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アリババの新小売スーパー「フーマフレッシュ」は、なぜ30分配送を実現できたのか?

アリババが展開する新小売スーパー「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)が強い。その秘密は、周囲3km以内に最短30分配送を実現しているからだ。なぜフーマフレッシュは30分配送にこだわるのか。そして、なぜ他のスーパーは真似ができないのか。泰絲科技が解説した。

 

ECと実体店を組み合わせることで生鮮食料品の宅配ECが可能になる

アリババの新小売(ニューリテール)戦略の要、「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)が既存スーパーを圧倒しながら成長している。フーマフレッシュは、生鮮食料品を販売するスーパーだが、周囲3km以内には宅配をするのが特長。フーマ専用アプリから商品を注文すると、最短30分で自宅、職場などに配送してもらえる。

実体店スーパーは、これ以上の集客が難しくなっているという痛点を持っている。ECサイトは都市部では普及をし、これ以上の成長が難しいという痛点を持っている。フーマのロジックは、この両者の痛点を同時に解消するものだ。

ECサイトがさらに成長するためには、生鮮食料品を扱うことだが、多くの消費者は、生鮮食料品に関しては、現物を見て品質を確かめてから買いたいと考える。そのため、ECでは加工食品は売れるものの、野菜や果物、魚、肉といった生鮮食料品はなかなか売れない。

フーマフレッシュの配送地域は、店舗から3km以内。この地域に住んでいる消費者は、店舗に現物を見にいくことができる。しかも、その食材を使った料理を食べるレストランも併設されている。消費者は、店舗に何度か行き、扱われている食料品の品質を知ることで、宅配ECを利用するようになっていく。

フーマフレッシュは、消費者にありとあらゆる手段で消費者に宅配ECを使うように誘導し、すでに売上の50%以上が宅配ECによるものになっている。

実体店の集客には限界があるが、宅配ECと組み合わせることで成長できる。フーマフレッシュでは、単位面積あたりの売上が同規模スーパーの3.7倍にもなっている。

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▲フーマフレッシュの店内。内陸都市には珍しかった新鮮な海産物が大量に販売されている。利用者によると、品質もすごくよく、かつ安いという。

 

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▲店内の広告。「フーマ区に住む」というコピー。フーマフレッシュの配送地域に住むことがステイタスだというプロモーションを行っている。

 

30分であれば待っていられる

このフーマフレッシュのビジネスを支えているのが「30分配送」だ。国内系スーパーの永輝は「超級物種」、ECサイトの京東は「7フレッシュ」で同じ新小売スーパーを展開し対抗しているが、30分配送がなかなか実現できずに苦戦をしている。

フーマフレッシュを展開するときに、アリババは「30分配送」こそ、このビジネスモデルの最重要ポイントだと考えた。翌日配送、当日配送、2時間配送ではダメなのだ。

なぜなら、30分なら配達を待っていられるからだ。中国には原則専業主婦という考え方がないので、都市部では夫婦ともに仕事に行き、昼間は不在というのが一般的だ。その状況で、2時間配送であれば、2時間後家に誰かがいなければならない。しかし、意外にも2時間後にコンビニに行きたくなったり、食事に出かけたくなったりするものだ。それをあきらめて配達を待っているのは、消費者にとって悪い体験となる。「待っているのが煩わしいから」と注文をしなくなっていく。しかし、これが30分であれば待っていられる。気軽に注文する人が増えるのだ。

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スマホからの宅配注文が入ると、ピックアップスタッフが商品をバッグに入れ、リフトで天井にあげる。天井にはレールが走っていて、バックヤードに送られ、宅配スタッフが配送をする。

 

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▲天井にはレールが走っている。宅配注文の商品は、このレールを伝ってバックヤードに送られる。

 

配送を外部委託せず内部化

フーマフレッシュは、30分配送を実現するために、配送を外部委託せずに、独自の配送部隊を持っている。ということは、宅配注文の数が多くても少なくても、一定の固定費がかかるということだ。そこで、フーマフレッシュでは、1日1店5000件の宅配注文を取ることを死守している。クーポン類を配布する、来店客に宅配を進めるなどの方法で5000件を確保し、消費者に宅配のよさを体験してもらう。

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▲フーマフレッシュのセルフレジ。商品を置いて、フーマアプリで精算。アリペイではなく、専用アプリで精算させることで、専用アプリをダウンロードさせる。専用アプリからは宅配の注文ができる。左の注意書きは「支払いの前にフーマアプリをダウンロードしてください」と書いてある。実際の支払いはアリペイなのだが、あらゆる手段を使って宅配ECに誘導している。

 

アリババはもはやデータテクノロジー企業

アリババのダニエル・チャンCEOは、「アリババはもはやEC企業ではない。データテクノロジー企業だ」と発言している。フーマフレッシュは、出店計画、商品構成にビッグデータが活用されている。アリババは、タオバオ、TmallといったECサイトの販売データ、配送データを持っているからだ。

フーマフレッシュの出店場所は、半径3km内に最低28万戸が存在し、しかもECサイトのデータから一定以上の収入水準があると推測される地域。この条件に合わない場所には出店しない。また、商品構成も、その地域のECサイト販売データから推測をして構成する。

つまり、そもそもが成功しそうな地域を選んで、そこに出店している。そして、回転当初はかなり強引に宅配注文に誘導し、消費者に宅配のメリットを体験してもらう。

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▲北京のフーマ区。フーマ区から外れている地域は、いずれも下町で、購買力が高くない地域。北西部に飛び地のようにあるフーマ区は、中国のシリコンバレーと呼ばれる中関村のIT企業に勤める人々が住むエリアで、購買力が極めて高い。

 

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▲上海のフーマ区。青い部分がフーマフレッシュの配送地域。ビッグデータから出店場所を決め、モザイク状に市内全域をカバーしようとしている。

 

「宅配もやっている」では意味がない

「超級物種」「7フレッシュ」などの新小売系スーパーは、フーマフレッシュの後塵を拝している。配送を外部委託する、スタッフ数が少ないなどの理由で、宅配注文を増やすと配送がパンクしてしまうのが原因だ。フーマフレッシュのように、強引に宅配注文に誘導して、宅配での売り上げを伸ばすという方向に進むことができない。これでは、普通のスーパーが「宅配もやっている」だけになってしまう。

もちろん、アリババが当初利益を度外視した投資を行える体力を持っていることも大きいが、フーマフレッシュが出店した地域は、不動産価格や家賃が上昇し、他のスーパーがどんどん撤退するというフーマフレッシュの一人勝ち状態になりつつある。

宅配スタッフの人件費が比較的安い中国(と言っても最近は上昇してきている)だからこそできるビジネスネスモデルだが、「ECでは生鮮食料品が売れない」「実体店スーパーでは集客に限界がある」という課題を、オンラインとオフラインを組み合わせることで解決をして、成長空間を創造したフーマフレッシュの快進撃はしばらくの間続きそうだ。中国では、小売業にも革命が起き始めている。