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今回は、アリババの四半期報告書についてご紹介します。
アリババの調子が明らかにおかしくなっています。2021年3月、アリババは独占禁止法違反などで180億元(約3500億円)の罰金を課せられ、四半期ベースで上場以来初の赤字となりました。これは突発的な事態であるため、例外と考えてもいいかもしれません。しかし、2022年は絶不調です。3月期、9月期と2回も赤字となりました。
アリババによると、投資をしている企業の株価が下がったための影響だと説明していますが、事業別の業績を見ても苦しい状況であることがわかります。アリババの売上の7割はコア事業である国内小売(EC+新小売)です。しかし、その伸びが止まっています。その他に、海外事業やクラウド、エンターテイメントなどの事業もあり、それぞれ成長はしているものの、コア事業の売上が大きすぎて、焼石に水の状況になっています。
さらに、コア事業も京東(ジンドン)という古くからのライバルだけでなく、ソーシャルECの「ピンドードー」、種草系の「抖音」(ドウイン)、「快手」(クワイショウ)、「小紅書」(シャオホンシュー)などの包囲網に圧力を受け続けています。このあたりの事情は、「vol.124:追い詰められるアリババ。ピンドードー、小紅書、抖音、快手がつくるアリババ包囲網」でもご紹介をしました。
また、「vol.150:勢いのある種草ECに対抗するタオバオ。電子透かしを活用したユニークな独自手法を確立」では、アリババがどのような対抗手段をとっているのかもご紹介しました。
しかし、アリババの最重要プラットフォームである「淘宝網」(タオバオ)のアクセス数が減少をしているという報道が相次いでいます。後ほど説明しますが、明らかにアリババのような流量(トラフィック)を集めて販売をするタイプのECから、抖音のような占有時間を長くして販売をするタイプのECに世の中が動き始めています。つまり、一言で言えば、オンラインにバーチャルな商品棚を用意して購入するタイプのECが時代遅れになりつつあるのです。時代の転換点を迎えていると言っていいかと思います。
そこで、今回は、アリババの四半期報告書から、アリババの事業の現状をまとめてみたいと思います。
四半期報告書は、アリババ公式サイトのInvestor Relations(投資家向け広報、IR)からどなたでもPDFを読むことができます。読者の中には、仕事で毎日にように四半期報告書や財務報告書を読み慣れている方もいらっしゃるかと思います。しかし、そうでない方もいらっしゃると思うので、簡単なアリババの報告書の読み方を解説しながら、話を進めていきたいと思います。
アリババの財務関係の報告書は、次のIRページからすべて読むことができます。
https://www.alibabagroup.com/en-US/investor-relations
▲アリババグループのIR情報ページ。
最も重要なのは、証券取引所への報告書で、アリババの場合はニューヨークと香港に上場をしているので、それぞれの報告書が公開されています。いわゆる有価証券報告書です。
有価証券報告書は詳細で網羅的ですが、種類も多く記述も多いため、読み解くには専門的な知識が必要になります。米国証券取引委員会(SEC)の場合、「10-K」が年度報告書、「10-Q」が四半期報告書になります。
一般の株式投資をしている人たちは、有価証券報告書まで読む必要はほとんどありません。なぜなら、これをわかりやすくまとめた四半期報告書、年度報告書が公開されているからです。通常は、このような報告書を読み、さらに深く知りたいことがある場合には有価証券報告書で確認をするというのが一般的です。
アリババの場合、四半期報告書は英語で、年度報告書は英語と中国語で発行しています。四半期報告書は日本で言う決算短報に近いもので、必要な情報が表形式にまとめてあるので、難しいところはほとんどありません。また、年度報告書は、業績報告だけでなく、企業がどんな活動をしているかを写真などを使って紹介しているのが一般的です。
ただし、このような業績報告書であっても、読むために必要な知識があります。それは2つのカテゴリーに分けることができます。
1)会計知識
四半期報告書でまず読むべきは、revenue(営業収入、売上)とincome(利益)の2つです。特に重要なのが、特定の四半期の絶対値ではなく、時間軸に沿った推移です。全体的な売上が上昇基調にあるのか下落基調にあるのか、利益は増えているのか下落しているのかなどのトレンドの方が重要です。
売上の方はrevnueを見ればいいですが、利益の方は営業利益、経常利益、純利益といくつも種類があり、さらにはEBITDAやNon-GAAP Incomeなどさまざまな種類があります。それぞれにどんな特徴があり、どれを見ればいいのかをご紹介します。
2)事業構造知識
単にアリババが儲かっているのか損をしているのかを知りたいだけであれば、売上と利益を見ておけばじゅうぶんですが、それだけではアリババの今後がどうなるかを予測することはできません。
どの事業が伸びる可能性があるのかを知るには、Segment Report(事業別報告)を見る必要があります。事業別に売上と利益を掲載しているので、事業別のトレンドを見れば、どの事業が伸びそうかもだいたい予測がつくようになります。
しかし、どの事業が具体的にどのような内容の事業をしているのかは、年度報告書などに書いてありますが、読み解くのはなかなか手間がかかります。そこで、どの事業がどういうものであるかをご紹介したいと思います。
現在、アリババの四半期報告書では、事業を7つに分けて、それぞれの売上と利益を公開しています。
1)China commerce:国内小売
2)International commerce:海外小売
3)Local consumer services:デリバリー事業他
4)Cainiao:宅配便事業
5)Cloud:アリクラウド事業
6)Digital media and entertainment:メディア事業
7)Innovation initiatives and others:研究事業
また、これらの事業の依存関係も理解をしていく必要があります。例えば、アリクラウドはアリババのクラウドサービス事業で、一般企業のクラウドサービスも扱っていますが、やはり大きいのはアリペイやタオバオ、釘釘(ディンディン)、城市大脳(シティブレイン)といったアリババの事業に対するクラウドサービスです。このような事業の場合、アリペイやタオバオの事業が成長をすればアリクラウドの業績も上がり、アリペイやタオバオの事業が低調になればアリクラウドの業績も下がるという依存関係にあります。そのため、アリクラウドだけの業績推移を見て、上がった下がったと言ってもあまり意味がありません。依存している事業の変動を見た上で評価する必要があります。
今回は、このような方針で、四半期報告書を使いながら、アリババの事業をひとつひとつ見ていきます。そして、この数年間の業績をご紹介し、アリババの今後を占います。
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