中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

アリペイ非対応のウォルマートの閉店が続く。決済の選択肢が減ったことが原因か?

世界最大の小売業ウォルマートの中国店舗が続々と閉店し、店舗数を調整している。ECの躍進、消費者の都市化などさまざまな要因があるが、ネットで指摘されているのは、テンセントとの提携によりアリペイへの対応をやめ、WeChatペイのみ対応にしたことが影響していると言われていると大視野伝媒が報じた。

 

小額の日常決済に使われるWeChatペイ

中国のスマホ決済は、テンセントのWeChatペイとアリババのアリペイの2つが強く、多くの人が両方を使っている。しかし、どのように使い分けているのだろうか。

もちろん、人によっても異なるが、WeChatペイはSNSに強く、アリペイは金融に強いという違いがある。中国のスマホ決済のそもそもは、SNSの「WeChat」が、利用者同士で換金ができるポイントを受け渡しできるようにしたことが始まりだ。これにより、動画など面白いコンテンツを発表した作者に対して「投げ銭」ができるようになり、コンテンツ創業者を生むきっかけになった。

対面で購入する商店でも、店主がWeChatの利用者であれば送金が可能だが、アカウントをいちいち入力するのは面倒なので、アカウントをQRコードで表示して、簡単に送金ができる仕組みを導入した。これが、QRコードによる対面決済につながっていった。

 

高額決済に使われるアリペイ

一方、アリペイはアリババのECサイト「淘宝」(タオバオ)などで、オンラインでの決済をするために始められた。これがWeChatがQRコードを使って対面決済が行われているのを見て、QRコード決済にも対応をしていった。

アリペイが一気に普及をしたのは、「余額宝」(ユアバオ)が人気になったことだ。これは、資金をまとめてアリババ傘下のアントフィナンシャルがMMFに投資をするという理財商品だ。アリペイの資金を預けておくだけで、最高時には年利7%近い利息がついた。24時間いつでも1元単位で引き出すことができる利便性から、給料が出たらほぼ全額を余額宝を入れて、そこから必要な決済をアリペイで行うという人が急増した。

このような違いがあるために、どちらかというとWeChatペイは「対面」「小額決済」に使われる傾向があり、アリペイは「オンライン」「高額決済」に使われる傾向がある。

もちろん、これはあくまでも傾向であって、人によってはWeChatペイだけ、アリペイだけということもある。いずれにしても、多くの店舗、オンラインで、両方に対応をしているのが当たり前なので、困ることはないのだ。

 

ウォルマート閉店の流れはアリペイ拒否が原因?

世界最大のスーパーチェーン「ウォルマート」ももちろん中国に進出をしていて、400店舗を展開していた。しかし、この数年、閉店する店舗が続き、店舗数の調整に入っている。2016年から毎年10店舗から20店舗のペースで閉店をしている。

最も大きな理由は、ECや新小売に売上を圧迫されていることだ。中国では生鮮食料品ですら買いに行くのではなく、宅配してもらうようになっていて、ウォルマートに買い物に行き、大量の商品を買い、自分で持って帰るというスタイルが古くなりつつある。

もうひとつ、メディアが指摘しているのがアリペイが使えず、WeChatペイのみにしか対応をしていないということだ。2018年3月から、一部の店舗でWeChatペイ、銀聯カード、クレジットカード、現金などにのみ対応し、アリペイでの支払いができなくなり、ほぼ全店舗でアリペイが使えなくなった。これが客離れを招いたという指摘だ。

経営難になったウォルマートは、テンセントと業務提携をして、デジタル化やスマート小売(テンセント版新小売)への対応を始めた。このプロセスの中で、アリペイへの対応をやめて、WeChatペイのみに対応するということになったようだ。ただし、テンセントは「あくまでウォルマートが決定したことで、その決定を尊重する」と答えるのみで、排他的契約を求めたようなことはないと答えている。

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▲この数年、ウォルマートは毎年10店舗以上のペースで閉店が続いている。

 

消費者から嫌われた「WeChatペイのみ対応」

しかし、これは大きな問題になった。消費者の選択肢を狭めてしまうという問題が指摘され、消費者保護法にも触れるのではないかとも指摘された。

iiMedia Researchが行ったアンケートによると、アリペイ禁止に好感を持ったのはわずか10.8%で、52.5%が否定的だった。しかも、全体の22.3%がもうウォルマートでは買い物をしないと答えている。

実際、多くの消費者が戸惑った。多くの商店で、アリペイとWeChatペイのうち、自分の都合のいい方で支払えるのが当たり前で、まさか大型スーパーでアリペイが使えないとは思わない人が続出をした。2018年3月以降、ウォルマートで買い物をして、レジにきて初めてアリペイが使えないことを知り、そのままカートを放置して帰る人が続出したと言われている。

アリペイに対応をしていないのはウォルマートだけではない。EC「京東」もテンセントが株主である関係でアリペイに対応していない。しかし、京東は独自の決済「京東支付」が基本で、しかも、買い物をするたびに大量の京東ポイントが付与される。そのため、WeChatペイで京東ポイントを購入して、最終的にはポイントを使って、京東支付で支払う人が多い。大量のポイントというお得があるため、アリペイ非対応に不満を持つ人は少ない。

しかし、ウォルマートではそのような還元ポイントは多くない。日用品を買いたいだけなのに、決済方法が限定されることから、客離れがさらに進んだのではないかと言われている。

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ウォルマートのアリペイへの対応を取りやめる告知。ネットでは、これがウォルマート経営難の原因になったと指摘されている。

 

テンセントの提携が裏目に出ている

しかし、掲示板などの書き込みを見ると、多くの人がウォルマートに対して抱いている不満は、高いということだ。カルフールや永輝と比べて、同じ商品が割高であることが多いという。一方で、ウォルマートでしか購入できない商品というのは多くない。

ウォルマートが低迷をしているのは、そういうシンプルな理由だと指摘するネット民もいる。

ウォルマートとしては、テンセントと全面提携をし、WeChatペイに絞ることで、セルフレジや店舗ECなどのスマート小売施策を加速させようとしたのだろうが、それが裏目に出てしまった形だ。

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▲テンセントとの提携で始まったウォルマートの「スキャンショッピング」。入場する時にWeChatペイのQRコードを読み込ませ、購入する商品のバーコードをスマホで読み取り、セルフレジで再度QRコードを読み込ませて決済する。レジに並ばなくていいという利点はあるものの、すべての商品のバーコードを自分で読み取らなければならず、利用している人はあまり多くない。

 

カルフールに続き、ウォルマートも重大局面

この数年、中国の小売業は地殻変動が起きている。その中で、資本関係の近いテンセントと提携することで乗り切ろうという安易な選択をしてしまった。小売業のあり方が変わり、消費者の意識が大きく変化をしている中では、現場をよく観察し、そこで何が起きているかを分析し、対応をしていくことが重要だが、ウォルマートはあたかも企画書の中だけで対応策を考えているかのような遅さ、消費者の心をつかむことができない施策に終始している。

特に新型コロナウイルスの感染拡大により、人が密集するスーパーは避けられる傾向が生まれ、それが定着をしようとしている。これはウォルマートにとっても大きな打撃になっているはずだ。もはや、ウォルマート流の「魅力的な場を作って、消費者を引き寄せる」という方法論が通用しなくなっている。

ウォルマートも、カルフールに続き、重要な局面を迎えている。