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アリババがついに社区団購に本格参入。フーマフレッシュを補完し、郊外に拡大をする戦略

新小売スーパー「フーマフレッシュ」を展開するアリババが、競争が激化している社区団購に本格参入をした。しかし、「盒馬隣里」は社区団購と同じ形式であるものの、フーマフレッシュを補完し、郊外に拡大する戦略の中に位置付けられていると聯商網が報じた。

 

コロナ禍以降、急成長する「社区団購」

競争が激化している生鮮食料品小売ビジネス「社区団購」(シャーチートワンゴウ)に、アリババが本格参入して、大きな話題になっている。

社区団購は、「前日注文、翌日配送、店頭受取」を基本にした生鮮食料品小売。前日に注文数が確定するため、流通の途中に仲卸業者を入れて、配送量を調整する必要がなくなり流通コストが大きく下がる。また、店頭受取なので、生鮮ECや新小売スーパーなどに比べて配達コストが不要となる。このようなコスト削減によって、既存スーパー、生鮮EC、新小売スーパーなどよりも安く販売ができる。

2015年頃から、地方都市や農村の商店の品揃えの少なさを補う目的で始まったが、コロナ禍で注目され、「多多買菜」(拼多多)、「美団優選」(美団)、「橙心優選」(滴滴)などテック企業が相次いで参入して、激しいシェア争いをしている。

 

アリババが「フーマNB」で本格参入

その社区団購に、新小売スーパー「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)のインフラを活用して、アリババが社区団購に本格参入をした。すでに350店舗を開店し、店舗数を急速に拡大している。

アリババの社区団購「盒馬隣里」(フーマNB)は、他の社区団購に比べて大きな競争力を持っている。ひとつは2万SKU(Stock Keeping Unit)を扱っていることだ。他の社区団購は1万SKU以下であり、圧倒的な品揃えのよさだ。

また、他の社区団購は「中央倉庫→地域倉庫→店舗」という配送網であるのに対して、フーマNBは中央倉庫から店舗への直送体制を整え、注文翌日朝8時以降の受け取りを可能にしている。一般的な社区団購では、翌日午後4時以降受取可能というもので、夕食の食材に対応することを想定している。フーマNBの場合は、翌日の昼食にも間に合う。場合によっては遅い朝食にも間に合う体制になっている。

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▲フーマNBの店舗。生鮮品の販売ではなく、受取りだけの店舗であるため、質素なつくりだ。アリババ参加の宅配企業「菜鳥物流」の宅配ステーションも兼ねているところが多い。これにより、迅速な出店が可能になった。

 

フーマフレッシュを補完するフーマNB

しかし、一般的な社区団購とは大きく違っている点もある。それは、他の社区団購が地方都市に重点が置かれているのに対して、フーマNBは大都市の周辺部に重点が置かれている点だ。

これは、アリババが社区団購を独立したビジネスとして考えているのではなく、あくまでもフーマフレッシュのひとつの機能として考えているからだ。

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北京市のフーマNBの店舗分布。中心部はフーマフレッシュでカバーをし、その周辺部をフーマNBでカバーをしていく戦略だ。

 

成長するための新業態を模索してきたフーマ

フーマフレッシュは、30分無料配送をする新小売スーパーだが、出店数が230店舗の水準で拡大が止まっている。アリババは、アリペイや淘宝網タオバオ)のビッグデータ解析により、購買力の高い地域を選定し、そこにフーマフレッシュを出店している。近隣地域に配達をするというのは大きなコストがかかるため、購買力のある消費者が多数いる地域でないと利益が出ないからだ。

つまり、利益が出る地域にはほぼ出店しつくした状態なのだ。では、フーマはどのようにして成長をするのか。

2019年から、フーマはさまざまな業態を試験運用している。「フーマF2」「フーマ菜市」「フーマミニ」「フーマステーション」の4つだ。

フーマステーションは生鮮ECと同じで、店頭販売はせず、配達だけを行う。フーマ本体を出店することは厳しいが、市内全域をカバーするために必要な空白地帯に設置される。

フーマ菜市は、店頭売りに主軸を置いたもので、既存スーパーに近い営業形態。マンション近くや住宅地の中に設置をされる。

フーマミニは、郊外や地方都市に設置されるコンビニ形態。フーマF2は、ビジネス地区に設置されるコンビニ形態。配達ではなく、店舗横にロッカーが用意され、スマホ注文をしてロッカーから取り出すという方式だ。

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▲フーマNBのアプリは新しく作られるのではなく、フーマフレッシュアプリの中から入ることができる。フーマフレッシュと同じ感覚で、注文と決済を行う。違いは店舗受取のみという点だ。

 

都市周辺部をフーマNBでカバーをする

つまり、フーマフレッシュは、フーマ本体のモデルでは出店する地域が限定をされてしまうため、さまざまな業態を試験運用し、郊外や地方都市に進出するためのバリエーションモデルの模索を続けている。社区団購であるフーマNBもそのひとつであり、現在のところ、大都市中心部をフーマフレッシュでカバーし、その郊外をフーマNBでカバーするという形に挑戦をしている。

フーマフレッシュは、大都市の中心部の購買力の高い地域に出店されている。そのため、有機野菜や輸入品などの高級生鮮食料品の販売も好調だ。フーマフレッシュが出店している地区は「フーマ区」と呼ばれ、フーマが出店するとその地域のマンション価格が跳ね上がるとまで言われている。いわゆる高級スーパーとしてのブランドイメージを形成しようとしていて、そのブランド価値を活用して、郊外や地方都市には異なる業態で展開をしようという戦略だ。

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▲フーマフレッシュは、高級スーパーのイメージが定着しようとしている。そのブランド力で、郊外や地方都市に拡大をしていくというのがフーマの戦略だ。

 

フーマフレッシュは高級路線、そのブランド力で郊外に進出

さらにフーマは、生花を販売、宅配する「フーマ花園」の展開も始めた。多くの場合、フーマフレッシュ店内での展開だが、フーマフレッシュのある地区では30%近くの消費者が生花を飾る習慣を持っており、販売の58%はオンライン注文になっているという。

フーマフレッシュでは、2021年内に100以上の新商品の取り扱いを始める計画だ。そのために新商品開発部隊「フーマX加速器」を設立させた。

フーマ本体は、購買力の高い消費者に向けてブランド化を図り、そのブランド力を活かし、他業態で郊外、地方都市に展開をしていく。その展開ツールのひとつとして、フーマは社区団購を活用している。

極論すれば、フーマの目的は、社区団購ビジネス単体で利益をあげることではなく、フーマ全体で成長することであるため、必要があれば、大規模な資金を投入してくることも考えられる。他の社区団購にとって、大きな脅威になることは明らかだ。社区団購のシェア争いもいよいよ最終局面に入ってきた。

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▲フーマフレッシュ本体は高級路線を進み始めている。生花を販売する「フーマ花園」もスタートさせた。フーマフレッシュの顧客の30%が、生花を飾る習慣を持っているという。