ファーウェイが「あえて上場しない」企業であることは有名だ。上場することのメリットよりも、デメリットの方が大きいと判断をしている。ファーウェイだけでなく、中国には上場をしない老舗企業がいくつもある。その多くが、「スピード感」と「資金は自己調達できる」を理由に上場しない方針をとっていると知産視点が報じた。
ユニコーン企業もいずれは上場をする
起業をしたら上場を目指すのは当然のことと考えられている。株式を公開すれば、広く投資資金を集めることができ、事業をさらに大きく拡大することができるからだ。また、創業者は自社株を大量に保有しているのが通例なので、創業者自身も一夜にして富豪の仲間入りをすることができる。
一方で、未上場でありながら事業規模が大きくなった企業はユニコーン企業と呼ばれる。ユニコーンは伝説の聖獣で、「話にはよく聞くが、誰も実際には見たことがない」ということからのネーミングだという。
最近ではユニコーン企業の定義として「未上場」「評価額(投資総額)10億ドル以上」「起業10年以内」「テック企業」の4つがよく言われる。
有名なところでは、Airbnb、SpaceXなどがある。以前はUber、Pinterestなどもユニコーン企業と呼ばれていたが、すでに上場をし、Airbnbも上場を計画していることが報道されている。
中国でも状況は似ている。以前は、ユニコーン企業の代表格と言えば、スマホ決済「アリペイ」を運営するアントフィナンシャル、ライドシェア「滴滴出行」、モバイルオーダーカフェ「ラッキンコーヒー」、スマホ&家電メーカー「小米」(シャオミー)の4社の名前が挙げられることが多かったが、このうち、ラッキンコーヒーと小米はすでに上場を果たしている。また、アントフィナンシャル、滴滴出行も上場を準備中だと報道されている。
つまり、ほとんどの企業は、起業をしたのであれば、上場を目指すのが一般的なのだ。
あえて上場をしないファーウェイ
しかし、中国には「あえて上場をしない」大企業がいくつかある。その代表格は、ファーウェイだ。2019年第1四半期から第3四半期までの総収入は6108億元(約9.6兆円)。利益は531億元(約8300億円)となり、中国最大のテック企業であることは間違いない。
しかし、ファーウェイは「戦略的に上場をしない」方針を貫いている。それはなぜなのか。
創業者の任正非(レン・ジャンフェイ)は、その理由を問われて、こう語ったことがある。「豚は肥えると、鳴かなくなる」。社員を豚に喩えているが、中国では侮蔑的な意味合いはない。
「テック企業を前進させるのは人材です。企業が早く上場をしてしまうと、主要メンバーは富豪になってしまいます。それは素晴らしいことなのかもしれませんが、仕事に対する情熱は失われてしまい、ファーウェイにとっていいことではありません。若くして大きなお金を持ってしまうと、向上心が失われ、その人個人の成長にとってもいいことはありません」。
▲中国屈指のテック企業「ファーウェイ」。ファーウェイが上場をしない方針であることから、「上場をしない」企業方針が見直されている。
中国版LLCを採用しているファーウェイ
これは社員に押し付けているだけでなく、任正非自身も実践している。任正非は創業者でありながらファーウェイの株を1.4%しか持っていない。残りの多くは、8万人の社員からなる社員持株会が保有をしている。
社員は、自社株を保有することで、配当を受け取ることができ、子どもの進学や家の新築といった大きなお金が必要な時に、社員持株会に売却をすることでまとまった額を手にすることができる。
また、ファーウェイは株式会社ですらなく、中国版LLC(合同会社)の方式を採用している。これは、議決権のあり方を株式比率ではなく、約款で別途定められるというものだ。これにより、任正非と孫亜芳の2人で、重要事項を決定できる仕組みになっていると言われ、巨大企業でありながらスピード感のある決定ができるようになっている。
大株主の横やりが入ることもなく、ファーウェイは莫大な研究投資をスピーディーに行える。これがファーウェイが上場をしない理由になっている。
現金決済を今でも続ける老干媽
中国最大のラー油メーカー「老干媽」(ラオガンマー)も上場をしていない。1996年に会社組織にして以来、右肩上がりに成長し、売上は45億元(約706億円)を突破している。豆鼓やピーナッツが入った具入りラー油が人気で、日本でも「食べるラー油」として愛好者がいる。
老干媽は会社組織になる以前からの商習慣をいまだに続けている。驚くことに、今でも売掛、買掛の仕組みを導入してなく、取引はすべて現金決済なのだという。老干媽では、10数億元の現金が日々動いている。
さらに、6つの方針を貫いている。「堅実経営」「脱税しない」「借金しない」「現金決済」「他社株を保有しない」「上場しない」だ。
創業者の陶華碧はこう語っている。「上場はしません。上場すると、企業が傾きます。上場というのは投資家を騙してお金を集めることで、返済することのない借金です。ですから、政府の人間が私に上場を勧めた時も、私はその話はしないと言いました。お金が欲しいのかと言われれば、いらない。命さえあればいいのです」。
▲たべるラー油で有名な老干媽。創業当時の商習慣を今でも続けていて、すべての取引が現金決済で行われているという。
事業資金は自分で出せる娃哈哈
中国最大の飲料メーカー「娃哈哈」(ワハハ)も上場をしていない。創業者の宗慶后は、ワハハだけでなく、子ども服、不動産などさまざまな分野の160社の株式を保有し、中国屈指の富豪になっている。
しかし、上場をしないのは宗慶后の方針というよりも、現実的な問題もある。中国の規定では、上場をするためには、株主数が200人以下でなければならない。しかし、ワハハはその成長の過程で、株主が1万5000人にもなっている。
これを200人以下に整理していくのは事実上不可能であるため、上場ができない。また、宗慶后もワハハもお金に困っていないので、事業資金が必要な時は、市場に求める必要はなく、自分のポケットから出せる。すでに中国屈指の富豪になっている宗慶后にとって、上場をしても何もメリットが生まれないのだ。
▲娃哈哈は中国最大手の飲料メーカー。創業者の宗慶后は、中国屈指の富豪になっていて、事業資金も個人で出せるほどになっている。
上場してもメリットがない立白
洗剤メーカー「立白」(リーバイ)も上場をしていない。中国最大手の洗剤メーカーで、売上は160億元(約2500億円)を超えている。
立白の副総裁、首席広報官の許曉東は、こう語っている。「上場の目的は2つあります。ひとつは知名度を上げること。もうひとつは資金調達です。この2つは私たち立白には必要ありません。毎日広告をし、すでに誰もが知るメーカーになっていますし、資金は潤沢にあります」。
▲洗剤メーカーの立白は、知名度が高く、資金も潤沢であるため、上場をして市場から資金調達をする必要を感じないという。
見直される「あえて上場しない」方針
日本にも、戦略的に上場をしない企業はたくさんある。サントリー、竹中工務店、ダイソー、佐川急便、JTB、エースコック、ヤンマーなどが有名だ。上場しない理由はさまざまだが、多くの場合、スピード感のある決定を重視している。
特にメーカーは、「作って、売って」というシンプルなビジネス構造であるため、上場するメリットが少ない。中国でもファーウェイの成功により、「上場しない戦略」が見直されている。