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新小売スーパーの主戦場は広州。フーマフレッシュが圧倒的に強い理由(下)

広州市に、「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)を始めとする新小売スーパーの4強が相次いで開店し、新小売戦争が熱い地域になっている。そのあおりを受けて、地元発の新小売スーパーが営業停止に追い込まれるなど影響が出ていると界面新聞が報じた。

 

フーマ進出のあおりで破綻をした地元勢

アリババの新小売スーパー「フーマフレッシュ」が昨年4月に広州市に進出をして約1年。フーマフレッシュの強さは圧倒的で、他の新小売スーパーだけでなく、地元のスーパーなども苦しい立場に追い込まれている。

フーマのライバルは、他の新小売スーパーだけではない。広州には広州発の新小売スーパー「食得鮮」(シーダシエン)が、フーマ進出前から定着していた。

その食得鮮の経営が昨年後半から明らかにおかしくなっていった。離職した従業員から未払い分の給料を請求されるなど、経営が苦しくなってきたことが次第に外に漏れるようになり、2018年11月、12月に1店舗ずつ一時閉店をする事態となった。今年1月になって、営業を再開したが、1週間ほどで再び営業を中止。旧正月である春節のためにシステムを改定中、従業員に春節の休みを与えるためなど、食得鮮はいろいろな説明をしているが、一部の店舗は商品棚などが持ちされたもぬけの殻状態になっていることがネットワーカーたちから報告され、事実上の経営破綻だと考えられている。明らかにフーマ進出の影響だ。

2018年上半期、食得鮮は、上半期の売上は4.1億元(約67億円)で、昨年同時期の583%増だという華々しい数字を発表した。そのわずか数カ月後には経営危機に追い込まれていたことになる。

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▲店舗での公告では、春節のための長期休業と書かれているが、多くの人が実質的な破綻に追い込まれたのだと見ている。

 

生鮮ECサービスから始まった「食得鮮」

食得鮮は、2014年に起業したスタートアップだが、元々は生鮮ECだった。店舗はなく、スマホで生鮮食料品の注文を受け、市内に設置した4箇所の倉庫から、広州市全域に3時間配送するというサービスだった。

2016年になって、フーマフレッシュなどの新小売スーパーが登場したのを見て、体験店舗の出店を始める。来店をして購入することもできるし、「店倉合一」で、店舗を倉庫がわりにして、店舗から3km以内には1時間配送をするサービスを始めた。

2018年4月にフーマフレッシュの広州一号店が開店すると、食得鮮は6月、12月、翌年1月と新店舗を増やし、一時期5店舗までになった。しかし、11月にはすでに営業困難になった店舗を閉店し始めている。

元々利益が出ない態勢であるところに、フーマの進出に対抗しようとして、無理に出店をしてみたものの、資金が続かず、体力負けしたということのようだ。

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▲ネットで拡散している食得鮮の店舗写真。シャッターが閉まったまま開業する様子はない。

 

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▲同じくネットで拡散している映像。店舗内の商品ケースなどが撤去されていて、もぬけの殻の状態。改装工事が始まるわけでもなく、多くの人が破綻したと見ている。

 

最大の問題は、宅配システムの二重投資

食得鮮も紆余曲折はあるものの、店舗+宅配という新小売スーパーの形になっている。フーマは成功しているのに、食得鮮はなぜ失敗してしまったのだろうか。

最大の問題は、宅配システムが二重投資になってしまったことだ。生鮮EC時代からある市内全域の3時間配送と、店舗が周辺3kmに行う1時間配送が別建てになっている。新小売スーパーは、配送コストをいかに抑えるかが鍵になるのに、大きなコスト負担を背負うことになっていた。

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▲店頭に液晶パネルを置き、そこで食得鮮とECサイトの商品価格の比較情報を掲載している。食得鮮がどこのECサイトよりも安いということを強調するためだ。

 

禁断の「安さ競争」に踏み込んでしまった食得鮮

店舗とECも別建てになってしまっていた。売っている商品は同じものであっても、消費者から見ると、別物になっていた。フーマは、店舗を倉庫だけでなくショールームとしても活用するために、さまざまな手法で人を呼び込む。その目玉が、通常店よりもさらに大きな生簀で、そこに大量の生きた魚やカニがいる。広州は海鮮の街で、市内に大きな海鮮市場がある。フーマはそれに対抗するように大きな生簀と水槽を用意して、しかもレストランエリアでは、その海鮮をその場で調理してもらい食べることができる。この料理も、人を惹きつけることが目的なので、利益はほとんど乗せていないため、格安で食べることができる。

そして、店内を見て、商品の質の高さを知ってもらい、スマホから注文してもらうというのがフーマの考え方だ。

一方、食得鮮は海鮮品を扱っていない。市内に大きな海鮮市場があるために、扱っても売れないだろうという判断だった。それは正しい決断なのかもしれないが、では店舗の魅力をどこにつくるのか。食得鮮は、「安さ」の競争を始めてしまった。

店内に液晶パネルを設置し、主要なECサイトの価格一覧を表示するようにした。「食得鮮がいちばん安い」ということを訴えるためだ。しかし、そのためには、利益を削ってでも、格安の商品を用意するしかなく、利益率はどんどん削られていく。苦しくなればなるほど、価格を下げて、余計に苦しくなるという悪循環に陥っていった。

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▲食得鮮では、次第にカゴのまま、パッケージのままの商品陳列が増えていく。安さを強調するための演出だったが、やればやるほど、手抜き、低品質のイメージがついていった。


「既存ビジネスを守り、新規ビジネスを追加する」は必ず破綻する

食得鮮の経営手法を批判することは簡単だが、食得鮮は日々のビジネスをする中で、さまざまな模索をしてきたのだろう。しかし、追加をしていく形でビジネスを拡大していくと、どうしても「既存ビジネスの利益は守った上で、新しいビジネスを上乗せしていく」ということになりがちだ。配送システムの二重投資がまさにそうなっている。食得鮮は、オンラインとオフラインを合体することはしたが、融合させることは結局できなかった。

また、相手の動きに合わせて、自分も動くというのは、負けではないにしても、先々の選択肢が限定されてしまうことも考えておくべきだった。広州には大きな海鮮市場があるから海鮮は扱わない、フーマが出店するから食得鮮も出店して対抗する。このような考えが、将来の選択肢を奪っていき、最後には身動きが取れなくなっていった。

と、外野が後から批判することは簡単だ。食得鮮は、広州発のスタートアップとして生き残りと成長を意識して、5年間もがき続けてきた。日々の忙しい仕事をこなしながら、全体も俯瞰するというのは、現実には簡単なことではない。

結局、食得鮮は、最初からオンラインとオフラインを融合したモデルを作ったフーマフレッシュに対抗することはできなかった。フーマはやっぱり強かった。

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