中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

主要テック企業はリストラの冬。安定成長へのシフトと香港上場問題

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今回は、冬の時代に入ったテック企業の現状をご紹介します。

すでに報道などでご存知だと思いますが、中国大手テック企業が軒並み大規模リストラを始めています。

EC大手の京東(ジンドン)の創業者、劉強東(リュウ・チャンドン)は、かつて京東の経営が苦しくなり、給料の遅配まで起こり始めた時に、「京東兄弟(社員)の一人たりともリストラしない」と宣言をしたことがあります。その京東までが「卒業」という言葉を使ってリストラを始めています。弾幕付き動画共有サービスの「ビリビリ」も卒業という言葉でリストラを始めており、「卒業」がネットの流行語になり始めているほどです。もちろん、アリババ、テンセントも例外ではありません。

 

このリストラの最大の要因は景気悪化です。このメルマガではすでに何度もご紹介していますが、社会消費品小売総額の統計が悪化をしています。日本の個人消費に近い、景気を見るための指標で、2021年の夏から急速に悪化をし、2021年12月には1.7%というところまで落ち込みました。

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▲2021年の社会消費品小売総額とその前年比。夏頃から前年比が悪化をし、12月には1.7%まで落ち込んだ。国家統計局の統計より作成。

 

中国は安定成長時代の成長率目標を5.5%に設定しているため、社会消費品小売総額の成長率も5.5%はないと困るわけです。なお、2022年の1月2月(春節が挟まるため、2ヶ月まとめて発表される)の速報値は、6.7%と及第点ラインに達しましたが、先行きはまだまだ不透明です。

なぜ、ここまで景気が悪化しているのか、理由は定かではありません。一般的には、コロナ禍が終わり切らないために、先行き不安を感じている人が多く、消費を抑えているからだとも言われます。

 

 

テック企業や大手企業が昨年から悪名高かった996制度を廃止し、週休2日制に移行したことも大きいのではないかと言う人もいます。996というのは、朝9時から夜9時まで週6日間勤務という意味で、長時間労働を象徴する言葉です。「vol.057:テック企業に蔓延する996。社会問題化する長時間労働問題」でもご紹介しました。

2019年に、あるエンジニアが「996で働いていたら病院のICUに入院することになる」という意味で、プログラミングコードの共有プラットフォーム「GitHub」に「996.ICU」というリポジトリを立てました(https://github.com/996icu/996.ICU)。ここから多くのエンジニアたちが「うちも996だ」という通報が相次ぎ、ネットで注目される言葉となりました。

これは確実に中国の労働法違反です。労働法では残業は1日に3時間、月で36時間を超えてはならないと定められています。

 

この996制度が話題になったことは、労働環境の改善につながりました。なぜなら、中国の労働法では、残業に関する賃金の規定もあり、残業は1.5倍、休日残業は2.0倍、法定祭日の残業は3.0倍の賃金を支給しなければならないことになっているからです。

しかし、「ハイテク企業従業員労働時間調査研究」(北京義聯労働法援助研究センター)の調査結果によると、残業代の1.5倍の賃金はほぼきちんと支払われていたものの、休日残業の2.0倍はわずか11%の企業でしか支払われず、法定祭日残業の3.0倍は31%の企業でしか支払われていませんでした。多くの企業が通常の残業代か、平日に振替休日を取らせることで対応していたのです。

社員の方も、通常の残業代さえきちんと支払ってもらえれば、休日、祭日残業の上乗せ分はそこまで厳密には要求していなかったようです。

しかし、996問題が注目されると、きちんと会社に対して要求する人が増えていきました。こうなると、企業としては残業をさせるのはコストが高くつくことになります。1人に残業させるより、2人雇って定時で帰ってもらった方がよくなるわけです。

 

このような流れで、2020年の末頃から2021年にかけて、多くのテック企業、大手企業が続々と定時退社、完全週休2日制の実施に踏み切りました。当初、私は疑っていて、建前は定時退社でも、本当は残業しているのではないかと思いましたが、中の人に聞いてみると、本当に定時退社になっていて、それまでに持分の仕事を終わらせられないと人事評価が下がるため、就業時間中はみなピリピリしているということでした。残業をしようとすると、上司から叱られるそうです。

これは労働環境という点では素晴らしいことですが、一方で、手取り収入が減るという大きな問題があります。完全週休2日制の前、隔週週休2日制を採用している企業がけっこうありました。しかし、多くの社員が毎週土曜日は出勤をして、月に2日分の休日出勤手当をもらっていたのです。社員にしてみれば、週休1日制だと思えばいいことで、会社側もボーナスの一環として黙認しているようなところがありました。それで、手取り給与を上げていたのです。

ところが、定時退社、週休2日制が完全実施されると、2割から3割は手取り収入が減ることになります。エンジニアは、時間はあるけどお金がない状況となり、せっかくできた時間に遊びにいくのではなく、次の転職に有利になるように新しい技術を勉強したり、プライベートプロジェクトを進めたりしている人が多いということです。

このような大手テック企業の状況は他社にも伝播をするもので、「お金を使わない」感覚が思った以上に広がっているのかもしれません。

 

中国は2000年前後から奇跡とも言える高度成長をしてきましたが、2010年代半ばからは、いかに安定成長に軟着陸をするかということが大きなテーマになってきました。社会と市場の仕組みを成長を前提としたものから、持続を前提としたものに変える必要がありました。この大きな変革をしている最中にコロナ禍が襲ってきたために、軟着陸が難しくハードランディングをせざるを得なくなっています。これが2021年に行われた独禁法違反に関する罰金、市場規制などにつながっています。

特に大手テック企業は、それまで拡大を前提とした経営をしてきたため、安定成長にシフトチェンジをすると言っても、エンジンが高速で回ってしまっているために、ローギアになかなか入りません。今になって、無理やりローギアに入れざるを得なくなり、さまざまな軋みが生じて、大規模リストラにつながっています。

 

今週、偶然にも2人の読者の方からご質問をいただきました。ほんとうにありがたいことで励みになります。詳しくはQ&Aのコーナーでご紹介しますが、そのうちのひとつの質問が次のようなものです。

アメリカのIT企業と異なり、アリババやテンセントをはじめとして中国のIT企業の株価は2021年に大きく下落しています。中国系ITジャイアントの株価はこのまま停滞するとお考えでしょうか?」。

私は株式市場の専門家ではないので、直近の株価がどうなるかはもちろんわからないわけですが、長期トレンドを考える時に、どのような要素が効いてくるかということであればご紹介することができます。今回のメルマガテーマとも大きく関わる話なので、本文の中で、回答(というよりも考えるための材料提示)をしたいと思っています。特に重要なのが「米国市場からの上場廃止、香港上場」問題です。

今回は、アリババ、テンセント、京東といった大手テック企業が、安定成長に向けてどのように動いているかをご紹介し、テック企業が抱える大問題「香港上場問題」についてご紹介をします。

 

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今月発行したのは、以下のメルマガです。

vol.118:北京冬季五輪で使われたテクノロジー。デジタル人民元から駐車違反まで