させられるかもしれない。しかし、客観的評価のAIに不合格の烙印を押されると、自分はこの社会から必要とされていない人間かもしれないと落ち込むことになる。

画面に表示されるCGの面接官の顔ではなく、カメラを見つめなければならないというのも非常に不自然でやりづらい。また、通常の会話では、求職者の側も面接官の表情などを観察し、自分の発言が理解をされたことを確認しながら話を進める。しかし、AI面接官は何の反応も示してくれない。

 

AIによる人物判定にはまだまだ課題も

あるブロガーが、AI面接のシステムを使って面白い実験をしている。1回目は白い壁を背景に面接を受け、2回目は本棚を背景に面接受けた。すると、本棚を背景にした方が好感度があがったのだという。また、眼鏡をかけた場合と外した場合を比べると、眼鏡をかけた方が好感度があがった。まだまだAI面接の評価基準には穴があるようだ。

また、評価基準を人の面接官から学ぶという方法にも問題がある。人が持っている偏見なども学んでしまうからだ。2014年にアマゾンは履歴書情報を読み込んでAIで採用を判断するシステムの開発に挑んだことがある。しかし、人の採用基準を学習したため、女性が選ばれる率が非常に低く、女性差別的な評価基準を持っていることが発覚をし、アマゾンはこのAI採用ツールの開発を2017年に放棄をした。

 

AIを喜ばせなければならないAI面接

すでにネットでは、精度についてはどれほどのものかわからないが、AI面接練習アプリ、サービスが出回っている。模擬面接を行い、どこに問題があるかを指摘してくれるツールだ。それによると、常に笑顔でいるよりも、答える時のみ笑顔にした方がいいであるとか、まばたきの回数を少なくした方がいいとか、髪の毛を触るなどで手を動かしてはいけないなどのアドバイスが表示される。

つまり、求職者は求める仕事に対する意欲を示すだけでなく、AIを喜ばせることにも細心の注意を払わなければならないのだ。

ネットでは、自分の顔と音声を合成して、完璧な面接をしてくれるAI求職者のシステムが登場し、企業面接は、AIが質問しAIが答えるということになっていくのではないかという冗談が半ば真剣に語られている。