中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

中国の高速道路はETCからスマホ決済ITCに転換

中国の高速道路はETCの普及の途上にあり、内陸部では有人のみの料金所もまだ多い。ところが、ETCではなく、ITC(Internet Toll Collection)の導入がもう始まってしまった。次世代ETCという位置付けで、今後ITCの導入を進めていく予定だと済魯晩報が報じた。

 

広がる高速道路網。進まないETCの普及

中国の高速道路網は13万kmを超えた。国土の大きさが異なるので、比べることは無意味だが、日本の高速道路の総延長が9000kmであることを考えると、どれだけ高速道路があるのかがわかる。しかも、未だに毎年6000kmペースで伸び続けている。

週末に渋滞が起きることは当たり前で、春節などの大移動の時期には100km以上の渋滞というのも珍しくない。実家まで距離がある人は、車の中で寝泊まりしながら3日かけて帰るなどという人もいる。

この大渋滞の原因のひとつが、ETC普及の遅れだ。ユーザー数は4000万人程度と、3台に1台程度の普及率でしかない。導入が始まって8年が経っているのに、なぜ利用者はETCを使おうとしないのだろうか。中国のETCも仕様は日本と同じもので、違いはクレジットカードではなく、事前チャージ式であるということぐらいしか違いはない。それでも、ETC利用者が増えない。

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▲中国の高速道路の渋滞は、ノロノロ運転ではなく、ピタリと動かなくなってしまうことが多い。渋滞になると、みな車から降りて、体操をしたりして過ごす。

 

専用機器の取り付け不要のスマホ決済ITC

ETCの普及が限定的であるのに、もう次世代ETCとされるITCの導入が始まってしまった。まず、山東省済南市周辺の12箇所の料金所がITCに対応し、順次全国の料金所に広げていく。

ITCとはスマホ決済と車のナンバー認識を利用するものだ。事前に、アリペイ、WeChatペイなどのスマホ決済と自分の車のナンバーをアプリ上で紐づけておく。料金所にはカメラが設置され、車のナンバーを読み取り、自動的にスマホ決済から料金を徴収するというもの。

ETCと同じ感覚で、通過するだけで料金が支払えるというものだが、車の中に機器を取り付ける必要はないというのが最大の利点だ。料金所側も簡単なシステムとカメラを設置すればいいだけで、ETCのような大掛かりな設備は不要。それで、ETCとほぼ同じ効果が得られる。また、有人料金所でも、スマホを提示してスマホ決済ができるようになった。

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▲ITCが導入される済南料金所。カメラでナンバーを読み取り、紐付けたスマホ決済口座から自動的に料金が引き落とされる。ETCと同じように、ノンストップで料金所を通過できる。

 

各地ばらばらで、互換性がなかったETC

ETCの最大の問題は、地域間の互換性がなかったということだ。高速道路は用地買収の問題などがあり、国が計画を立て、実際の建設は各省、自治区、市が行う。そのため、ETCカードも各地域が独立して仕組みを構築し、発行をしていた。これは、利用者にとって極めて不便なことだった。市内から空港のように、同じ省内を移動するときはETCカードが使えるが、省を跨いで移動するときは現金で支払うしかなかったのだ。

もちろん、中国政府は最初からETCカードの全国共通化を頭に置いて、標準仕様を定め、共通化を進めていた。しかし、この共通化に時間にかかったため、ETC利用率がなかなか上がらなかった。

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▲ETCは、ある程度普及はしていたが、省、自治区、市で異なるETCカードが発行され、互換性がなかった。現在は、ようやくほぼ全国共通化ができたが、不便さからETCの普及は遅々として進まなかった。

 

利権が絡み合い全国共通化ができなかったETC

2016年9月に、ETCの全国統一はようやくほぼ完成したが、それでもETC利用者は4000万人。中国の保有自動車台数は約1億2500万台、免許保有者が3億2700万人なので、1/3程度しかETCが普及していないことになる。

なぜ、統一に時間がかかってしまったのか。いろいろ理由はあるが、一言で言えば、利権を手放したくない人がたくさんいるからだ。各省、自治区直轄市といった当事者の数が多く、それぞれに自分の利益を主張するために話がまとまらない。

これは、バス、地下鉄の交通カードでもまったく同じだった。全国共通化ができないので、出張や旅行で行った人は現金で支払うことになり、せっかく電子化をしても現金支払いが減らない。交通カードの場合は、NFCカードによる全国共通化をあきらめて、全国的に普及したスマホ決済を導入することで、共通化を実現しようとしている。高速道路も同じように、利用率があがらないETCではなく、スマホ決済を導入することで、全国共通化を達成し、完全電子化を目指すことになる。

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導入して半年で7割がスマホ決済を利用

ETCと同じようにナンバープレートの認識で、ETCと同じようにノンストップで支払いができる料金所が済南市を皮切りに広がっていくが、スマホ決済ができる有人料金所はすでに広がっている。

湖北省では今年の1月に304の料金所でスマホ決済に対応をした。それから半年で、有人料金所を利用する約70%がスマホ決済を利用するようになったという。

これがノンストップスマホ決済のITCが導入されれば、利用者は事前にアプリで自分のナンバーを登録しておけばいいだけなので、有人料金所を現金で利用する人はごく一部になるだろう。

利用者側は車内に機器を取り付ける必要がなく、料金所でも簡単な設備ですむスマホ決済ITCは、ETC以上の速度で普及し、利用者は中国のどこの料金所でもITCで自動的に料金が支払えるようになる。

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▲有人料金所では、すでにスマホ決済に対応している料金所が増えている。

 

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▲自動車での支払いを考えて、ある程度の距離からでもQRコードを読み取りできるスキャナーが導入されている。