中国では決済手段の主流となっているQRコードスマホ決済「アリペイ」「WeChatペイ」。しかし、国内での成長が頭打ちになりつつあり、出口を海外に求めているが、その海外での普及率が上がらない。原因は、現地の決済習慣を変えることの難しさだと鉄媒体が報じた。
日本でサービスインできなかった日本人向けアリペイ
アリババは、今年の4月から、QRコード方式スマホ決済「アリペイ」サービスを日本で開始すると宣言をしていた。すでに、訪日中国人観光客のためのアリペイサービスは提供されているが、こちらは日本人向けのアリペイだ。当面は、日本国内でのみ使えるサービスだが、時機を見て中国本土のアリペイと連結し、日本、中国、そしてゆくゆくはアリペイ提供国すべてで利用できるようにする計画だった。
しかし、日本の銀行業界との交渉が不調に終わり、投入時期は延期となった。日本の銀行が問題視したのは、決済履歴情報が、中国企業であるアリババに流れてしまうということだった。これはビジネス上も、安全保障上も大きな問題となる。
三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行は、それまで各自開発を進めていたQRコードスマホ決済を、連携して統一したシステムにすることを発表した。アリペイ上陸に危機感を覚えた三行が、アリペイ上陸の前に日本オリジナルの決済方式を普及させ、アリペイがシェアを奪う余地をあらかじめ消しておきたいのだと思われる。
▲日本でもローソンなどがアリペイに対応している。しかし、日本人は利用することができず、中国人観光客向けだ。
アリペイ海外進出の3段方式
アリペイ、WeChatペイは、すでに都市部での普及は完了し、現在は農村部への浸透を進めている。次にやるべきことは海外進出だが、両者とも3つの方式で海外進出することを狙っている。
1)中国人観光客のためのアリペイ:日本でもインバウンド関連の店舗の多くがすでに対応している。
2)技術プラットフォームを提供し、ローカル決済方式として。インドのペイティーエムが有名で、すでに1億人以上の利用者がいて、2020年には5億人の利用者を見込んでいる。
3)日本で企画されていた、現地人のためのアリペイ。
このうち、1と2は好調で、アジア圏を中心に成長しているが、3の「アリペイの輸出」が苦戦をしている。理由は「水が合わない」からだという。
▲インドのQRコードスマホ決済「ペイティーエム」。すでに1億人が利用していて、現在も急成長中だという。アリペイをベースにインド向けに改良したもの。
シンガポールでは使うのは中国人ばかり
シンガポールには、すでにアリペイが進出している。旅行に行った中国人も、現地のシンガポール市民もアリペイが利用できる。街中は、アリペイのロゴで溢れている。商店の多くが対応し、アリペイに対応したことを唄っているタクシーも多く走っている。
ある商店主は、鉄媒体の取材に応えた。「アリペイを使っているのは、やはり中国人旅行客で、現地の人はほとんど使いません」。
現地でアリペイ事業に従事する社員は、鉄媒体の取材に応えた。「現地の銀行は、アリペイを支持していません。銀行発行のデビットカードを支持しています。なぜなら、デビットカードであれば現金が必要な時に、顧客が銀行を訪れてくれるからです」。
▲シンガポールでもアリペイが使える店は増えている。しかし、利用するのは多くが中国人旅行者で、現地の市民はクレジットカード、デビットカード、現金を使うという。
現地の人の決済習慣を変えることは難しい
また、決済習慣を変えることも難しい。特に東南アジアでは、電子決済に不安を感じている人が多く、現金決済を好む人が多い。ペイパルが以前シンガポールで行った調査では、90%の人がスマホ決済よりも現金決済を好むという結果が出た。結局、現金と近い感覚で利用できる電子決済であるデビットカードが選ばれる結果になっている。
20代のシンガポール市民であるマンディさんは、鉄媒体の取材に応えた。「普段はクレジットカードと現金を使っています。スマホ決済は、QRコードをスキャンしなければならず、便利だとは感じませんでした」。
▲香港でもアリペイはサービスを始めているが、なかなか利用率は上がらない。街中を「香港でもアリペイは使える」という広告をつけたタクシーが走っているが、効果は上がっていないようだ。
クレジットカードの逆襲
もうひとつの壁が、クレジットカードも進化しているということだ。マスターカードは、シンガポールで指紋認証可能なプラスティックカードを投入している。あらかじめ銀行で指紋登録をする必要があるが、それをしておけば、カードを使用するときに、右上の矩形部分に指を置いて、カードをタッチすれば、暗証番号などを入力する必要なく決済が可能になる。
さらに、Apple Payも普及をし始めていて、使っている人をよく見かけるようになっているという。
中国の場合、クレジットカードが普及せず、電子決済といえば、デビットカードである銀聯カードの時代が続いた。銀聯カードは、カードリーダーに差し込んで、暗証番号を入力しなければならない。また、加盟店も決して多いとは言えなかった。
そこへ登場したQRコードスマホ決済は、極めて便利なツールに見えた。QRコードをスキャンし、スマホの指紋認証で決済が完了する。加盟店もほぼ100%ちかい。
しかし、海外では、クレジットカードが普及をしていて、クレジットカードも指紋認証に対応したり、Apple Payに対応するなど、利便性を高めている。そういう地域では、アリペイの優位性がさほど大きくなくなってしまうのだ。
▲マスターカードなどが投入している指紋認証付きのカード。登録した指をセンサー部分に置いて、決済処理をする。
▲指紋認証つきカードの模式図。右上の黒い部分が指紋センサーになっている。
苦戦する中国スマホ決済の海外展開
現在、アリペイは38の国と地域でサービスを提供し、加盟店は数十万店。WeChatペイは25の国と地域で、25万店程度。サービス提供国の数は多いが、加盟店数はあまりにも少ない。
国際カードブランドであるVISAとマスターは、加盟店数が世界でそれぞれ3850万店。中国スマホ決済の海外普及はこれからだとは言え、あまりにも遠い数字だ。
すでに中国スマホ決済の中国国内普及には頭打ち感が出てきている。都市部では90%、農村部ではこれからだが、消費力の小さな農村部に普及をしても、成長率は鈍ることになる。
出口は海外市場しかないのだが、思わぬところで、中国スマホ決済の苦戦ぶりが見えてきている。このハードルを超えることができるだろうか。アリババ、テンセントの企業としての真価が問われることになる。