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永輝の新小売スーパーが大量閉店。原因は、コロナ禍よりも需要に合わせた変化をしなかったこと

永輝が運営している新小売スーパー「超級物種」が大量閉店し、店舗数が半減している。コロナ禍の影響とも言えるが、コロナ禍で消費者の需要が変わったのに、業態を変化させなかったことが真の原因だと南方都市報が報じた。

 

永輝の新小売スーパーが大量閉店

チェーンスーパー「永輝」(ヨンホイ)が展開していた新小売スーパー「超級物種」(チャオジーウージョン)が大量閉店をしている。2020年5月末には、54店舗を展開していたが、現在公式アプリに案内されている店舗は20店舗ほどとなり、半分以下になってしまっている。

その理由は、やはりコロナ禍の影響だ。しかし、業態を変化させてこなかったことも大きい。

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▲飲食店ガイド「大衆点評」を開くと、多くの超級物種の店舗が「一時営業休止」になっている。

 

2016年に始まった新小売スーパー戦争

2016年、アリババの創業者、馬雲(マー・ユイン、ジャック・マー)は、オンライン小売とオフライン小売を融合する「新小売」(ニューリテール)という概念を提唱し、その具体例として新小売スーパー「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)の展開を上海市で始めた。

当初の新小売スーパーは、「生鮮スーパー+地域EC+レストラン」というものだった。普通のスーパーと同じように店頭で生鮮食料品を買うこともできるが、半径3km圏内であればスマホで注文して30分配送してもらうこともできる。また、店舗内のイートインコーナーで、販売されている食材を使った料理を食べることもできる。

このアリババの動きを見て、2017年、永輝は超級物種の展開を始める。1年で、26店舗を出店した。同じ年、美団(メイトワン)が「掌魚生鮮」を展開し、翌年ブランド名を「小象生鮮」に改名、2018年には20店舗を出店した。また、蘇寧(スーニン)は、「蘇鮮生」(スーフレッシュ)を展開、2020年には300店舗を出店している。

2018年には、京東(ジンドン)が「七鮮超市」(セブンフレッシュ)を展開、50店舗を出店している。

2018年、2019年は、このような多数のプレイヤーが参加する「新小売戦争」の状況となった。この影響で、既存のスーパーは大きな打撃を受けた。既存スーパーを母体とする永輝は、いち早く危機感を感じ取り、自ら超級物種の展開を始めたが、結果は惨敗という状況になってしまった。

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▲永輝スーパーが、アリババのフーマフレッシュに対抗して始めた新小売スーパー「超級物種」。店内で食事ができるイートインに力を入れていた。

 

需要の高い地域に集中出店したアリババ

一言で言えば、新小売スーパーは、アリババのフーマフレッシュの一人勝ちだ。ひとつは店舗数の多さだ。フーマフレッシュは現在200店舗+と、絶対数そのものは多くはないものの、アリババの淘宝網タオバオ)などのビッグデータ解析により、需要の高い地域に集中して出店している。

1つの店舗が半径3km圏内をカバーし、複数店舗で大都市の高需要地域を面でカバーする戦略であるため、効率のいい物流、配送が可能になる。各店舗間で商品の融通も可能であるため、商品ロスも抑えられる。

一方、その他の新小売スーパーは、店舗数が少なく、孤立した点として出店をするため、効率があがらない。

 

社区団購に市場を蚕食された超級物種

さらに大きかったのが、コロナ禍以降、社区団購(シャーチートワンゴウ)が拡大したことだ。社区団購は地域に密着した個人商店を拠点とし、事前にスマホや電話、店頭などで注文し、加盟店に配送される商品を受け取りに行くのが基本。しかし、地域密着店であるため、配送などもしてくれる。スマホも使うのが難しい、歩いてスーパーに行くのもしんどいという高齢者を中心に使われていたが、コロナ禍以降、テック企業が続々と参入し、安さと利便性に惹かれて若い世代も利用するようになっている。

特に利便性を感じているのが、単身世帯や二人世帯だという。このような少人数家庭にとって、既存スーパーが販売する生鮮食料品は量が多すぎる。白菜は1個でも多すぎる。かといって、半切りにしてある白菜は鮮度が落ちているのではないかと不安になる。しかし、社区団購では、地域の注文を加盟店がまとめてプラットフォームに発注するため、店主が融通を効かして、白菜半分の注文も受けてしまう。店主が配送されてきた白菜を半分に切り、再包装し届ける。余ってしまったら、店頭で安く売ってしまうか、自分で食べる。そういう融通が効くところが社区団購の魅力だ。

 

スタイルを変化させるフーマ、変えなかった超級物種

しかし、最も大きな問題は、業態をニーズに合わせて変えてこなかったことだ。超級物種は、コロナ禍になっても、創業した4年前と同じ古いスタイルをそのまま維持をしていた。そのため、「店頭」「オンライン」「イートイン」の3つの収益の柱のうち、コロナ禍で店頭とイートインが総崩れになってしまった。

アリババのフーマは、着々とスタイルを変化させている。創業時のスタイルは「店頭」「オンライン」「イートイン」で、セールスポイントはエビやカニなどの新鮮な海産物だった。店内に大規模な生簀を用意し、そこに生きたエビやカニを入れた。内陸部の店舗では、そのこと自体が珍しく、初期には多くの来客を引き寄せた。

しかし、海産物は商品の足が早い。衛生的には問題がなくても、不快なにおいが出始める。単価が高いため、商品ロスの額が大きい。スーパーでは扱いの難しい商品だ。そのため、販売だけでなく、イートインの食材として使うことで、商品ロスを減らそうとした。

しかし、フーマフレッシュの侯毅(ホウ・イ)総裁は、これは、追従してくる新小売スーパーに対する罠だったとも言う。「海鮮のイケスは私のアイディアで始めたものですが、営業的にはほとんど失敗でした。でも、これはフーマフレッシュのフォロワー、ライバルに対する罠でもあったのです。フォロワーが海鮮売場を拡大している間に、フーマフレッシュは海鮮売場の縮小を始めています」。

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▲フーマフレッシュがオープンした時、アリババの創業者ジャック・マーがカニを持って大喜びする写真がメディアで報道された。これで、フーマは海鮮に強いスーパーというイメージがつき、客を惹き寄せる魅力のひとつとなった。しかし、これはライバルに対する罠でもあった。

 

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▲フーマフレッシュが海鮮を目玉商品をしていたため、超級物種でも海鮮を拡大。しかし、海鮮は足が早く、単価も高いので、商品ロスの額が大きくなる難しい商品だ。

 

イートインから半調理品の販売へシフト

さらに、コロナ禍でイートインのビジネスも大幅に縮小をしている。当然ながら、店舗にくる客数が激減をしたからだ。その代わりに、半調理品の販売を大幅に拡大をした。ひとつはレトルト、冷凍などで、そのまま温めるか、食材を1つほど加えるだけで食べられる食品。もうひとつが、回鍋肉なら回鍋肉用に食材をカットし、セットしたパッケージだ。自分で味付けを調整して調理して食べることができる。さらに、野菜や肉、魚も特定のメニュー用にカットしたパックの販売も始めている。

つまり、フーマの店舗にきて、食事をして、買い物をして帰るという消費シナリオが激減をし、フーマに注文し、30分で宅配し、簡単な調理をして自宅で食べるという消費シナリオが急増したのだから、それに合わせて商品のラインナップを考えてきた。

この基本的なことが、販売業者目線しかない他の新小売スーパーには難しいようだ。客から学ぶのではなく、ライバルの新小売スーパーが何をしているかを気にして、そこから学び追従することになっている。

 

新業態だけでなく、本体も苦しむ永輝

永輝の内部の人が匿名で南方都市の取材の応えた。「超級物種の大量閉店は、上層部が決定したこと。新小売スーパーというビジネスモデルと永輝の組織がうまく噛み合わなかったことが原因。前向きな決断ではない」。

永輝は、超級物種で構築したスタッフや配送網を、社区団購に転用し、そちらでリベンジをする計画だという。本体の永輝スーパーも、コロナ禍以降、新小売スーパーや生鮮EC、社区団購に押されて業績は厳しくなっている。超級物種だけの問題ではなく、永輝本体が大きな転換をしなければならない状況になりつつある。