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世界進出を狙う中国産スマホ決済「アリペイ」「WeChatペイ」の戦略

中国のスマホ決済、アリペイとWeChatペイは、中国国内の大都市をほぼ網羅した。次に狙うのは海外進出だが、どのような戦略を持っているのだろうか。中国産スマホ決済がいよいよ本格的に海外進出を始めたと科技日報が報じた。

 

中国人観光客とともに海外進出する中国産スマホ決済

日本でも、アリペイとWeChatペイの普及が静かに進んでいる。私たち日本人には無関係に見えるが、百貨店、レストラン、観光地、タクシーなどインバウンド観光客が行きそうな場所ではどこででもアリペイ(支付宝)とWeChatペイ(微信支付)のロゴを見ることができる。ローソン、セブンイレブンも中国人観光客を取り込むためにアリペイに対応した。

WeChatペイ海外運営責任者の殷潔(いん・けつ)氏は、科技日報の取材に応えた。「日本での今年6月のWeChatペイ利用額は、1月の40倍に急増しました。加入する日本商店も6倍以上に増えています。中国は無現金社会の面で、世界をリードしていますが、海外でも、中国人が出かける場所から無現金化が広まっていくのです」。

中国国内の都市部では、スマホ決済が普及をし、大都市では無現金社会がほぼ実現されてしまっている。それはつまり、スマホ決済による収益の頭打ちを意味していて、アリペイ、WeChatペイともに、海外進出に力を入れてきている。しかし、海外に直接スマホ決済のシステムを輸出するのではなく、旅行熱が旺盛な中国人が現地で消費する莫大な人民元マネーをスマホ決済で吸収するのが狙いだ。2016年、中国人による海外消費は2610億ドル(約28兆8000億円)で、ここ数年世界一であり、さらには毎年10%以上の成長をしている。

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▲韓国でもアリペイ、WeChatペイが、中国人観光客とともに普及し始めている。韓国の観光産業にとっても、中国人観光客は重要だ。

 

外市場への本格進出は簡単ではない

アリペイは、金融企業「アリ金服」を通じて、2007年から海外展開を進めてきた。現在、欧米、日本、韓国、東南アジア、香港、マカオ、台湾など26の国と地域12万店舗がアリペイを導入している。また、ウーバー、グラブのライドシェアと提携し、世界70の国と地域で乗車料金の支払いがアリペイで可能になっている。さらに、政府との提携も進み、23の国で、旅行者は、消費税などの還付金をアリペイで受け取れる。いずれも、現地市民ではなく、中国人観光客が利用することを想定している。

中国産スマホ決済が伸びているのは、東南アジアと日本、韓国だ。「このような国々には、大量の中国人観光客が旅行に行っています。これが大きな原動力となって普及が進んでいるのです」。

しかし、中国人観光客でなく、現地の市民の間にも中国産スマホ決済を普及させるのは簡単ではない。人民大学国際通貨研究所の曲強(きょく・きょう)所長補佐は科技日報の取材に応えた。「まず、ブランドの認知力の問題があります。さらにアプリの使い方も国により異なり、これも調整が必要です。最も大きな壁は、現地の金融業界で、中国スマホ決済の進出は時として乱入者として見られがちです。現地業界の抵抗にあって、必要な法整備がなかなか進まないことも多いのです」。

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▲日本でもアリペイとWeChatペイのロゴをよく見かけるようになった。中国人観光客のためのものだ。

 

インドでは技術提携の形でアリペイが進出

中国産スマホ決済そのものを海外進出させるのではなく、技術輸出をする形で進出をしたのがインドだ。インドもホテル、レストラン、ガソリンスタンドなどでスマホ決済が進んでいるが、最も伸びているスマホ決済Paytmは、アリ金服社の技術支援を受けている。つまり、アリペイの技術がベースになっている。技術提携を受けてわずか2年で、Paytmは2.2億人の利用者を獲得し、今年4月には、電子決済の世界利用者ランキングで第3位になるというところまで成長している。

このような技術輸出は中国側にとっても大きなメリットがあるとアリ金服国際事業部のアナリスト呉暉(ご・き)氏は科技日報の取材に応えた。「インドのネットワーク回線はとても細く、質も高くありません。さらに、性能の低い格安スマホ使っている人が多く、通信費も高いので、利用者は通信量をとても気にします。そこで、Paytmでは通信量を極限まで絞り、利用者にストレスを感じさせない設計にする必要がありました」。

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▲インドでもPaytmが爆発的に普及し、路上の屋台でも対応している。良質の回線が確保しづらい環境では、QRコードをスキャンする方法だけでなく、店舗のID番号を手入力する方法でも支払いができる。

 

アセアン諸国3.6億人の”金融弱者”に狙いを定める中国産スマホ決済

インドはそれまで有力なスマホ決済が存在しなかった。そのため、アリペイの技術をベースにしたPaytmが爆発的に普及した。しかし、他の日本や韓国、欧米、東南アジアという地域には、すでに現地のスマホ決済が存在する。このような“ご当地決済”と真正面からぶつかって消耗戦を展開するのは得策ではない。

そこで、中国産スマホ決済が狙っているのが、金融弱者だ。世界銀行の統計によると、世界ではまだ20億人が銀行口座を持てず、60億人がクレジットカードを持てずにいる。住宅などのローンを組みたい人の21%は、非正規の金融機関を利用している。特にアセアン諸国に限ると、6.8億人の人口のうち、3.6億人が銀行サービスを受けられていない。この層に、中国産スマホペイは進出をしていこうとしている。

中国産スマホ決済の海外進出戦略は明確だ。海外旅行をする中国人とともに海外に出て行き、認知度を上げる。スマホ決済がない国には、インドのPaytmのように技術提携という形で現地ブランドのスマホ決済として浸透する。スマホ決済が発達している国では、銀行サービスを受けられない金融弱者を中心に展開をする。

中国産スマホ決済は、漢字と華人に次いで、中国がアジア圏に輸出する第3の発明品になるかもしれない。

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シンガポールでもアリペイが入り始めている。QRコードをスキャンして、暗証番号を入力するだけという手軽さが受けている。

決済の黒船 Apple Pay (日経FinTech選書)

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