テック企業が成功をすると、まずやることが豪華な自社ビルの建設だ。ランドマークとなるような高層建築、あるいはユニークなデザインにして、存在感を知らしめる。しかし、ファーウェイは広大な敷地の基地は作るものの、豪華なビルは建設しない。2つの基地以外の都市のオフィスはいずれも賃貸物件だ。それには創業者、任正非の考え方があると商界績効管理が報じた。
売上はアリババの2倍以上
米中貿易摩擦の標的にされているファーウェイ。しかし、ビジネスは好調だ。2019年の売上は8588億元(約12.9兆円)となり、前年から19.1%増加した。ファーウェイは戦略的に上場をしないので企業価値が算出できないため、中国のテックジャイアントを表すBAT(百度、アリババ、テンセント)に含められることは少ないが、アリババの2019年の売上が50.5%増の3786億元であることを考えると、ファーウェイがいかに巨大企業であるかがわかる。売上ではアリババの2倍以上あるのだ。
自社ビルを持とうとしないファーウェイ
中国の成功したテック企業がまずやることは「大厦」(ダーシャ)と呼ばれる自社ビルを建設すること。その多くは高層建築であったり、著名な建築家に依頼をしたユニークなデザインなものであったりして、その土地のランドマークとなるような建物を建て、そこに企業のロゴを高々と掲げることが成功の証になっている。本部だけでなく、各都市にもランドマークとなる建物を置いていくというのが一般的だ。
しかし、ファーウェイはなぜか「ファーウェイ大厦」と呼ばれる建物がない。本部は深圳市の坂田にあり、本部の建物も20階建ほどで、建築デザイン的な面白味もあまりない普通の建物だ。
ファーウェイは、他のテック企業と同じように北京、上海、武漢、長沙、成都、昆明などに拠点を持っているが、すべて賃貸物件だ。自社所有の豪華ビルを持たないという点でも、ファーウェイは他のテック企業と一線を画している。
▲テンセントの本社ビル。ユニークなデザインで、深圳のランドマークとなっている。
▲北京にある百度本社ビル。直線と曲線を融合したデザインになっている。
▲杭州市にあるアリババ傘下のアリクラウドビル。アリババのビルは、いずれもユニークなデザインになっている。
▲杭州市のアリババビル。ユニークなデザインで、杭州市の観光名所にもなっている。
▲ファーウェイ坂田基地の本部ビル。大きな建築物はこの本部ビルぐらい。
東京ディズニーランド3個分の坂田基地
ただし、ファーウェイがケチだとか、節約好きというわけではない。深圳市坂田の本部は、敷地が1.2平方キロもある広大なものだ。東京ディズニーランド3個分に相当する。この敷地に本社の他、研究センター、研修センター、百草園と呼ばれる単身者向けの住宅などが点在している。そのため、「坂田基地」と呼ばれている。
この坂田基地は、深圳市の中心部からはかなり離れている。この坂田基地の建設が始まったのは1996年のことだが、当時、深圳のテック企業は、中心部の深南大道に高層ビルを建築するというのが常道だった。この当時の坂田基地は、何もない荒れ野だった。そこにファーウェイは2階建ての社屋をいくつか建てたことから坂田基地が始まっている。
▲ファーウェイの坂田基地全景。本部ビルと円形のホールの他は、大きな建築物はほとんどない。
▲坂田基地内にある社員寮「百草園」。松山湖基地でも社員用マンションの建設を進めている。
ヨーロッパのお城風の松山湖基地
2018年には、深圳市の北側に隣接する東莞市に「松山湖基地」を建設した。こちらも1.3平方キロという広大なもの。ヨーロッパのお城風の建物が並び、移動のための高山列車風鉄道まで走っている。研究施設が多く、社員住宅なども建設されている。
一見、豪奢に見えるが、総工費は100億元程度と見積もられている。ファーウェイの売上を考えれば、大きな額とも言えない。
▲ヨーロッパのお城風の松山湖基地。研究施設が中心になる。
お金はビルではなく、人に使う、製品と研究に使う
このような奥ゆかしさは、すべて創業者の任正非(レン・ジャンフェイ)の思想によるものだ。「一流の大学は、高層ビルがあるかどうかでは決まらない。企業の実力は豪華な本社ビルがあるかどうかでは決まらない。お金は奮闘する者に配分すべきで、製品と研究に使うべきだ。それでこそ、顧客に価値を提供できるようになる。これがファーウェイが追求したいことなのだ」と語っている。
この言葉は建前だけのことではない。実行が伴っている。ファーウェイは中国一報酬が高い企業で有名だ。しかも、創業者である任正非は、ファーウェイの株式を1.4%しか保有していない。その多くは社員持株会が所有をし、ファーウェイの社員は高い給料の他に、自社株を持つことができる。これは「富散人聚」と呼ばれ、利益のほとんどを社員に分配してしまうことで、優秀な人材を集める施策だ。
もし、任正非が強欲で、ファーウェイの株の大半を保有していたとしたら、任正非は比喩ではなく、小さな王国を維持できるほどの大富豪になっていただろう。しかし、それをしていたら、今日のファーウェイは存在しないかもしれない。
▲坂田基地は、深圳の中心部からはかなり離れている。中心地から見ると、丘を超えた向こう側にあるという感覚だ。
莫大な研究投資をするファーウェイ
ファーウェイは研究開発にも莫大な額を費やしている。2019年度の研究開発費は、1317億元(約1.99兆円)で、売上の15.3%となる。ちなみにアップルの2019年度の売上は2601億7400万ドル(約27.8兆円)、研究開発費は162億1700万ドル(約1.73兆円)で、約6.2%となる。
つまり、ファーウェイはアップルの半分以下の売上であるのに、アップル以上の研究開発を使っている。
それだけではない。「情報通信白書平成元年版」(総務省)によると、2017年度の日本の情報通信産業全体の研究費の総額は3.7117兆円になっている。つまり、日本全体でも、ファーウェイ1社の2倍はないのだ。しかも、2007年には4.7兆円あったものが年々減少傾向にある。
儲かったら、それで贅沢をするのではなく、人と知恵にお金を注ぎ込む。それがファーウェイをファーウェイにしている。自社ビルを建設して、自慢をするような行為はファーウェイ的ではないのだ。
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