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若い世代に広がる高齢者向けアプリのなぜ?通常版が嫌われる理由はポップアップ広告

高齢者のスマホ利用が増える中で、中国工信部はユニバーサルデザインの考え方に基づいた「高齢者版」のデザインガイドラインを発表し、各アプリがそれに沿って高齢者版アプリを公開している。ところが、最近、若者がこの高齢者版を好んで使う例が増えているという。その理由は広告だと北京日報が報じた。

 

高齢者向けデザインガイドラインを定めた中国工信部

「中国インターネット発展状況統計報告」(中国インターネット情報センター)によると、ネット利用者のうち60歳以上の人は11.2%になっている。高齢者のネット利用は、今までスマートフォンなどを使わなかった人が使うようになり、伸び続けている。

しかし、一方で、高齢者は視力や聴力に衰えもあり、アプリによってはうまく使いこなせない、あるいは使いこなすのに苦労をするということが起きていた。

そこで、工信部は「モバイルインターネットアプリ高齢者対応ユニバーサルデザイン規範」を発表し、高齢者向けのアプリのデザインガイドラインを定めている。

内容は非常に細かく、タイトル文字は30ポイント以上、本文文字は18ポイント以上、ポップアップ広告は禁止など多岐に渡り、消費者による評価、専門家による技術評価、開発元による自己評価の3つが行われ、100点満点で60点以上になると、高齢者向けアプリとして認められる。有効期限は2年で、2年以内に再度評価を受け直す必要がある。すでにアリペイ、百度、京東、高徳地図など著名な日用系アプリの多くが高齢者版を公開している。

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スマホ決済「アリペイ」の通常版と高齢者版。高齢者版の方がアイコンが大きくわかりやすく、余計な広告情報が省かれている。

 

広告や余計な情報が多すぎる

この高齢者版アプリは、多くの高齢者から歓迎をされているが、最近20代の若者の間で、高齢者版を使うことが広がり始めている。

その理由は広告だ。多くのアプリが開いた瞬間に起動画面広告が表示される。悪質な起動画面広告になると、数秒間はアプリのトップ画面に移れないケースもある。また、北京市で生活をする人は、アプリの都市選択で、当然北京市を選ぶ。すると、アプリの使用中に、北京市の飲食店や小売店のポップアップ広告により操作をじゃまされることがある。そのため、あえて海外の中国人にはなじみのない都市に設定するという裏技が密かに広まっている。広告がほとんど表示されなくなるからだ。

高齢者版では、ポップアップ広告(新しいウィンドウが出現する広告)がガイドラインによって禁止されている。そのため、バナー広告以外は出てこないため、操作をじゃまされることがない。そこで、合理的な若者たちが、高齢者版を使い始めているのだ。

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▲ストリーミングラジオアプリの「シマラヤ」。左が通常版で、右が高齢者版。決まったストリーミング番組を聞きたいだけの人には、高齢者版の方が使いやすい。

 

若者が使い始めた高齢者版アプリ

また、アイコンや文字などが大きくなるため、重要度の低い情報は削除され、必要なものだけが表示されるため、使いやすくなる。

このような高齢者版アプリは、メディアやネットでは「高齢者版」「長輩版」「老人版」などさまざまな呼ばれ方をするが、工信部の言葉では「高齢者対応ユニバーサルデザイン」(通用化設計)となっている。ガイドラインの中でも、高齢者だけでなく、障害者の利用も前提としたデザインが定められている。

若者たちは、この高齢者版のメリットに気づいて、煩わしくなく便利だという理由で使い始めている。今後もこの傾向はじわじわと広がりそうだ。