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ミニプログラム経由の消費が12.5兆円。アリババとテンセントの激しい競争が再び始まる

テンセントのWeChatチームが、始まって3年になるWeChatミニプログラムの各種数字を公開した。それによると、2019年の1日あたりのアクティブユーザー数は3億人に達し、2019年だけで8000億元(約12.5兆円)の商取引が行われた。これは2018年から160%も増加するという大幅なものだったと電商報が報じた。

 

新規利用のハードルが低いミニプログラム

WeChatミニプログラムは、SNS「WeChat」の中から呼び出せるアプリ内アプリ。ゲームなどもあるが、利便性が高いのはカフェなどの飲食店や小売店のミニプログラムだ。店舗に行く前に飲料などを注文しておけるモバイルオーダー、小売店の在庫を確かめて取り置き、宅配をしてもらえる新小売などを利用できる。

できることは基本的にネイティブアプリと同じだが、ネイティブアプリが「ダウンロード」「アカウント登録」「決済方式設定」をしなければならないのに対して、WeChatミニプログラムは、「いつでも呼び出すことができ」「アカウント登録不要(WeChatアカウントが自動的に使われる)」「決済方式設定不要(WeChatペイが自動的に設定される)」などのメリットがある。

この利便性を最も体感できるのが、街を歩いていてコーヒーを飲みたくなった時だ。WeChatから「付近のミニプログラム」を検索すると、位置情報から付近に店舗があるチェーンのミニプログラムが一覧できる。その中から、好きなカフェを選ぶことができる。アカウント登録など不要なので、初めて利用するカフェでも構わない。

ミニプログラムからモバイルオーダーで注文、決済もWeChatペイで自動的に行われる。地図を見て、店舗に行けば、その頃には商品ができあがっているのすぐに受け取れる。

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▲テンセントのミニプログラム関連のカンファレンスの様子。2019年のミニプログラム経由の消費が8000億元を突破し、160%成長と2.6倍になったことが発表された。


無視できない取引額になったWeChatミニプログラム

1日のアクティブユーザーが3億人、取引額が8000億元というのは、かなり大きな数字だ。Tik Tokの1日のアクティブユーザーが4億人、中国版ツイッター「ウェイボー」が2.16億人だ。

また、急速に成長をしてアリババに次ぐ第2位のECに成長した「拼多多」(ピンドードー)の2018年の取引総額が4716億元であることを考えると、WeChatミニプログラムは巨大なIT企業がひとつ誕生したことに相当する。

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▲ミニプログラム経由での消費は、映画館のチケット購入、飲食店へのモバイルオーダー、ホテル予約、シェアリング自転車、タクシー予約、交通機関チケット購入、ECなど。飲食店予約、公共交通運行状況、天気、ラジオ視聴などにも使われている。

 

当初はカジュアルゲームぐらいしか話題にならなかったミニプログラム

WeChatペイのミニプログラムがスタートしたのは、2017年1月9日だが、当初はあまり話題にならなかった。きっかけとなったは、「跳一跳」というカジュアルゲームのミニプログラムだった。飛び石のようなものが現れ、画面を長押しすることで、キャラクターのジャンプする距離を調節し、うまく次の飛び石にジャンプさせるという単純なものだ。

その単純さ、気軽さが受け、合計4億人が遊ぶゲームとなった。これがきっかけとなり、2018年7月にはミニプログラム数が100万件を超え、本格的に利用されるようになっていった。

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▲2017年にミニプログラム機能がWeChatでスタートした時は、あまり話題にならなかった。しかし、ミニゲーム「跳一跳」が受けたことで知られるようになり、利用者が増えると、小売業が続々とアプリからミニプログラムに移行をしている。

 

ECをもたないテンセントの戦略

このミニプログラムの成功により、アリババとの競争が激化すると言われている。アリババは、「淘宝」(タオバオ)、「天猫」(Tmall)などのECを中心にし、スマホ決済「アリペイ」、それに付随する金融(クレジット機能)などの領域でビジネスを行っている。

テンセントは、SNS「WeChat」とWeChatペイを中心に、小売企業などの支援、そして「王者栄耀」「PUBG Mobile」などのスマホゲームなどの領域でビジネスを行っている。

しかし、テンセントはこれまでECサービスを行ってこなかった。そのため、京東、拼多多、唯品会などのECサービスに積極的に投資を行ってきた。

しかし、ミニプログラム全体で見れば、タオバオと同じように在庫を持たずにマッチングさせるタイプのECと見なすことができる。WeChatのユーザー全員がミニプログラムを使って消費をするわけではないが、WeChatユーザー数は11.51億人。アリババのECのユーザー数は7.85億人で、大きく上回っている。そのポテンシャルは大きい。

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▲ミニプログラムの例。WeChatの中から履歴、ブックマークなどを使って、呼び出すと、位置情報から自動的にいちばん近い店舗のページが表示される。そこでは、商品の売り切れ状況などを確かめることができ、購入をして、店舗受取、宅配などをしてもらうことができる。アカウント登録は不要で、決済は自動的にWeChatペイで行われる。

 

SNSをもたないアリババとの激しい競争が始まる

WeChatミニプログラムは、目に見えないEC、目に見えない新小売として、無視できない存在になってきている。アリババも「アリペイ」内でミニプログラム機能を始めているが、WeChatに水を開けられている。

また、WeChatミニプログラムは、SNS「WeChat」との連携が容易で、ミニプログラム内の情報、クーポンなどをWeChatで簡単に拡散をしていくことができる。これを利用した「拼多多」に代表されるソーシャルECと呼ばれる新しいタイプのECも生まれている。アリババは、ユーザー数の多いSNSを持っていないという点でも、テンセントに遅れをとっている。

BATと呼ばれる中国テック企業3巨頭は、百度、アリババ、テンセントとも今まではビジネス領域が重ならないように棲み分けてきたところがある。しかし、いよいよミニプログラム=EC、新小売という分野で、アリババと直接衝突するようになっている。激しい競争が始まることは明らかだ。

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