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東南アジアにも拡大するTikTok Shopping。アリババのライバルになってきたTikTok

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今回は、抖音、TikTokの興味ECについてご紹介します。

 

vol.169:赤字転落をしたアリババ。事業の展望はどこにあるのか。アリババ四半期報告書を読む」で、アリババの事業内容についてご紹介をしてすぐに、偶然にもアリババから重大発表がありました。大規模な組織改変をして、1+6+N体制にするというものです。

1とはホールディングにあたる本部、66つの事業部を分社化をし、それぞれで株式上場をねらいます。Nは盒馬鮮生(フーマフレッシュ)や銀泰百貨、アリババピクチャーズなど、以前から独立事業体として活動していた組織を指します。

この組織改変の眼目は、アリババ7つの事業部のうち、研究開発事業を除いた6つの事業を独立させるというものです。

その6つの事業部とは次のものです。

1クラウド:アリクラウドやコラボツール「釘釘」(DingTalk)の運営

2)淘宝天猫:国内EC事業

3)ローカルサービス:ウーラマのフードデリバリー、高徳地図など国内生活系サービス

4)菜鳥(ツァイニャオ):宅配物流の菜鳥物流

5)国際デジタル商業:アリエクスプレスなどの越境ECLazada(ラザダ)などの海外EC

6)エンターテイメント:優酷(ヨークー)などの動画配信サービスなど。

 

この組織改変は、市場に好感をされ、香港市場のアリババ株は10%ほど上昇しましたが、この組織改変はかなり思い切ったものです。なぜなら、アリババ7つの事業部のうち、黒字になっているのは淘宝天猫で、その他は、クラウドがぎりぎり黒字になっているだけで、すべて赤字になっています。赤字事業を独立会社にするというのはかなり厳しいことで、「獅子は我が子を千尋の谷に落とす」改革であると見ている人もいます。

 

アリババは3つの問題を抱えています。

ひとつは、事業部の依存関係があることです。アリババの営業利益のほとんどは国内EC事業である淘宝天猫が稼ぎ出していて、それで他の赤字事業部を回している格好です。しかも、この国内ECに依存をしている事業が多いのです。たとえば、クラウドはようやく法人向けサービスが広がり黒字化を達成しましたが、その業務のほとんどはタオバオや天猫(Tmall)、アリペイのトランザクション処理です。菜鳥は宅配便企業で、タオバオや天猫の商品の配送物流を担当しています。また、ウーラマはフードデリバリーの他に、フーマフレッシュなどの新小売スーパーの配達やECの即時配送を受け持っています。

この3つの事業は、淘宝天猫事業に依存をしているわけで、淘宝天猫事業が縮小をすれば連動をして縮小する関係にあります。

 

2つ目の問題がLazada(ラザダ)の誤算です。ラザダはシンガポールを拠点に東南アジアにECサービスを提供する企業ですが、2016年にアリババに買収されました。

このメルマガの読者の方であれば、もはやおなじみになっている2016年です。この年、アリババの創業者、馬雲(マー・ユイン、ジャック・マー)は、「純粋なECはすでに死んでいる」と宣言をし、「オンライン小売とオフライン小売は深く融合して新小売となる。すべての小売業は新小売になる」と新小売への転換を図りました。

中国は2014年をピークに労働人口が減少し始めました。労働人口とはイコール消費人口であるため、流量に頼る伝統的なECはすぐにでも頭打ちになるという危機感を感じたのです。

そこで、ジャック・マーは、国内は新小売に転換をし、需要の掘り起こしをしていく。そして、これから経済成長が始まる東南アジアを中心にした海外では、アリババが培ったノウハウを活かして伝統的なECを展開するという大戦略を描き出しました。しかし、ラザダが思惑どおりには成長できなかったのです。

 

アリババはラザダには非常に力を入れていました。2018年には、ジャック・マーの懐刀と呼ばれ、アリペイを成長させた実績を持つ彭蕾(ポン・レイ)をラザダCEOに送り込みます。彭蕾はアリババの創業メンバー18人=アリババ十八羅漢の一人で、アリババの中で唯一ジャック・マーに苦言を述べることができる女性だと言われています。

さらに、張勇(ジャン・ヨン)CEOは、月に1回はシンガポールに飛び、ラザダの重要経営判断を直接行うほど力を入れていました。

しかし、地元系のShopee(ショッピー)が強く、ラザダはショッピーの後塵を拝する状況になってしまっています。

2003年にアリババがタオバオをスタートさせた時、最大のライバルは米国から上陸をしたeBay(イーベイ)でした。ジャック・マーが「アリと象の戦い」と呼んだほど資本力が違います。しかし、タオバオは数々のゲリラ戦術で、イーベイに打ち勝ち、撤退させたのです。ショッピーはアリババから比べると資本力はありませんが、それぞれの国に密着をしてゲリラ戦術をラザダに対して仕掛けて、アリババを苦しめているのです。皮肉な話です。

 

3つ目の問題が、ジャック・マーが懸念をしているように、淘宝天猫の頭打ち感が出てきて成長が止まっていることです。伝統的EC(アマゾン型)が成長をするには、新規の顧客を獲得するか、1人あたりの単価を上げるかのいずれかしかありません。しかし、中国では消費人口の減少が始まっているのですから新規顧客の獲得は難しくなっています。

では、単価を上げる方はどうでしょうか。これも伝統的なECでは難しくなっています。お風呂の洗剤やいつも使っている化粧品がなくなればECで注文すれば便利です。しかし、伝統的ECで注文するのはそういう日用消耗品が中心になり、伝統的ECをウィンドーショッピングして高額商品を買い物をするということは少なくなっていきます。

 

そこで、ジャック・マーが賭けたのが新小売で、伝統的ECから新小売への変化は「人找貨から貨找人へ」という言葉で表されます。

找というのは中国語の動詞で、探す、訪ねるといった意味です。つまり、「人が商品を訪ねていく消費」から「商品の方が人を訪ねていく消費」に変化させようとしました。

例えば、普段の生活の中で「ビニール傘を買おう」と思うことはほとんどないと思います。わざわざ店舗に行ってビニール傘を買う人はまずいないでしょう。しかし、外出をしていて急に雨が降ってきたらどうでしょう。こういう時は、コンビニでも、傘とは関係ないお店でも、店頭に傘を出してくれます。ありがたいと思って、誰もが傘を買うことになります。つまり、「人找貨から貨找人へ」とは、需要が生まれるのをお店やECで待っているだけでは売上に限界が出てしまうので、需要が発生する場所で、商品の方から消費者を探して販売をすることで、従来の限界を乗り越えられるというものです。

といっても、商品をあちこちに移動させることはできないので、スマートフォン30分の即時配送で、貨找人を実現するというのがアリババの新小売の基本コンセプトです。実際、新小売プラットフォームでは、傘を購入して、指定した場所に30分以内で配送してもらうことが可能です(中国では雨が降ると、大量の傘売り商人がどこからともなく現れてくるので、傘を新小売で買う人はいないと思いますけど)。

現在の技術的な限界により30分配送しかできないため、新小売の本質が見えづらくなってしまっていますが、理想とするのは「需要が発生する場所に商品を置く」ということです。ただし、需要が発生する場所と商品の関係は、常にダイナミックに変化をしていきます。雨が降れば傘が必要ですが、雨が降らなければ傘は必要なくなります。この変化も含めて、「商品が人を訪ねる」状況を実現させようとしています。つまり、新小売という小売スタイルは、まだまだ発展途上にあるのです。

 

アリババとしては、伝統的ECであるタオバオ、天猫の業績が下落をする前に、新小売を成長させ、なおかつ海外で伝統的ECを成長させ、アリババ全体の成長を確保するという戦略でした。

しかし、新小売はまだまだ試行錯誤をしなければならない段階にあり、頼みの綱だった海外ECは思うように伸びない。その状態で伝統的ECの伸び悩みが目立つようになってきてしまいました。

この八方塞がりを打破するためのカンフル剤が、今回のアリババの組織改革です。各事業が分社化をするということは、アリババ以外の企業と提携しやすくなります。実際、ウーラマはバイトダンスが始めた抖音デリバリーの配達業務も受け持っています。後ほど紹介しますが、抖音のECはアリババを苦しめる原因のひとつとなっていて、ある意味ライバル企業、敵対企業です。しかし、独立運営になることで社内のしがらみがなくなり、合理的な経営判断がしやすくなります。

また、もうひとつは社員株主制度です。6つの事業部の社員たちは、分社化されると、その分社の株式を保有することになります。もし、株式上場に漕ぎつければ、株を保有している社員も億万長者になれますから、それはがんばります。分社化することで、社員が一丸になってがんばれるという点も小さくありません。

 

アリババに残された時間はあまり多くありません。結局、アリババは国内ECに依存をしています。この国内ECの下落が始まったら、アリババは総崩れになる危険性もあります。つまり、国内EC事業が下落をしないうちに、各事業部が独り立ちできる状態にしておく必要があります。

このアリババの伝統的EC=国内ECを苦しめているのが、 抖音、快手(クワイショウ)のショートムービーによるEC、ライブコマースです。このメルマガでも、ショートムービーのECに非常に勢いがあることは何回かご紹介しました。これについては、「vol.110:二軸マトリクスで整理をするECの進化。小売業のポジション取りの考え方」「vol.129SNS「小紅書」から生まれた「種草」とKOC。種草経済、種草マーケティングとは何か」などでもご紹介してきました。

今回は、アリババの伝統的ECとの対比で、ショートムービーのECのどこがすごいのかをご紹介したいと思います。

 

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vol.170:米国議会はTikTokの何を問題視したのか。張一鳴の発想とUGCの衝突vol.171:中国はChatGPTに負けてしまうのか。中国の生成AIの実力はどの程度なのか

vol.172:若者は「お店」を開きたがる。タオバオネイティブ世代の起業に対する考え方