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ケンタッキー、スターバックス、カルフールの中年の危機。救うのは新小売テクノロジー(下)カルフール編

中国に進出した外資系企業の多くが、中年の危機に陥いり、伸び悩んでいる。これを打ち破るには、中国法人で決断ができる自律性と新小売テクノロジーを取り入れていくことが重要だと媒介360が報じた。

 

中年の危機を脱出するには新小売テクノロジー

中国に進出した外資系企業は例外なく、いつか中年の危機を迎える。中国市場で生き残るには、変化の速さに追従していくことが条件となるが、外資系企業の場合は、海外にある本社の判断を仰がなければならないため、決断のスピードがどうしても遅くなるからだ。中国企業でも市場の変化についていくのに必死であるのに、決断ができない中国支社を置いても、無数の龍がうねっているような中国市場で、埋没して終わってしまう。

ケンタッキー、スターバックスは、中国で決定が下せる仕組みづくりをし、アリババの新小売テクノロジーを取り入れることで、回復の道を模索し、それなりの成果が出始めている。

 

テンセントとアリババの波間に沈没をしたカルフール

対照的なのが、カルフールだ。カルフールは一時、テンセントに売却されるという報道が流れたが、カルフール側が否定。しかし、テンセントと業務提携をし、テンセントのスマート小売テクノロジーを導入して、回復の道を模索していた。

ところが、2019年6月になって、家電量販店チェーン「蘇寧易購」に売却されることが決定した。蘇寧易購は、アリババ系の企業だ。当然、テンセントとの業務提携は白紙に戻されることになる。アリババ系列に入って、カルフールがどのようになるかはまだ見えていない。カルフールの名前が残り、そのまま営業を続けるのか、あるいは解体されて、アリババの新小売の仕組みのパーツになる可能性もある。

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▲中国の小売は、アリババ系とテンセント系に集約されている。カルフールはテンセントと業務提携をしていたが、一転して、アリババ系の蘇寧易購に買収されることになった。

 

スーパー文化を中国にもたらしたカルフール

フランスの大手スーパー「カルフール」は、1996年に上海と深圳に進出をし、中国人の生活を大きく変えた。それまで中国人が見たことがない輸入食品が、大量に陳列されていたからだ。毎日市場に食品を買い物に行き、食事を作るという中国人の生活が、週末に車でカルフールに行き、まとめ買いをする生活に変わった。現在、華南地域を中心に236店舗を展開している。

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▲1996年という早い時期にカルフールは中国に進出をした。「家が楽しく福がくる」という中国名(発音はジャーラーフーで、カルフールの音を取っている)は、中国人にも親しみやすく、中国の大型スーパーの文化をもたらした。

 

2016年から急激に業績が悪化

しかし、2016年頃から急速に経営が悪化をした。コンビニの進出、新小売スーパー、生鮮ECなどの利用者が増え、食料品は新小売スーパーやECで配達をしてもらい、足りないものは近くのコンビニで補うという生活スタイルに変わり、わざわざ大型スーパーまで行く人が減り始めたのだ。

もともとカルフールは利益率を抑えて、大量に販売することで成り立っていたため、小さな影響が経営には大きな打撃になった。2017年には売上が5.4%のマイナスとなり、採算が悪化している店舗の撤退を始めている。この頃から、たびたび身売り報道が出て、カルフールは撤退するのではないかという観測が立つようになった。このような報道がイメージを低下させ、さらなる客離れを起こすという状況に陥っていた。

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▲テンセントと提携して、顔認証セルフレジを導入。「レジに並ばなくていい」ことで回復の道を探ろうとした。

 

テンセントのテクノロジーを導入して新小売スーパー 化

カルフールが選んだ道は、テンセントとの提携だった。テンセントの持つWeChatペイ(スマホ決済)、顔認証決済、セルフレジ、電子タグなどの技術の全面導入を始めて、カルフールを新小売スーパー(新小売はアリババの用語で、テンセントではスマート小売と呼んでいる)化していった。

店内に「WeChatスキャン購入」コーナーも設けた。来店客はこのコーナーの商品であれば、WeChatミニプログラムで商品バーコードをスキャンするだけでWeChatペイ決済が行われ、そのままカバンに入れて、専用通路から外に出られる。飲料を1本だけ買いたいという時に、わざわざレジに並ぶ必要がない。

また、一般レジにもWeChatペイ顔認証セルフレジを全面導入して、「スーパーはレジで行列をしなければならない」というイメージを刷新しようとしていた。

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▲テンセントと提携してスキャン購入コーナーも新設をした。専用の入り口で、WeChatで個人認証して入場し、あとは自分で商品のバーコードをスマホでスキャンする。これで決済が行われるので、そのまま商品を持って外に出ることができる。

 

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▲スキャン購入では、自分で商品のバーコードをスキャンして決済をする。そのまま商品を持って帰ることができるので、飲料を1本買いたい時などには便利な仕組みだ。

 

敗北の理由は中国人を排除した経営

しかし、結果は、アリババ系の蘇寧易購への身売りだった。蘇寧易購は、カルフールの株式の80%を48億元(約757億円)で購入して、大株主となった。一見、大きな金額に見えるが、カルフールのライバルであった永輝スーパーの企業価値が1000億元(1.57兆円)であることを考えると、叩き売りに近い。

カルフールがなぜここまで落ちたのか。その理由を中国メディアは、中国人を排除していたことにあるとしている。カルフールの中国台湾地域の総裁は、2011年からティエリー・ガニエル氏が務めているが、それ以前から代々フランス系外国人であり、経営陣に中国人はいなかった。このため、中国の消費者の感覚や市場状況に疎かったのではないかと言われる。

また、中国企業との提携も頑なに拒否をし続けた。カルフールカルフールだけでビジネスをし、当初はそれでうまくいっていた。ところが2016年ごろから、どうにも隠しようがないほど、収益が悪化していた。

 

自前の物流網を構築しなかったカルフール

そもそもカルフールは、中国では自前の物流網を構築しなかった。メーカーに直接店舗まで配送させるのだ。各店舗の店長が、Aというメーカーの商品を発注する。Aというメーカーは、その注文に応じて、各店舗まで配送をしなければならない。ずいぶんな話だが、メーカーにとっては、カルフールの強い販売力が魅力だったのだ。

これにより、中国のカルフールは低コストで、ビジネスを展開することができた。さらに、思わぬ効果も生まれた。各店舗の中国人店長が、商品の発注数を決め、さらには実売価格も決められた。地域の事情をよく知っている店長が、最適な販売手法をとることで、各店舗の売上が上がっていったのだ。

 

店舗の裁量権が奪われ、人材流出も

しかし、永輝、大潤発などの国内系スーパー、米ウォルマートなどが、自前の物流網を構築して、売上を上げてきた。一括購入、大量仕入れによるコスト圧縮、物流が即応できるため欠品が起こらない、鮮度の高い食料品を提供できるなどの点で、カルフールは遅れをとるようになっていった。

ガニエル総裁は、2015年にカルフールの大改革を行なった。仕入れセンターと自前の物流網の構築に踏み切ったのだ。しかし、これが店長の裁量権を奪ってしまった。発注数は、本部からの割り当て数を無視することができなくなり、実売価格も本部からの指示を無視することができなくなっていった。

さらに、売上が不振であったため、賃金カットも行われていった。優秀な店長スタッフ、店舗スタッフがこの頃から流出をし始める。

ますます苦しくなるカルフールを立て直そうと、ガニエル総裁はテンセントとの業務提携を決断した。しかし、V字回復とはいかなかったようだ。

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カルフールを改革した中国台湾地区のティエリー・ガニエル氏。経営陣をフランス系外国人で固めて、中国人を排除したのが、カルフールの敗因だと指摘されている。

 

あらゆる決断が一歩遅れるカルフール

このようなガニエル総裁の一連の改革は、カルフールとしたら、相当に思い切った改革だ。しかし、すべてが一歩遅く、後追いの後手にしかすぎない。

経営陣がフランス系外国人で固められているため、経営陣は中国人消費者の感覚を理解できない。状況が悪化をして、報告書として提出されてから、問題に気がつく。それから対応策を練り、対応をする。あらゆることが一歩遅れるのだ。これがカルフールの衰退を招いた最大の原因だと、多くのメディアが指摘をしている。決断スピードを速めて、新小売テクノロジーを取り入れて、回復の道を模索するケンタッキーやスターバックスとは対照的だ。

蘇寧易購に買収されたカルフールは、当面、蘇寧易購の生鮮ECと組み合わされて活用することになる。「カルフール」という名前がいつまで残されるか、それは保証されていない。