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大量採用の半年後に大量解雇。社会的責任も問われたテンセントに何が起きていたのか

2021年秋に、テンセントは創業以来の大規模な採用計画を実施した。しかし、そのわずか半年後には大規模リストラを行った。この半年間にテンセントに何があったのか。問題はゲーム事業のつまづきだったと呉子房が報じた。

 

大量採用の半年後には大量解雇

2021年秋、騰訊(タンシュン、テンセント)は、創業以来の大規模な採用計画を実施し、約5000名の新卒者を採用した。しかし、わずか半年後の2022年3月、テンセントは大規模なリストラを行う。中には採用されたばかりの新卒入社社員もリストラの対象となってしまった。

あまりにひどい話で、テンセントの社会的責任を追求する声もあがった。リストラをするぐらいなら、大規模採用をしなければよかったのだ。いったい、このわずか半年の間にテンセントに何が起きていたのだろうか。

 

テンセントの3つの中核事業

テンセントの事業は、財務報告書では4つに分類されている。

1)増値服務:課金による収入で、ほぼモバイルゲームからの収入になる

2)金融科技及び企業服務:スマホ決済WeChatペイからの収入と、企業のDX、マーケティング支援のビジネス

3)網絡広告:デジタル広告による収入

4)その他

 

3つの事業を理想の象限に移動をさせる

このうち、「その他」を除いた3つの事業の営業収入と前年比成長率をプロットしてみる。グラフは2019年のもので、テンセントに変化が起きる前のものになる。

このグラフを4つの象限に分けて考えると、それぞれの事業の状況が把握できる。網絡広告がいる左下の象限は、営業収入も成長率も低い。事業としては精彩を欠き、大規模な改革を行うか、場合によっては事業を放棄することも考えなければならない。いわゆるお荷物事業になっている。

増値服務が半分入っている右下の象限は、成長率は低いが収入が大きい事業で、安定をした収入源になっている。

金融科技が入っている左上の象限は、収入は低いが成長率が高い事業で、これから伸びていく期待ができる事業になっている。

そして、右上の収入が高く、成長率も高い象限は理想的な事業であり、すべての事業をこの象限に移動させることが目標となる。

つまり、2019年のテンセントのやるべきことは、増値服務(ゲーム事業)の成長率をあげることで、ここに大規模投資をすることだった。また、網絡広告の事業を放棄することまで含めて、今後どうするかを考える必要があった。

▲テンセントの2019年の3つの中核事業のポジション。右上が理想的なポジション。金融科技の事業を拡大して右に移動させ、増値服務(ゲーム)事業に投資をして成長率をあげることが、テンセントが当面行うべきことであるということがわかる。

 

ゲームと企業服務を強化したテンセント

テンセントはこの教科書どおりの行動をした。ゲームに大規模な投資をし、人材も確保し、ゲームスタジオの買収を進めた。

また、デジタル広告に関しては、中国では、すでにデジタル広告の広告効果が減少をし始めている。バナー広告やインストリーム広告はじゃまな存在として消費者から避けられるようになり、よりダイレクトな商品情報を求めるようになっている。多くの人がショートムービーから商品情報を得るようになっている。商品情報は広告ではなく、メーカー、販売業者が直接ショートムービーで配信をする。その内容が面白ければ爆発的に拡散をし、ムービーには商品タグを埋め込み、タップするだけで購入ができるため、そのような広告をバイパスした直接購入が進み始めている。いわゆる種草と呼ばれる仕組みだ。

これにより、デジタル広告の存在感が小さくなっているのは、テンセントだけでなく、どこのテック企業でも同じで、テンセントはSNS微信」(ウェイシン、WeChat)にショートムービー機能「視頻号」(WeChatチャネルズ)や「微信小店」(WeChat Shop)を追加し、種草によるEC、ライブコマースができる環境を整えている。ここでの収入は、金融科技及企業服務に分類されるもので、ネット広告から企業サービスに比重を移していくことになる。

 

左下の象限に居ついてしまった広告事業

同じグラフを事業別に2019年、2020年、2021年でつくってみると、その効果が現れていることがよくわかる。

ネット広告は「収入低、成長率低」という象限にいるが、収入はわずかに増えながら、2021年には成長率が大きく落ちた。事業放棄も考えなければならない象限に居ついてしまって、右上の理想的な象限に移動する気配がない。しかし、これはデジタル広告から種草へ移行をしているため、想定内のことであり、むしろ種草への移行が順調に進んでいることを示している。

▲広告事業は、最も状況が悪い左下象限に居ついてしまっている。テンセントは広告から企業服務にシフトをしようとしている。

 

理想の象限に近づきつつある金融科技と企業服務

では、金融科技と企業サービスはどうだろうか。2020年には一時、下の象限に落ちかけたが、これはコロナ禍の影響で、2021年には再び、左上の「収入低、成長率高」の象限に復帰をしている。しかも、右上の理想的な象限に近寄りつつある。テンセントのこれからの主力事業になる可能性がある。

▲金融科技と企業服務事業は、成長が期待できる左上の象限にいて、なおかつ理想的な右上の象限に近づいている。

 

想定外だったゲーム事業の失速

一方、想定外だったのが、モバイルゲーム収入だ。2020年にはコロナ禍の外出自粛の影響もあり「収入高、成長率高」という理想的な象限に入ることができた。テンセントとしては、ここにさらに投資をして、事業を強化すべきだった。しかし、2021年は成長率が大きく下落をしてしまう。

これは2021年9月から始まった「未成年がオンラインゲームができるのは、週末の午後8時から午後9時まで」という厳しい規制の影響もあるが、それ以上に、ゲーム審査が遅れに遅れていることが大きな影響を与えている。

中国ではゲームを含むすべての出版物は、公開する前に国家広播電視総局の内容審査を受けなければならない。政治的、公序良俗的に問題のあるゲームは、この審査で問題が指摘をされるとリリースができなくなってしまう。

テンセントでは国産ゲームでは2020年9月29日、輸入ゲームでは2021年6月28日に審査に合格をして以来、申請は行っているものの、1年半以上、審査が通っていない。審査に落ちているのではなく、国家広播電視総局が審査を遅らせているのだ。

▲ゲーム事業の二軸グラフ。2020年には理想的とされる右上の象限に入ったが、ゲーム審査問題で、2021年に一気に状況が悪化した。

 

ゲーム事業の想定外のつまづきがリストラの要因

つまり、テンセントは、デジタル広告を縮小し、期待ができる企業サービスにシフトをしていくことと、主力事業になっていたゲーム事業をさらに拡大をすることを方針として、2021年には大量の新卒者を雇用した。

しかし、2021年にその主力ゲーム事業が、政府の方針という外的要因により、大きなつまづきをすることになった。これにより、リストラに踏み切らざるを得なくなってしまった。

実際、今回、リストラが集中している事業は、IEG(Interactive Entertainment Group)とPCG(Platform and Contents Group)になっている。また、クラウドサービスの競争が激化をして、どこのテック企業もクラウド事業の収益が悪化をしていることからCSIG(Cloud and Smart Industries Group)でも、リストラが行われている。

 

投資家はテンセントの置かれた状況を理解している

もちろん、このままゲーム事業が縮小していくわけではない。国家広播電視総局もいつまでも審査を遅らせているわけではない。そんなことをしたらひとつの産業が死んでしまう。国家広播電視総局のねらいは、悪質なゲームを排除することにある。問題になっているのは、「過剰な暴力表現」「歴史上の人物の過剰なフィクション設定」「女性キャラクターの過剰な肌の露出」だ。このような問題はゲームスタジオも理解をしていて、対応を進めているため、再び、国家広播電視総局は審査を通し始めている。

また、海外に配信するのであれば、国家広播電視総局の審査を受ける必要はないため、海外市場に軸足を移し始めてもいる。

ただ、いずれも時間のかかることであり、いったんコスト削減を行い、既存の投資資金を早めに回収して、次の段階に進むための体力を養っておく必要がある。そのためのリストラだった。

投資家はそのことをよく理解していて、テンセントの株価は2021年初めをピークに下落が続いていたが、リストラを行なった後、2023年に入って再び上昇をし始めている。

▲2020年秋頃まではテンセントの株価は下がり続けたが、ゲーム事業が再び動き始めると、株価も上昇していっている。