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拼多多が3四半期連続で黒字を達成。下沈市場をめぐるアリババと拼多多の確執

拼多多が3四半期連続の黒字を達成し、安定経営のモードに入った。これはアリババが最も恐れる事態だった。タオバオの販売業車が拼多多に移籍をしてしまう現象が起き始めているからだ。下沈市場をめぐり、アリババと拼多多の競争が激化しそうだと財経故事薈が報じた。

 

拼多多の安定経営を恐れるアリババ

ソーシャルEC「拼多多」(ピンドードー)が黒字化をし、堅調だ。2021年の財務報告書によると、2021年Q4の純利益は66.20億元(約1290億円)となり、3四半期連続の黒字となった。これはアリババが最も恐れていた事態だ。

アリババは、拼多多に対抗するために、激安EC「淘宝特価版」を2020年3月にスタートさせ、後に「淘特」(タオター)に名称変更をした。淘特は拼多多に市場を蚕食されることを一定程度食い止める効果はある。しかし、大方の見方は投入が遅すぎたというものだ。

▲拼多多の業績。赤字運営が続いていたが、2021年から3四半期連続で黒字を達成している。拼多多が安定運営になることはアリババが最も恐れていた事態だった。

 

オンラインとオフラインを接続する農村タオバオ

アリババと拼多多には、少なくともアリババ側には確執がある。なぜなら、自分たちが開拓をした市場を、拼多多にまんまと奪われてしまったからだ。その市場とは下沈市場と呼ばれる。最も有効な消費者層の下に沈んでいる低所得者層のことで、一般的には地方都市と農村の消費者のことを指す。

2014年、アリババは米ニューヨーク市場に上場をし、莫大な資金を調達することに成功した。アリババが上場後の成長戦略のひとつとして挙げたのが、下沈市場の開拓だった。2014年10月には、最初の「農村タオバオ」のステーションが、浙江省の桐廬県に開店した。これは、タオバオの商品を購入できる実体店舗だ。当時の農村では、まだスマートフォンがじゅうぶんに普及をしてなく、アリペイなどの電子決済も普及をしていない。店舗や露店で現金で買うというのが一般的だった。そこで、農村タオバオでは、来店客が欲しい商品を告げると、店長がタオバオを検索して探してくれる。気に入った場合は、店長が代わりに購入し、届くと連絡がいき、現金で支払いができるというものだった。つまり、オンラインとオフラインを接続する店舗だ。この農村タオバオを起点にタオバオで買い物をする習慣を広げようとした。

さらに、アリババはタオバオ村の設置を行なっていった。こちらは、アリババが地元企業を支援して、農村を商品の生産基地にしていこうというものだ。つまり、アリババは農村で商品を生産し、現金収入が得られる状況を生み出し、そしてアリババのタオバオで買い物をしてもらうという循環を考えていた。これは農村の貧困や都市との収入格差を解消する社会貢献活動にもなる。

▲農村タオバオの店舗。下沈市場でオンラインとオフラインを接続する拠点として、全国に3万店舗が設置された。アリババの計画では2019年までに10万店舗なので、計画は順調に進んでいるとは言えなくなっている。

 

農村には向かなかったECの仕組み

しかし、なかなかうまくはいかなかったようだ。農村タオバオアプリは、2017年6月にタオバオ内に統合をされてしまった。これが決定打になってしまった。農村の消費者にタオバオアプリは使いづらいものだったのだ。

操作が難しいというのではない。商品名を検索して、商品を探し、レビューを読んで評価をし、注文をして決済をするというプロセスが、都市住人にとっては先端的でゲーム性もあり楽しいものだったが、農村の消費者にはなじめなかった。露店や店舗で、目の前にあるものを買って現金で払うというのが一般的な消費スタイルだったからだ。

そして、アリババはもうひとつの大きな戦略ーー新小売に注力をしていくようになる。

 

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下沈市場にうまく参入した拼多多

この空白となっていた下沈市場に拼多多が非常にうまく入り込んだ。農村の消費者は、お金はあまり持っていないが時間はたっぷりとある。拼多多で販売される商品は驚くほど安い。1元、2元の商品もたくさんあり、多くが10元以内だった。その分、品質についてはそれなりだったが、この安さであれば品質には目をつぶる。そのため、レビューなど読む必要がなかった。拼多多のアプリを開いて、おすすめの商品が安いとなればタップして購入してしまう。この単純さと安さが、下沈市場では受けた。

さらに、アリババがやろうとしてできなかったことを前進させた。農村に生産基地をつくり、農村の経済を上昇させていった。地方都市の政府は歓迎をし、拼多多に対する支援を行うようになり、社会貢献の観点からも歓迎され、ますます多くの下沈市場の消費者が拼多多で買い物をするという循環が生まれた。

 

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淘特が激安価格で販売できる仕組み

2020年になって、アリババは拼多多に対して危機感を覚え、「淘宝特価版」を投入する。ここでは、驚きの激安価格の商品が並んだ。1.9元で50枚入りのマスク、4.9元の男性用薬用リップクリームなどが大量に売れた。しかも、送料込みでこの価格なのだ。

4.9元のリップクリームはこれでも利益がわずかに出る。工場出荷時の納品価格は2元程度で、配送費は2.5元で済む。つまり、0.4元の利益が出る。これでも大量に売れれば商売になる。

1.9元のマスクはさすがに赤字になってしまう。それでも販売業者にとっては問題がない。多くの販売業者は、タオバオにも淘特にも出品をしている。アリババは販売数などのデータや広告やプロモーションの参加回数などから販売業者のランク分けを行い、ランクが高くなると、タオバオで検索をした時に上位に表示をするアルゴリズムを採用している。つまり、たくさん売ってランクがあがると、より売れるようになる。

アリババは、この評価システムをタオバオと淘特で共通化をした。そのため、タオバオにも出品している販売業者は、淘特での価格を安くして大量に販売をすると、タオバオでのランクがあがることになる。タオバオで商品が売れやすくなり、淘特での損を取り戻せるというわけだ。

▲拼多多(左)と淘特(右)。見た目のつくりは非常によく似ている。販売されている商品の価格帯も多くが10元以下になっている。

 

下沈市場をめぐるアリババと拼多多の戦い

このような激安販売は一定程度の成功をしている。淘特の年間アクティブユーザー数(YAU)は2.8億人を超え、QuestMobileの調査によると、78%の利用者が拼多多と淘特の両方を使っていた。タオバオから離れて拼多多に移ってしまう利用者を食い止め、かつ、拼多多から利用者を奪っている。

しかし、再び、拼多多は新たな方向性を打ち出している。現在力を入れているのは農村で生産された農作物を都市の住人に売るというビジネスだ。特に特徴のある果物や自然農法で育てられた農産物や家畜類は高額で売れる。下沈市場の中で生産から消費を循環させるというところから脱却をしようとしている。

アリババはこの動きにも対応をしないとならなくなっている。タオバオと拼多多の競争は、常に拼多多が主導権を握って、それをアリババが追いかける形になっている。アリババにとって、まだしばらくの間は拼多多が脅威であり続けることになる。

▲アリババのEC収入(CM)と新小売(Other)の営業収入の伸び率。2021年第4四半期にEC収入は初めての前年割れとなった。