中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

なぜ中国政府はテック企業の締め付けを強化するのか。公正な競争とVIEスキーム

まぐまぐ!」でメルマガ「知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード」を発行しています。

明日、vol. 098が発行になります。

 

今回は、テック企業に対する規制強化についてご紹介します。

この1年ほど、中国政府がテック企業に対して締め付けとも言える規制強化を行なっています。

最も話題になったのは、「vol.070:アリババに巨額罰金。独占を防ぐことで、市場は停滞をするのか、それともさらに成長するのか」でもご紹介したように、2021年4月10日、国家市場監督管理総局がアリババに対して182.28億元(約3000億円)の罰金を課したことです。同社のEC「淘宝網」(タオバオ)に出品する業者に対して、他のECで出品しないことを求めたという独禁法違反でした。

これだけではありません。7月24日には騰訊(タンシュン、テンセント)が、同じく独禁法違反で50万元の罰金を受けています。テンセントミュージックが中国音楽集団の株式の61.64%を取得したことで、テンセントと中国音楽集団で、中国の音楽の版権の80%以上を握ってしまい、これにより他社の参入を阻んだという内容です。

さらに美団(メイトワン)も、10月8日に、飲食店に対して美団以外とは契約をしないように迫ったことで34.42億元の罰金を受けています。

この他、百度バイドゥ)、蘇寧(スーニン)、京東(ジンドン)、バイトダンス、滴滴(ディディ)など、主だったテック企業が軒並み独禁法がらみの罰金を課せられるという大荒れの事態になりました。

 

また、「vol.090:今どきの子どもたちのネット事情。ゲーム規制、教育改革をしたたかかに生きる子どもたち」では、ゲーム規制についてご紹介しました。政府系メディアが「精神アヘン」「電子薬物」という刺激的な言葉を使って、ゲームにのめり込む未成年の問題を取り上げ、結果、未成年は、平日はゲーム禁止、週末の金土日および祝日の午後8時から午後9時の間の1時間しかオンラインゲームができないようにする仕組みを導入することになりました。ゲーム関連企業には大きな痛手です。

また、学校の授業の補修、受験対策を目的とした塾、オンライン学習サイトも事実上の禁止。この業界は、完全に沈没をしてしました。

 

なぜ中国政府はテック企業に対してこのような厳しい処置を取るのでしょうか。「大きくなりすぎて目障りになったテック企業を叩いている」と評する人もいますが、そのような子どもじみた感覚で、14億人の大国を運営できないことは、このメルマガの読者であればお分かりだと思います。

このような独禁法による規制、未成年保護は、本来もっと早く規制されるべき問題でした。独禁法の焦点になっている「二選一」(二者択一)は、すでに数年前から問題視する声が上がっていました。未成年のゲーム規制もすでに数年前から問題になり、テンセントは一部のゲームで、独自に「平日1.5時間、週末3時間」という自主規制を始めていました。

もう読者のみなさんはおわかりかもしれません。これはいつもの中国政府の平常運転なのです。つまり、新しい業態が登場して急成長をしている間は規制をかけず、頭打ち感や弊害が見えてきたところで規制を一気にかけ、他の業界との公平性を保つというやり方です。もちろん、法整備がすぐには追いつかないという面もあります。

テック企業がイノベーションを起こして、新しいサービスを始めるときはいつもグレーゾンで、規制が入るまでにいかに成長をしておくかが勝負という面があります。ですから、中国のテック企業の初期段階の成長速度は凄まじいのです。規制が入ったときにある程度の規模がないとつぶれてしまうので、いかに早く安定規模までスケールできるかが勝負なのです。

そのため、独禁法で処罰を受けた各テック企業は、株価も下がり痛手を被っていますが、致命的ではありません。規制がかかるのは、織り込み済みのことなのです。もちろん、どの段階で規制がかかるかまでは読めないにしても、いずれそうなることを予測して動いているので、致命傷にならないように、かなり以前から準備をしているはずです。

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▲ゲーム規制で最も厳しい規制を受けたテンセントの香港市場での株価の推移。8月3日にゲーム規制が告知され、株価は下落をしたが、下落傾向は以前からのものであり、ゲーム規制がかけられた9月以降は大きな変動なく推移をしている。

 

しかし、6月に滴滴に起きた問題は、このような処罰とは次元が違っています。中国最大級のユニコーン企業と言われていた滴滴は、2021年6月11日に、米国証券取引委員会(SEC)に対して目論見書を提出しました。そして、6月30日にニューヨーク証券取引所への上場が認められました。初値は公開価格の19%増で、順調な滑り出して、中国企業としてはアリババに次ぐ大型上場となりました。

ところが、これが三日天下だったのです。7月2日に、国家インターネット情報弁公室は、唐突に「国家のデータ安全と公共の利益を守るため」という理由で、「滴滴」アプリの安全審査を始めました。安全審査中であるので、アプリへの新規登録ができなくなりました。そして、7月4日には、審査の結果が出て、個人情報を違法に収集していたとの理由で、滴滴アプリの配信が禁止されたのです。滴滴は従来のサービスは継続できますが、アプリの配信ができないため、新規の顧客が登録できないのはもちろん、アプリのアップデートができないので新しいサービスを始めることができません。既存の利用者もうっかり滴滴のアプリを削除してしまうと、再インストールができません。

株価は低迷をすることになり、滴滴の株価は悲惨なことになっています。上場廃止を模索しているとも伝えられ、滴滴創業以来の危機を迎えています。滴滴に投資をしている日本のソフトバンクの業績悪化のひとつの要因にもなっています。

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▲滴滴のニューヨーク証券市場の株価の推移。アプリ配信が禁止されて以降、株価は低迷をしている。

 

これはさすがにやりすぎだと感じる方もいるのではないでしょうか。なぜなら、滴滴のこの状態が長引けば死に体になることは明らかで、倒産するという最悪の事態もないわけではありません。

中国政府は、テック企業が経済を牽引し、中国経済を成長させてきたのに、なぜ水をかけるようなことをするのでしょうか。そんなことばかりしていれば、中国の経済成長が止まってしまいます。なぜ、自分で自分の首を絞めるようなことをするのでしょうか。

これは、テック企業では常識となっていたVIE構造またはVIEスキームに規制が入り始めたのです。中国政府がここに規制を入れるのは、経済成長の時代が終わり、安定成長に入るための準備だと考えられます。

このVIE構造とは何でしょうか。そして、安定成長に入るための準備とはどういうことでしょうか。

今回は、テック企業に対する規制強化についてご紹介します。特にVIE構造について詳しくご紹介します。

 

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