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深圳市が人材獲得策として、所得税を大幅優遇。最高45%が15%に

深圳市が海外から優秀な人材を招き入れるために、個人所得税を一律15%に優遇する政策を発表した。中央政府が優遇策を考えるべきだという通知を出してから2ヶ月後、ファーウェイの創業者、任正非が「優遇策が必要」と発言をしてから4日後の発表というスピードに各都市が驚いている。他都市でも所得税優遇策が取られる可能性があると新京報評論が報じた。

 

深圳市が個人所得税を15%まで下げる優遇策

2019年5月25日から深圳市で開催された「2019未来フォーラム深圳テクノロジーサミット」の席上で、深圳市の王立新副市長は、優れた人材を確保するため、深圳地域で働く人の個人所得税を15%まで下げると宣言した。王立新副市長はこう述べた。「あなたが100万元(約1600万円)の年収があったら、所得税は45万元(約700万円)です。でも、これからは15万元で(約240万円)いいのです。家族は喜ぶし、暮らしはよりよいものになります」。

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▲税率優遇策を発表する深圳市の王立新副市長。スピード感のある決定に、メディアも他都市関係者も驚いている。

 

複雑で高い中国の個人所得税

中国の個人所得税は7段階に分かれていて、最高税率は45%になる。ただし、全額に税率がかかるのではなく、段階的に決められた税率を乗じて、納税額が決められる。月給8万元以上になると、その超えた分に対して45%の所得税がかかる。月給10万元の場合、手取り金額はだいたい7万元程度になる。

日本の最高所得税率は45%、米国は35%であり、英国は基本所得税率が20%、ロシアは13%ということを考えると、中国の所得税率は高く、特にIT企業などで高給をもらって働く人にとっては負担が大きい。所得が低い人には低率だが、収入が上がれば上がるほど税負担が大きくなっていく仕組みだ。これにより、国際的な人材を中国に引き寄せることでは不利になっていた。

深圳市の試みは、これを一気に15%まで引き下げ、海外から優秀な人材を呼ぼうというものだ。

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▲中国の個人所得税の計算はかなり複雑。年収300万円であれば、56万円までの部分に3%、225万円までの部分に10%、300万円までの部分には20%の所得税がかかる。計算がかなり面倒なので、速算表がついていて、年収300万であれば、速算控除額分を引いて、残りの部分に20%をかけると、支払うべき税額が計算できる。年収300万円の場合、納税額は3.5万元(約55万円)となり、税率はだいたい18%程度になる。税金はかなり高い(ただし、当然ながら経費は認められる)。

 

中央政府の通知からわずか2ヶ月後の発表

この思い切った政策だけでなく、深圳市のスピード感にも驚きの声が上がっている。2019年3月に、中国財政部、税務総局は、国際的な人材を確保するために、各都市にさまざまな優遇政策を打ち出すことを求める通知を出していた。所得税減税や住宅補助、奨励金、子どもの就学支援などで、どのような施策を取るかは各都市に任されるが、国家として国際的人材の確保が急務であるとしたのだ。

深圳市の思い切った所得税減税は、この通知からわずか2ヶ月後。このスピード感に他の都市も負けていられないと、人材確保政策を打ち出す態勢に入っている。

 

ファーウェイ創業者の発言の4日後に発表

このスピード感のある発表の陰には、深圳市を代表する企業であるファーウェイの創業者、任正非(レン・ジァンフェイ)氏の発言が影響していると言われる。深圳テクノロジーサミットが開催される4日前、任正非氏はメディアの取材でこう述べている。

「中国には今、たくさんの(留学生)人材が帰ってきている。これはとてもいいことだ。しかし、中国の個人所得税は海外に比べて高く、中国に帰ると、たくさんの税金を払わなければならない。雷鋒精神は長くは続かない」。「世界トップクラスの人材が海外から中国に帰ってきても、優遇というのはほとんどなく、それでいて税金はたくさん取られる」。

雷鋒というのは元人民解放軍の兵士で、苦しい状況の中でも国に対する忠誠を尽くしたことから、模範兵士として教科書などに登場する人物。任正非氏の話の中では、中国の待遇が悪くても、中国人だから中国のために働きたいという若者のことを指している。そういう高い志があっても、やっぱり税金が高ければ人材は海外に逃げてしまうことになる。

 

深圳市の思い切った政策。各都市にも波及の可能性

この発言は、各メディアで伝えられ、話題となった。それからわずか4日後に、深圳市は所得税減税を発表している。

これは偶然ではない。メディアの見方では、財政部と税務総局の通知を受けて、すぐに深圳市は優遇政策の検討に入った。どの時点で発表する予定だったかは不明だが、ファーウェイの任正非氏の発言が話題になったことを受け、ベストタイミングだと考え、前倒しして発表したのだと考えられている。

市民が歓迎される施策を実施するだけでなく、このスピード感のある深圳市政府に対して賞賛の声があがっている。