中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

中国製アプリのデザインはなぜ「ごちゃごちゃ」なのか

ニューヨーク在住の中国人プロダクトデザイナーWinnieが、中国のECアプリ「拼多多」(ピンドードー)を開いて驚いたという。なぜ中国のアプリのデザインはここまでごちゃごちゃでひどいのか。その理由を人人都是産品経理が解説した。

 

中国特有の「ごちゃごちゃ詰め込み」デザイン

世界のアプリデザインは、フラットデザインやミニマルデザインの方向に進んでいて、最小限必要な情報だけにし、余計な情報をできるだけ表示しないという考え方になっている。

しかし、中国の、特にECアプリは逆だ。必要な情報でも余計な情報でもぎっちりと詰め込んで、賑やかなものが多い。初めて使った時は、必要な情報がどこにあるのか迷う。なぜ中国アプリはこうなってしまうのか。中国人プロダクトデザイナーのWinnieは、3つの理由を挙げた。

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▲問題になっている「拼多多」アプリ。情報量が多く、色使いも洗練されていない。激安スーパー的な目立つことを重視するデザインになっている。

 

理由その1:漢字が複雑だから

まず、Winnieは、中国のアプリデザインがごちゃごちゃだといっても、それは中国のデザイナーのレベルが低いわけではないと言う。審美というのは相対的なもので、フラットデザインのグローバルな潮流から見れば、中国デザインはひどいと感じられるというだけで、中国には中国のデザイン文化がある。しかし、なぜ中国だけが世界の潮流とは異なるデザイン文化を築いているのかということが興味深いのだという。

なぜ中国だけが独自のデザイン文化を持っているのか。その最大の理由は漢字の存在だ。アルファベットも漢字も、象形文字だが、アルファベットの場合、元になった図形の意味からは離れて抽象化され、記号化されている。例えば、Aという文字は元々は牛を象った象形文字だという説がある。逆さまにして目をつければ牛の顔になる。しかし、現在では「牛」という意味からは外れて、Aという文字自体はなんの意味も持っていない。意味から離れることで、画が大きく省略され、記号化されていった。

一方で、漢字は、元の図象が容易に類推できるほど象形文字の感覚を残している。文字というよりも抽象化されたアイコンに近い。そのため、字の大きさは同じであり、ほぼ四角であり、画数が多く、書体のバラエティもアルファベットに比べると少ない。デザインの自由度が小さい。

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▲最も複雑な漢字「ビャン」。57画もある。陝西省特産のビャンビャン麺を表記するときしか使われない不思議な文字だ。

 

四角い漢字は情報を詰め込みやすい

アルファベットでは文字もデザインの重要な要素になる。例えば、見出しの文字と本文文字の大きさや書体を変え、画面のメリハリを作っていく。しかし、漢字ではそれが難しい。

逆に考えると、漢字は四角形なので、文字を詰め込みやすい。まるで、段ボール箱に商品を詰め込んで行くように、きっちり詰め込むことができる。さらに、漢字はすべての文字が意味を持っているので、英文で100文字必要な内容を40文字程度で表現できる。

単位面積当たりの情報量を高くしようと思えば、アルファベットよりも断然有利なのだ。そこで、中国のウェブやアプリは情報密度を高める方向に進化した。しかし、これはミニマルデザインの観点から見れば、「ごちゃごちゃ」デザインになるのだ。

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▲ネットに拡散しているミーム画像。「もしルイヴィトンが中国企業で、漢字でロゴを作ったら」というジョーク画像。

 

理由その2:中国人は複雑さの観察能力に長けている

ミシガン大学の3人の心理学者の研究「Cultural variation in eye movements during scene perception」(情景認知における眼球運動の文化的多様性)によると、米国人と中国人で一枚の写真をどう認識するかを比較すると、米国人は写真に写っている対象物に注目をするが、中国人は対象物だけでなく背景までもまんべんな観察するという結果になった。

中国の繁華街が看板だらけであることと関係をしている。中国人が複雑さの観察能力を持っているから、街並みの景観が複雑になっていくのか、逆に景観が複雑だから複雑さの観察能力が鍛えられるのかはわからないが、中国の都市景観が複雑であり、それは外国人から見れば時として乱雑にすら映るのに、当の中国人は気にしている様子がない。それどころか、中国人の目にはこの乱雑さが「賑やか」「華やか」に映っているのだ。中国伝統アートにも、密度高く、極彩色で描かれたものが多いことも無関係ではない。

つまり、ウェブデザイン、アプリデザインでも、中国人はごちゃごちゃして、複雑なものを好み、「賑やか」「華やか」とポジティブな感情すら抱いている。

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ミシガン大学の研究では、このような画像を米国人と中国人に見せて、視線が対象物(戦闘機と虎)に集中するのか、背景にも移るのかを調査した。

 

 

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▲左上のグラフのAが、視線の割合。中国人(白)は、背景もよく観察することがわかった。

 

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▲中国の典型的な街並み。西洋の感覚ではありえないほどごちゃごちゃした景観。中国人はこれを賑やか、華やかと感じる。

 

理由その3:ユーザー志向のデザイン

フラットデザインが優れているか、中国式複雑デザインが優れているか。それを決めるのはデザイナーではなく、消費者だ。そのため、Aパターン、Bパターンの2種類のデザインを提示して、実際に消費者がどちらを好むかを観察するA/Bテストの手法が当たり前のように使われる。中国の消費者は複雑なデザインを好むため、A/Bテストの結果、自然に複雑なデザインになっていく。

グーグルがまだ中国でサービスを提供していた頃、グーグルは検索結果ページに対する視線移動の測定を各国で行っていた。多くの国では視線は検索結果に集中するため、アドワーズ広告をどこに表示すべきか試行錯誤をしていた。しかし、中国では多くの人が、検索結果以外のところにも視線を移動する。中国では検索結果のページデザインを変える必要があるという結論を得たという(その直後、グーグルは中国から撤退することになった)。

この状況は、アマゾンアプリのデザインを見るとよくわかる。アマゾンは中国でもサービスを提供している数少ないグローバル企業だ。アマゾンの各国版アプリはどの国でもデザインはほぼ同じだ。しかし、中国版だけが余計な要素があり、ごちゃごちゃとしているのだ。

中国のドメスティックなECアプリでも、決してデザイナーのセンスが悪いとか、手抜きだとかではない。それを中国の消費者が好むからそうなっていっている。

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▲アマゾンの米国版アプリ。中国版のような余計な要素はない。

 

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▲アマゾンの日本版アプリ。基本的には米国版と同じデザイン。

 

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▲アマゾンのモバイルアプリ中国版。他国とは違って、余計な要素がある。

 

フラットデザインに寄り始めているアリババのアプリ

しかし、いつまでも中国が毒々しくごちゃごちゃなデザインを好み続けるかどうかはわからない。最近、アリババ系のアプリデザインには、フラットデザイン的要素と中国式複雑デザインをうまくミックスした感覚が生まれ始めている。スマホ決済「アリペイ」のアプリデザインがそうで、単にアイコンをフラット化しているだけでなく、フリックやスワイプといった動作に対する動きも、グローバル的な感覚を取り入れている。

都市で暮らす若者たちは、中国的複雑デザインよりも、ミニマルデザインを好み始めているのかもしれない。

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▲アリババのアリペイアプリ。情報要素は多いが、アイコンがフラットデザインになっている。いちばんよく使うのは、上部の4つのアイコン(スキャン、支払い、受取、チケット類)。

 

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▲コンテンツをスクロールすると、よく使う4つのアイコンは縮小して表示され続ける。情報量の多い中国デザインと、シンプルにするミニマルデザインの両立を試みている。

flower mandalas 心を整える、花々のマンダラぬりえ

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