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アリババの新小売スーパー「フーマ」が上場準備へ。苦戦するクイックコマースの課題を克服

アリババの新小売スーパー「フーマフレッシュ」が上場準備に入っていることが確実視されている。同業のクイックコマースは業績が悪化をしているが、フーマはクイックコマースとは異なる手法をとることにより、課題を克服し、黒字化をしたと価値星球が報じた。

 

アリババの新小売スーパー「フーマ」が上場へ

アリババの新小売スーパー「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)が上場準備を始めている。フーマは「市場での憶測に対してはしばらくの間コメントを差し控える」と回答しているが、中国国際金融(CICC)、モルガン・スタンレーなどと協力をして、来年2024年の香港上場に向けて準備作業に入っているという報道(今年11月という報道もある)がされるようになり、業界関係者も確度の高い情報だと見ている。

フーマフレッシュは、アリババの創業者が提唱する「新小売」の現実解として、2017年に創業された新小売スーパーで、現在300店舗を展開し、チェーンスーパーランキング6位。注文方法はスマートフォンと店頭、受取りは30分宅配と店頭という2×2を、消費者の都合により組み合わせることができる購入体験を提供する。これにより、地下鉄の中でも自宅でもどこにいても生鮮食料品の買い物ができるようになり、消費者の購入機会を増やすことにより、店舗スーパー以上の売り上げをあげようというビジネス。現在、注文の70%がスマホからのものになっている。

▲アリババの新小売スーパー「フーマフレッシュ」。オンラインでも店頭でも注文でき、持ち帰ることも30分宅配もできる。上場準備に入っていることが確実視されている。

 

クイックコマースはいずれも不調

しかし、不安の声も聞かれる。なぜなら、同じく生鮮食品を配達するクイックコマース「毎日優鮮」(メイリー、MissFresh)、「叮買菜」(ディンドン)がいずれも米ナスダック市場に上場をしたが、いずれも株価は低迷をし、複数回にわたり上場廃止基準に引っ掛かる状況になっている。両社の上場は失敗と言わざるを得ず、同様のビジネスを展開するフーマは果たしてだいじょうぶなのかと心配するのは自然なことだ。

クイックコマースというビジネスは、消費者にとっては利便性の高いサービスだが、それ以上に投資家やビッグテックにとって都合のいいビジネスになってしまい、投資が先行をしてしまった。毎日優選にはテンセント、タイガーファンド、CICCなど著名な投資機関が投資をし、ディンドンにもセコイア、ソフトバンクなど著名な投資機関が投資をしている。

▲ナスダック市場の毎日優鮮の株価。2022年の初めから低迷をしたままで、浮上する気配はなく、数回にわたり上場廃止の警告を受けている。

ニューヨーク市場のディンドンも似たような状況だが、業績が上向く気配はあり、アナリストの中には底値での買いを推奨している人もいる。

 

ビッグテックが欲しがった高頻度トラフィック

さらに、ビッグテックも自社でクイックコマースに参入をしている。ビッグテックにとって魅力的だったのは、高頻度のトラフィックだった。生鮮食料品を購入する消費者は、ほぼ毎日アプリを開いて注文をする。この高頻度トラフィックを、生鮮食料品の購入以外にも流すことができれば、自社の本業であるECなどのサービスの成長に大きく貢献をしてくれることになる。これにより、アリババ、京東(ジンドン)、美団(メイトワン)、拼多多(ピンドードー)などがクイックコマースに参入する強い動機となった。

投資機関とビッグテックが注目をすることにより、クイックコマースは“いい香りがする”ビジネスとなり、2社が上場をすることになったが、現実に利益を生み出すのは簡単ではなかった。

 

無理があった農産品のダークストア管理

毎日優鮮とディンドンは、前置倉(前線倉庫)と呼ばれる方式を採用している。配達地域である住宅街に、小さなコンビニ程度の倉庫を多数設置をする。消費者がここに行って買い物をすることはできないためダークストアとも呼ばれる。注文は、注文者の住所によって近隣の倉庫に伝えられ、そこから配達を行う。つまり、配達先のそばに倉庫をつくることで30分という短時間配送を実現している。

しかし、前置倉に保管ができる商品には限りがあるため、商品の過不足を起こさないように精密な発注管理が必要になる。そのため、両社ともに注文数を予測する機械学習システムの開発に注力をしていた。

しかし、農産品の一大産地である山東省莘県のある卸業者は、このような管理には無理があったという。「例えば、りんごをとっても、私たちの卸では、陝西紅富士、

山東紅富士、四川大涼山、新疆アクス、甘粛紅牛と多数の品種を扱っています。さらに、それぞれにサイズ、糖度、形の違いがあり、一番摘み、二番摘みなどの違いもあります。すべて、味も違えば価格も違います。これを一種類のりんごとして扱うのには無理があります」。

さらに、出荷をした直後から鮮度はゆっくりと落ちていく。これをスマホや家電製品のように扱うには無理がある。クイックコマースがもし本気でやるのであれば、膨大なSKU(Stock Keeping Unit)を管理しなければならなくなる。卸業者は、経験のある人手により、一箱単位、一個単位の管理をしている。クイックコマースが、卸業者並みの管理を自動化することは簡単ではなかった。

結局、消費者は美味しいりんごが食べたいという時は、クイックコマースではなく、店頭に行って自分の目で判断することを選ぶようになってしまった。

 

店倉合一方式で、ダークストアの欠点を克服したフーマ

フーマフレッシュは、この問題を一定程度解決をしている。フーマフレッシュ300店舗が出店している地域は、アリババのスマホ決済「アリペイ」の決済ビッグデータから、消費力の大きな地域が選ばれている。簡単に言えば、経済的に余裕のある消費者たちが住んでいる地域を選んでいる。このような地域では、価格よりも品質や利便性に対する要求が強いため、一定以上の品質の生鮮食料品のみを扱うことで、管理の負担が大きく減り、利益率を高く設定でき、フーマの品質に対する信頼を得ることができる。

店内には大規模なイートインコーナーを用意し、鮮度が落ち始めたものは料理として格安で提供をしてしまう。これは商品ロスを減らす工夫になるののと同時に、フーマの食材を使ってつくれる料理メニューのプレゼンテーションにもなっている。さらに集客にも貢献してくれる。

さらに、フーマは出店地域の周辺の消費力がやや落ちる地域には、フーマアウトレットを出店している。本店で賞味期限などが迫った商品を移送し、棚積みで格安販売する店舗だ。消費力の落ちる地域にとっては、ワケあり商品だとは言え、品質の高いフーマの商品が格安で買えることに魅力を感じ、盛況となっている。これにより、商品ロスはさらに少なくなり、同時にフーマ本店の商品の鮮度を底上げすることになり、双方にいい効果をもたらせている。

また、フーマはPB商品(プライベートブランド)の開発にも力を入れていて、現在では商品の40%がPB商品になっている。小売だけでなく製造にも参入し、利益率を向上させようとしている。

 

アリババ新体制の中でのさきがけの上場となるか

フーマは、毎日優選とディンドンのような前置倉方式ではなく、大規模店舗を展開しそこを倉庫としても利用して宅配をする店倉合一方式をとっている。消費者は特別なりんごが欲しければ、店舗に行って自分の目で選んで買うこともできる。

購買力の高い地域に出店し、品質の高い商品を扱うことで、管理負担を減らし、商品ロストに関してはイートインと周辺のアウトレット店で消化をする。このような工夫で、クイックコマースに先駆けて、黒字化が可能なビジネスモデルを構築した。

アリババでは、フーマの他に、物流企業である「菜鳥」(ツァイニャオ)、クラウドサービスである「アリクラウド」も上場準備に入っていると報道されている。アリババは本社を「1+6+N」の体制に組織改革を行い、ホールディングの1、主要6事業とその他の独立事業体がそれぞれ独立した運営をし、それぞれが上場を目指す体制になった。最終的にはすべての事業体がそれぞれに上場をすることが目標だ。フーマは、このアリババの大量上場作戦の先陣を切ることになる。アリババの未来がかかった重要な上場になる。