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中国で広がるAI面接による採用。AIが面接を受け、AIが採用を決める時代がやってくる?

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今回は、AI面接についてご紹介します。

 

中国のEMS(Electronics Manufacturing Service、受託製造業)で最も有名な「富士康」(フーシーカン、Foxconn)が賑やかになる季節がやってきました。フォクスコンは、iPhoneの受託製造をしているために、毎年、4月の中頃から大量の人を雇用し、秋のiPhone新製品発売に備えます。

その中心地になっているのは、河南省鄭州市にあるフォクスコンの「鄭州科技園」で、連日求職者が行列をつくっているそうです。

フォクスコンの従業員は120万人にも達していて、ひとつの拠点だけでも数十万人にのぼります。従業員は原則、社員寮に住んでいるため、もはや工場というよりもひとつの都市になっています。食堂がいくつもあり、小売店が並ぶ商店街もあります。さらに、スポーツ施設、娯楽施設、病院、消防署まで備えています。

それでも、毎年iPhoneの製造時期を迎えると、人手が足りなくなり、大量雇用をするのが恒例となっています。

 

このフォクスコンが2022年1月から、深圳地域での採用面接をAI面接に切り替えました。スマートフォンを使って面接を行い、結果はAIにより自動判定されるというものです。

フォクスコンは、ショートムービー「抖音」(ドウイン、中国版TikTok)に、「フォクスコン公式人材募集」という公式アカウントを持っていて、常に人材募集のビデオを配信してします。

人材募集だけでなく、フォクスコンでの生活環境なども紹介されていて、農村の出身者にとっては夢のような環境です。しかし、農村出身者がフォクスコンの従業員になるのは簡単ではありませんでした。まず、深セン市に出てこなければなりません。そして、就職活動をする間、深センに滞在をしなければなりません。それだけでかなりの費用がかかります。これはバカにならない負担です。そのため、深センでの就職をあきらめて、地元の都市で職を探す若者も少なくありませんでした。

 

そこで、フォクスコンでは、抖音から面接の予約ができるようにしています。先ほどのフォコスコンの公式アカウントから配信されたビデオをタップすると、ポップアップウィンドウが開いて、面接の予約ができるようになっています。ご存知の通り、商品タグを利用しています。通常の抖音のECでは、ポップウィンドウから秋品を購入できますが、フォクスコンでは、面接予約のチケットを0円で販売するという仕組みで採用面接の予約が簡単にできるようになっています。

これであれば、地方の人も、先に面接の予約を取って、その日だけ深センにやってくればよくなります。

さらに、これを加速するのがAI面接です。どこからでも受けることができ、採用まで決まってしまうので、深センに出ていく必要ありません。AI面接で合格をした人は7日以内に深センの研修センターに出向きます。そこで、最終的な雇用条件などを話し合い、問題がなければすぐに1ヶ月から3ヶ月の試用期間に入り、そこでも問題がなければ正式採用となります。もちろん、試用期間の間も社員寮に入ることができますし、正式採用額よりは低くなりますが、給与も支給されます。

 

フォクスコンのAI面接はどのように行われるのでしょうか。流れをご紹介します。

また、ウェブやSNSで流れてくるフォクスコンの人材募集広告には、SNS「WeChat」の二次元コードが掲載されています。これをスキャンすると、AI面接用のWeChatミニプログラムが起動し、24時間、どこからでもAI面接を受けることができます。

AI面接は次のような流れになります。

1)名前、年齢、出身地、家族構成などを話す(1分以内)

2)色覚異常検査:画面に表示される検査図で正解の選択肢をタップする

3)前職の業種と辞職した理由を話す(1分以内)

4)袖を捲って前腕を見せ、3回指を握ったり開いたりする(手の障害の検査)

5)知識検査問題に声で回答する

6)性格検査問題に声で回答する

知識検査も難しい問題は出されません。「Chinaとはどこの国ですか?」「(分数、少数などの選択肢が提示され)最も大きな数はどれですか?」など、小学生レベルの基礎知識を問うものになっています。つまり、工場で働くのに支障がない基礎スキルがあるかどうかを見ているのです。色覚異常や手の障害を見るのも、工員としての基礎スキルのひとつで、募集要項に「色覚異常がないこと、手の障害がないこと」が明示されています(障害のある人は別ルートでの応募になります)。

結果は、わずか数分で「緑、黄色、赤」の3種類で帰ってきます。緑の場合は合格で7日以内に申し込みを行い研修センターに出向きます。黄色の場合は保留となり、すぐに再度AI面接を受けることができます。赤の場合は不合格となり、7日以内はAI面接を再び受けることはできません。

 

このAI面接の判定に人は関与していません。すべて画像解析、音声解析、言語解析などをしてAIが判定をしています。と言っても、基礎スキルがあることを確認することが目的であるために、90%以上の人は受かるそうです。

フォコスコンとしては、最初の面接にコストをかけるより、基礎スキルがあるかどうかのスクリーニングをしておいて、試用期間の間に見極めをすればいいという考え方なのだと思います。

また、フォクスコンだけでなく、中国の工場の多くは、極端なほどの成果主義になっています。自分で仕事を覚えて仕事の幅を広げていく積極的な人は、すぐに給与が上がっていきますが、やる気のない人はいつまで経っても給与は上がりません。初任給はものすごく安いけど、自分の努力次第でどんどん上がっていくという仕組みなので、入社後もやる気のない人は自然に辞めていきます。つまり、大量に採用して、大量に離職をしていく仕組みです。

 

米国を中心に若者の間に浸透した激安ウルトラファストファッション「SHEIN」(シーイン)の生産基地は、広州市番禺区の下町工場地帯です。ここには服飾生業業者が7200社もあり、その多くが家内制手工業に毛のはえた程度の下町工場です。このうちの1000社ほどがSHEINと契約をして、SHEINの服を製造しています。

そのため、100着単位の小ロット生産しかできません。SHEINは、この小ロット生産という特性を欠点として考えるのではなく、最大限に活かすことで成功しました。契約工場にSHEINのシステムと連動したアプリを配布し、リアルタイムで売れ行きが見られるようにしました。そして、週に30着売れると、自動的に追加発注がかかります。工場では売行きがリアルタイムでわかるため、事前に追加発注がかかることが予想でき、準備を進めておくことができます。最初の発注ロットだけでは赤字になってしまいますが、追加発注がかかることで工場にも利益が出ることになります。

小ロット生産であるので、超がつくほどの多品種少量生産になります。これにより、売れない商品は製造せず、売れる製品だけを製造できるようになり、無駄なコストや倉庫代、廃棄費用などがかかりません。また、意図的にボタンや襟といった細部を変えたバージョンを製造し、実地でA/Bテストを繰り返し、売れ筋を模索していくことができます。

今、SHEINが進めているのが生産工場にAIシステムを導入することです。このシステムでは、服飾の製造工程ごとに、誰が担当し、どのくらいの時間がかかったかが計測されます。そして、新たな製造ラインを構築する時に、最も効率のいい担当者を割り当てる仕組みになっています。こうして、生産効率を上げていこうというねらいです。

効率がいいと判定された担当者は仕事が増え、給与も増えていきます。ベテランのスタッフからはあまり評判はよくないようですが、若いスタッフからは自分の努力次第でどんどん給料があがっていくと歓迎されています。中国の工場というのは、意外にも成果主義が浸透しようとしています。

 

日本でもAI面接は、吉野家などが試験導入をしています。しかし、日本の企業の場合、チームワークを重視するので、コミュニケーション力や協調性を重視する傾向があります。

中国でも、ホワイトカラーの仕事は同じようにコミュニケーション力や協調性は非常に大切ですが、近年のAI面接はこのような人間力のような部分も評価できるようになってきました。これにより、多くの企業で、AI面接の導入が進んでいます。

今回は、中国で急速に広がるAI面接のメリットとデメリットについてご紹介します。

 

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