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中国人の移住が進むシンガポール。移住中国人をターゲットにしたビジネスも続々登場

シンガポールに移住をする中国人が増加をしている。その移住中国人をターゲットにした飲食店、サービスの展開も進み始めた。その中で、霞光社シンガポールで起業した中国人創業者に現状を聞いた。

 

中国人の移住が増えるシンガポール

シンガポールは人口570万人。そのうちの76%が中華系だ。国語はマレー語であるものの、公用語として英語、中国語、マレー語、タミール語が使われる。近年、シンガポールに移住、在住する中国人が増えている。富裕層が快適な生活を求めてのことだが、その中国人を目当てにビジネスをするために移住をする人も増えている。飲食店も「海底撈」や「雲海肴」など中国で有名なブランドがシンガポールに出店をしている。

シンガポール国立大学に留学をしていた田野さんは、シンガポールでフードデリバリーを起業することにした。

シンガポールの中華料理店。中国人の移住者が増えるとともに、中国の飲食ブランドのシンガポール出店が増えている。

 

中国人向けのフードデリバリーをシンガポールで起業

私が起業を決意したのは2019年のことです。シンガポール国立大学に留学をしていて、卒業後いったん中国に帰国しましたが、2、3年するとシンガポールでの起業の機会は大きいと思い、シンガポールに戻りました。シンガポールのフードデリバリーは、中国に比べるとまだまだ進んでいないと感じたからです。特に、中国人向けの中華飲食店のデリバリーはほとんど行われていない状況でした。

そこで、デリバリーサービス「唐人街外売」(Delivery Chinatown、https://deliverychinatown.com/home)を2019年7月に始めました。

▲Delivery ChinatownのWeChatミニプログラム。中国語表記になっているため、英語などにまだ慣れていない中国人移住者に使われている。

 

ライバルは多くても中国対応をしていない

ライバルはいくつもあります。東南アジアで最大のライバルはGrabで、シンガポールには「星食客」(スターダイナー)、「HungryPanda」、マレーシアには「Easy」があります。

しかし、中華料理と中国人に特化したサービスはなく、中国ではシンガポールのことを「坡県」(ポーシエン、シンガポール県)と呼ぶほど近く感じて、移住を考える人が増えています。そのような人々がやってきて、私たちDelivery Chinatownの顧客になってくれます。

他のサービスは英語が基本になります。また、中華料理以外だと、中国人にはどんな味なのかがわかりません。これが、移住をしたばかりの中国人にとって最大の問題だったのです。Delivery Chinatownは中国語で中華料理が注文できます。

▲Delivery ChinatownのWeChatミニプログラムでは、今配達スタッフがどこまできているかが表示される。配達距離は、追加料金は必要になるものの無制限。

 

配達距離は無制限

シンガポールで中華料理をデリバリーする顧客の客単価は高めです。ある時は、シンガポールの最高クラスのホテルへのデリバリーで、329.3ドルという注文もありました。

Grabの配達は原則3km以内なので、自分がいるところから3km以内の飲食店にしか注文ができません。Delivery Chinatownでは距離の制限をなくし、どれだけ遠くても配達をします。時には20km、30kmということもあります。超過部分の配達料はDelivery Chinatown側と顧客で負担をしますが、多くの中国人がおいしいものを食べるのであれば配達料が高くてもしかたがないと考えてくれます。

また、中国の伝統的な祭日には注文数が大きく増え、客単価も大きくなります。中国国内よりも、祭日にはデリバリーで大量注文をしてくれます。

Delivery Chinatownは現在40万件以上の注文を受けました。顧客の大部分はシンガポールに定住をしたり、働いている中国人です。

▲Delivery Chinatownの配達スタッフ。シンガポールにもデリバリー企業は多いが、中国人向け中華料理に特化したデリバリーは少ない。

 

複数の店に同時に注文ができるDelivery Chinatown

私がシンガポールに留学をしていた10年前、シンガポールの中華料理店は今ほど多くありませんでした。この10年で中華料理店が急激に増えました。それも伝統的な中華料理店というよりは、中国文化の影響を受けた国際化をした料理店です。

マレーシアの首都であるクアラルンプールでも同様で、この数年で中華料理店が急激に増えました。

その浸透ぶりは、私の想像を超えていて、広東料理四川料理などさまざまな料理が進出をしてきています。しかし、シンガポールでデリバリーサービスを提供するには、やはり中国とはさまざまな違いがあります。

中国からやってきたばかりの人や旅行で来た人は、Delivery Chinatownの独特の方式に戸惑うこともあるようです。中国では、1つの飲食店に1つの注文を入れるのが常識です。しかし、Delivery Chinatownでは複数の飲食店にまとめて注文を出す「混点」というサービスがあります。前菜はあそこの飲食店のこれ、主菜はこちらの飲食店のこれ、デザートはあそこの飲食店のこれというのをまとめて注文ができます。

▲タイのバンコクのチャイナタウン。中国語の看板が多く、中国の飲食店も出店をするようになっている。

 

開発部隊は四川省に設置

また、シンガポールの人は言語が複数あることもあって、文字による説明を嫌う人が多く、Delivery Chinatownのアプリやウェブは画像が中心で文字による説明は少なめです。

さらに、友人と注文を共有できる「砍一刀」という仕組みも導入しました。友人と一緒に注文をすると、配達場所が異なっていても、配達料が大幅割引になる仕組みです。配達料だけを見たら、Delivery Chinatownが負担をしなければなりませんが、顧客が広がるので、サービスの拡大につながります。

Delivery Chinatownの開発チームは四川省成都市にあります。そのため、中国で成功したアイディアを取り入れることが可能です。この「砍一刀」というサービス拡大手法も、中国で試され、その効果は大きいことがわかっていますが、なぜか国内のデリバリーサービスではあまり採用されていません。東南アジアでは、大きな効果をあげています。

▲Delivery Chinatownはシンガポールを中心に、東南アジア各国に展開をしている。

 

移住をした中国人は集まって食事をする

起業時にはあまり考えていなかったことですが、海外の中国人向けサービスがうまくいくのには理由があることがわかりました。海外にいる中国人は、祖国を離れて、みな孤独という問題と戦っています。そのため、海外の中国人で団体をつくり、集まって食事をする機会が多いのです。その時、食事を出前するのに使ってもらうことができ、そのような場所での口コミによりサービスが拡大をしていきます。

シンガポールでの流行は東南アジア各国に伝播をしていきます。特にマレーシアとタイはシンガポールの動向の影響が強い市場です。東南アジア各国に中華料理店が増えていき、私たちもそれに従って、現在、マレーシア、カンボジアベトナムミャンマーなどのチャイナタウンを中心にサービスを提供しています。中国人の移住先とともにDelivery Chinatownも広げていきたいと考えています。