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シェア0.4%しか取れていない銀聯の逆襲が始まる。鍵はNFC搭載スマホ

キャッシュレス決済「アリペイ」「WeChatペイ」が主流の決済手段となる一方で、以前あれだけ多くの人が使っていた銀聯カードの存在感が失われている。スマホ決済ではシェア0.4%しか取れていない。しかし、NFC搭載スマホが普及をしたところで、銀聯の逆襲が始まっていると新浪科技が報じた。

 

スマホ決済ではシェア0.4%の銀聯

中国のキャッシュレス決済というと、アリペイ(アリババ系)とWeChatペイ(テンセント)が2強というのはもはや常識。しかし、10年前、日本に来て爆買いをする訪日中国人観光客が使うのは、銀聯カードが定番だった。その銀聯は、アリペイ、WeChatペイに押されて虫の息になっている。2019年第1四半期のスマホ決済シェアでは、わずか0.4%しか取れていない。

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スマホ決済の2018年の利用額シェア。中国のスマホ決済は「アリペイ」「WeChatペイ」の2つしかないわけではなく、20種類以上があり、各国と同じように「乱立」している。その中で、競争の結果、有力な2つに絞られている。銀聯はシェアわずか0.4%しかない。「第三方移動支付2019Q1報告」(iResearch)より作成。

 

オンライン決済では第2位の銀聯

しかし、オンライン決済でのシェアを見ると、銀聯はまだ健在だ。18.6%のシェアを握り、WeChatペイを抑えて、第2位の決済手段になっている。

このようなオンライン決済は、ローンの返済やファンド、株式の購入、あるいは税金の支払いなどの金額が大きい決済が多い。アリペイ、WeChatペイはあくまでも日頃持ち歩く財布の代わり。金額が大きな支払いをするには、銀行口座に直結している銀聯がやはり便利なのだ。

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▲2018年のオンライン決済の利用額シェア。ECの支払い、ローンの返済、理財商品の購入、税金の支払いなど、日本での銀行振込のような感覚。この領域では銀聯は健在。WeChatペイを抑えて、第2位のシェアを維持している。「第三方移動支付2019Q1報告」(iResearch)より作成。

 

銀聯カードは、口座直結のデビットカード

銀聯カードというのは、加盟銀行共通のデビットカードだ。銀行口座に直結するため、利用限度額は口座残高であり、即時決済されるためわかりやすい。また、銀行口座を持っていれば審査は不要で発行される。

ただし、中国人は銀聯カードのことを「クレジットカード」と呼んでいる。銀聯とは別に各銀行がオプションサービスで一括払い、分割払い、リボ払い、キャッシングなどのクレジット機能をつけている。このようなオプションをつけるには、信用審査が必要になるが、審査に通れば、銀聯カードをクレジットカードと同じように使うことができるようになる。このため、銀聯のことも「クレジットカード」と呼ぶのが一般的だ。

 

銀聯が目指したコンタクトレス決済。そこにQRコード決済が普及

2010年頃から、銀聯は次世代決済方式の開発を始めている。当時、次世代決済方式として、世界的潮流になっていたのはNFC接触決済だった。プラスティックカードにNFCチップを埋め込み、カードをリーダーにかざすだけで決済ができるという方式だ。現在のコンタクトレス決済のことだ。

一方で、スマートフォンの普及が始まり、国際標準であるNFCチップが搭載されていくことは明らかで、NFCによるスマホ決済「Quick Pass」の開発も始まった。しかし、当時はNFC搭載のスマートフォンはほとんどなく、しかもNFC決済を普及させるには商店にリーダーを導入させるという大きなハードルがあるため、より簡便なQRコードを使った決済方式の研究も始めた。銀聯としては、NFC決済の補助手段あるいはNFC普及までの繋ぎ手段として、QRコード決済の研究を始めた。

そこに、アリババとテンセントがQRコードを使ったスマホ決済「アリペイ」「WeChatペイ」をスタートさせてしまい、あっという間にシェアを握られてしまうことになる。

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QR乗車コードは、ほぼすべての都市に普及をしているが、事前にスマホを起動して、乗車コードを表示させるという煩わしさがある。銀聯NFC乗車を軸に、シェアの逆転を狙う。

 

NFC搭載スマホで、銀聯の「次世代」環境が整ってきた

これまで銀聯は、奪われたシェアを回復しようとさまざまな手を打ってきた。NFCだけでなく、QRコード決済方式にも対応させ、銀聯QRコード方式を国際標準として認めさせるなどしてきた。しかし、アリペイとWeChatペイの牙城を崩すことができずにいた。

その状況が変わろうとしている。最も大きな理由は、ほとんどのスマホNFCチップが搭載されているという状況が生まれたことだ。2017年以降に発売されたスマホには原則的にNFCチップが搭載されているので、よほど古いスマホを使っている人でいない限り、NFC決済が利用できる。

QRコード決済が普及した理由のひとつは、NFCチップが搭載されていない古いスマホでもスマホ決済ができるということにあったので、銀聯NFC決済「QuickPass」の不利な点がようやく解消されたことになる。

 

スマホがPOSレジになるファーウェイとのコラボ

消費者側のNFC対応については状況が好転したが、問題は、商店側にNFCリーダーを導入させることだ。この問題を解決するため、銀聯はファーウェイと提携をした。ファーウェイはスマホPOSの開発を始める。これはスマホがそのままPOSレジになるというものだ。小さな商店では、商店主のスマホと来店客のスマホを重ね合わせるだけでコンタクトレス決済ができることになる。

すでにスマホ「ファーウェイmate 20」以降のスマホには、スマホPOSとして使える機能が備わっているが、今後商店側のアプリ開発を行う。

また、ファーウェイ独自のkirin 960チップにQuickPass関連の機能を搭載し、今後ファーウェイのほとんどのスマホスマホPOSとして利用できるようにするという。

これが普及をすれば、従来のPOSレジは不要になる。コンビニやファストフードのような客数の多い小売業では、専用のPOSレジが必要だが、このような小売業はNFCリーダーの導入には積極的だ。一方で、客数の多くない飲食店、単価が高めの小売店、美容院、マッサージ店、ホテルなどのサービス提供店では、POSレジが不要となり、ファーウェイのスマホをレジ代わりに使えるようになる。

一方で、銀聯側は、すでにスマホ決済プラットフォームApple Pay、ファーウェイペイ、ミーペイ(小米)などに対応済みだが、OPPOvivo、魅族などにも対応をしていく。

銀聯が描く未来像は、多くの人が自分のスマホの中に銀聯のバーチャルカードを入れ、商店のスマホPOSにかざして決済をするというものだ。

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銀聯のコンタクトレス決済。プラスティックカードにもNFCチップが搭載され、カードを直接かざすだけで決済が可能。改札も対応し始めている。非対応のカードでも、Apple Payなどに登録をすればコンタクトレス決済が可能になる。

 

スマホを起動せず改札を通れる銀聯

さらに、銀聯は地下鉄やバスの乗車にも対応を始めている。現在、成都、南昌、深圳、南京など23都市で銀聯を使って、地下鉄に乗車することができる。Apple Pay、ファーウェイペイなどに銀聯カードを入れておけば、スマホをかざすだけで改札を通れるというものだ。QRコード乗車の場合は、スマホを起動して、アプリを起動して、乗車用QRコードを表示させてかざす必要があるが、銀聯カードをエクスプレスカードに設定しておけば、スマホを起動させることもなく、かざすだけで改札を通れる。

さらに蘭州、南京、アモイ、西安などでは、銀聯カードそのものでも乗車ができる。62で始まる銀聯カードは、NFCチップが埋め込まれたプラスティックカードだ。これであればかざすだけで改札を通ることができる。バスに関してはすでに900都市で銀聯による乗車が可能になっている。

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銀聯NFC決済「QuickPass」。リーダーにスマホをかざすだけで決済可能。改札もかざすだけで通ることができる。NFC搭載スマホが7割を超え、銀聯も次第に使われるようになっている。QRコードを表示してかざす乗車コード方式と比べるとはるかに便利。

 

アリペイ、WeChatペイは顔認証決済へ

一方で、アリペイ、WeChatペイは、顔認証決済端末を商店に導入することで、QRコードの次の決済方式に進み、NFCより利便性が高いことをアピールしている。顔認証決済端末は1台1200元程度するが、両社とも積極的なキャッシュバック施策を行い、実質的に無料で導入できる環境を整えている。

銀聯は、シェア0.4%のまま消えてしまうわけではなく、かなり大掛かりな逆襲を始めている。それに対抗するアリペイ、WeChatペイはQRコードの次の決済方式へ進もうとしている。銀聯vs「アリペイ」「WeChatペイ」という図式の中で、決済方式はNFCや顔認証といった次世代に進もうとしている。