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キーボードはもういらない?音声入力の時代がやってきた

中国大手調査会社「易観」が、「中国携帯入力市場分析2017百度編」を公開した。目を引くのは、音声入力を主に使う人が18.85%に増加したことだ。キーボード入力、手書き入力の時代は終わり、中国では音声入力が主流になっていく可能性が出てきた。

 

日本ではなぜかあまり使われない音声入力

日本では、スマートフォンの音声入力はあまり使われていないように見える。iPhoneのSiriやAndoroidのOK GoogleなどはテレビCMなども放映され、認知度はそれなりにあるはずなのだが、街中で実際に使っている人を見かけるのは稀だ。

「人前で使うのは恥ずかしい」と言う人もいるが、人前で電話をするのは平気なのだからあまり理由にならない。おそらくは何回か試しで使ってみたときに、誤認識に遭遇し、悪い印象を持ってしまったのかもしれない。ただ、この1、2年の音声入力の認識率の進歩は目覚ましく、現在では、誤認識に遭遇することの方が稀になっている。

 

1年で3倍以上になった音声入力

易観の分析報告書は、百度Googleのような検索サイト)の検索入力にどのような入力法が使われているかを調べたもの。ピンイン入力が67.53%、手書き文字入力が28.61%、音声入力が18.85%となっている。音声入力はまだ少ないように見えるが、昨年の報告書では5%だったので、めざましく増えていることになる。

ピンイン入力は日本のローマ字変換入力のようなもので、最も一般的に使われるもの。ところが、ピンイン入力をするには、その漢字の読み方がわからなければならない。そのため、読み方がわからない漢字については手書き入力するというのが一般的だ。

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▲現在でもいちばん多いのはピンイン入力。しかし、音声入力が1年で3倍に増えるなど、入力方法の主役が変わりつつある。

 

女性が好む音声入力。若年層と中高年層が好む音声入力

面白いのは、各入力法の男女比、年齢だ。男性はピンイン入力を好む傾向があるが、女性は音声入力を好む傾向がある。

また、年齢別の統計も興味深い。ピンイン入力を最も多く使うのは25歳から34歳、手書き入力を使うのは35歳から44歳。これはおそらく英文字キーボードへの慣れの問題だ。ピンイン入力はローマ字入力なので、英文字キーボードを使って入力する。中年は大人になってコンピューターやスマホを使い始めた人が多く、キーボードに不慣れな人が多い。そのため、手書き入力を好む。一方で、若者はキーボードに慣れているので、最も効率的な入力方法であるピンイン入力を使う。

ところが、音声入力になると、35歳から44歳が最も高いが、もうひとつ18歳から24歳にもピークがあるのだ。

中年にピークがあるのは理解しやすい。キーボードが苦手な人が、手書き入力か音声入力を使っているのだ。しかし、若い世代も音声入力を使い始めているのはどういうことだろうか。

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▲各入力方法の男女比。女性が音声入力好んでいることがわかる。ある人によると、女性は爪を伸ばしているため、スマホのタッチがしづらいからだという。それも理由のひとつではあるだろう。

 

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▲音声入力を主に使う人の年齢分布には、2つのピークがある。中年はキーボードに不慣れだからという理由、若年層は音声入力に慣れ親しんでいるからという理由ではないかと推測される。「中国携帯入力市場分析2017百度編」より。

 

若い世代は音声メッセージに慣れている

理由は、若い世代は音声メッセージに慣れているからなのだ。中国人のほとんどが使っているSNSメッセージアプリWeChatには、音声メッセージを送ることができる機能があり、これがよく使われている。

SNSには、ツイッターのように外に開いているものと、LINEのように内に閉じているものがある。ツイッターで交流する人は、多くは現実での面識はなく、SNSだけで繋がっている人が多い。一方で、LINEの場合は、家族や友人など現実の面識がある人が中心になる。このような内に閉じたSNSの場合、テキストだけでなく、より身体的な音声メッセージも使われるようになる。

中国のWeChatは、まさに日本のLINEに近い使い方がされていて、音声メッセージのやり取りも盛んだ。短めの留守番電話メッセージ的な使い方をされている。

また、ゲームアプリなども音声で交流できるものが多く、中国の若い世代は音声メッセージに慣れているということがある。

 

音声入力の誤認識よりもタイプミスの方がはるかに多い

世界的に見ても、入力方法は、テキストから音声に移行しつつある。今、注目されているのは、Amazon Echo、Home Pod、Google Homeなどのスマートスピーカーだ。商品のジャンル名として「スマートスピーカー」という名称が使われているが、実態はスマートマイクで、音声でさまざまなことができるのが特徴だ。現状でできるのは、アマゾンで買い物をしたり、音楽を再生したり、ピザを注文したりといった「音声命令」のレベルだが、いずれ人工知能が会話を判断する執事のような存在になっていくだろう。

この報告書は、あくまでも百度の入力にどの方法が使われているかというもので、スマートフォン全般になると、音声入力を使う人の割合は10%以下になる。百度は、このような入力方法の進化がどこに向かっているのかを把握して、この数年、音声入力の改良に力を入れている。そのため、実際に使っている中国人に言わせると「キーボードで打ち間違いをする割合よりも、音声入力の誤認識の方が少ない」そうだ。食わず嫌いにならず、ぜひスマホの音声入力を試してみていただきたい。