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フーマフレッシュがマンション価格を押し上げる?新たな住宅選び基準「フーマ区」

住宅の選び方が変わった。以前は名門小学校と地下鉄の駅が近くにあることが条件だったが、今ではアリババの新小売スーパー「フーマフレッシュ」がそばにあることが条件に加わった。フーマ区のマンション価格も上昇していると銭江晩報が報じた。

 

住宅を選ぶ基準は、名門小学校、地下鉄駅、フーマフレッシュ

中国の住宅の買い方が変わった。以前は、子どものいる家庭であれば「学区房」を最重要視した。中国の小学校は学区制なので、住んでいる地域によって、自動的に入学する小学校が決まってしまう。そのため、どの親も、名門小学校の地域に引っ越そうと考え、「学区房」の不動産価格は高騰をしている。

もうひとつは「地鉄房」だ。これはいわゆる地下鉄の駅に近い住宅。従来は、この2つを指標として、マンションを探していた。

これに加えて、現在では「盒区房」(フーマ区住宅)という新しい指標が加わった。アリババ系列の新小売スーパー「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)の配達地域になっていることだ。

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▲街中のマンション売買の看板。「フーマ区」「地下鉄」「小学校」の3つがアピールポイントとして挙げられている。

 

フーマフレッシュ配達地域はマンション価格が上昇する

杭州市では、現在フーマ区が8地域あり、その中に250以上のマンションがある。その多くのマンション価格が、1平米あたり4万元(約67万円)になっている。他の地域では、学区、地下鉄の影響があるので一概に言えないが、1平米あたり3万元から3.5万元が相場になっている。フーマ区になることで、5000元程度の価格上昇があるようだ。

フーマフレッシュの候毅CEOは、昨年四川省成都市で開催された電子商務発展サミットの講演で、成都市にフーマフレッシュが開店すると、フーマ区の不動産価格は1平米あたり2000元は上昇すると発言した。

価格幅は都市ごとに異なるが、北京でも上海でも、フーマ区の住宅価格が上昇するという現象が起きていることは間違いのない事実になっている。

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杭州市のフーマ区の現状。2019年中に10店舗に増える予定だ。

 

▲電子商務発展サミットでのフーマフレッシュ候毅CEOの講演。成都市では、フーマ区になるとマンション価格が1平米あたり2000元上昇すると発言した。

 

帰りの地下鉄内で買い物、駅で発注

自宅がフーマ区になると、生活スタイルが大きく変わる。それまで共働きをする夫婦の場合、仕事が早く終わった方が帰りにスーパーに寄り、買い物をして、夕飯を作って待つというのが一般的な習慣になっていた。夕方は最もスーパーの混む時間帯で、その中を重たい荷物を持って帰宅しなければならなかった。

それがフーマ区になると、帰りの地下鉄の中でスマホから注文を入れ、自宅最寄駅に着いた頃に注文をしておく。30分配送なので、自宅に戻って一休みした頃に商品が配送される。配送料は無料で、しかもわずかな料金で調理もしてくれるので、あとはご飯か麺をゆでるだけで夕食ができあがる。

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▲ネットで入手できる地下鉄路線図にもフーマフレッシュの位置が記載されているものがある。カバはフーマフレッシュのマスコットキャラクター。

 

フーマからお取り寄せのホームパーティーが女性のあこがれ

フーマ区に住みたがるのは、女性が多い。特に独身女性は、地下鉄の駅に近いフーマ区の新築マンションに住むというのが夢になっている。休日に友人を呼んで、ホームパーティーをするときも、自分で料理をするのではなく、フーマから取り寄せてしまう。自分で料理をしないため、見栄えのするネイルを楽しむことができる。オシャレを楽しみながら、豪華なホームパーティーが開けるというのが、若い女性にとってひとつのステータスになっているのだ。

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▲フーマフレッシュ店内の広告。「フーマ区に住む」という広告コピー。

 

フーマ区が高級住宅地の代名詞に

フーマ区はそもそもが不動産価格の高い場所が多い。フーマフレッシュは、アリババが保有している膨大なビッグデータを解析して、出店場所を決定している。スマホ決済「アリペイ」の履歴データから、各人の収入を推測することは簡単だ。そして、ECサイトタオバオ」「Tmall」の履歴データから、EC利用度合いもわかる。このようなデータから、「高収入の人が多く住み、EC利用も活発」な地域がフーマ区に選ばれる。

フーマフレッシュの生命線は、宅配ECだ。店舗の売上は、物理的な限界がある。しかし、宅配ECであれば配送スタッフを用意すれば売上は無限に伸ばすことができる。フーマフレッシュでは、積極的に宅配ECへの誘導を行っていて、売上の60%以上が宅配ECによるものになっている。そのため、高収入でEC利用に積極的な人が住む地域に戦略的に出店していく。

フーマ区に選ばれる地域は、もともと不動産価格が高い。それがフーマ区になるとさらに価格が上昇する。すでに、フーマ区は高級住宅地の代名詞になりつつある。

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▲オープンを告げるフーマフレッシュの広告。「フーマがやってきた!」というもの。フーマ区になるということは、その地域が高級住宅地であることを保証されたように感じる人が増えている。

 

都市指標としてフーマカバー率も議論される

杭州市の場合、現在8店舗のフーマフレッシュが営業し、1店舗で半径3km圏が配送地域=フーマ区となる。面積に換算するとひとつのフーマ区は28平方キロになる。ここに25万人から30万人の人が暮らしている。

杭州市全体では、フーマ区の面積は224平方キロになり、フーマ区人口は200万人から240万人ということになる。

杭州市の市区面積は3068平方キロ、市区人口は800万人だ。ということは、フーマ区カバー率は面積で7.3%、人口で30%弱ということになる。

最近、このフーマカバー率を、都市の住みやすさの指標に加えるべきだという議論も起きているという。

フーマフレッシュの店舗数は、全国ですでに100店舗を突破している。アリババの資本があったとは言え、起業から100店舗突破を2年11カ月で達成している。2019年中に、なんと300店舗開店を目標にしている。ますます加速をしていくことになるが、フーマフレッシュの創業以来の目標は、1000店舗、フーマ区人口3億人だからだ。

創業時には、この目標を話半分で聞いていた人も多かったが、現在では極めて現実的な目標設定だと見られるようになっている。本当に、都市の住みやすさ指標の欄に「フーマカバー率」という項目が登場する日がやってくるかもしれない。