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新小売スーパーの主戦場は広州。フーマフレッシュが圧倒的に強い理由(上)

広州市に、「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)を始めとする新小売スーパーの4強が相次いで開店し、新小売戦争が熱い地域になっている。そのあおりを受けて、地元発の新小売スーパーが営業停止に追い込まれるなど影響が出ていると界面新聞が報じた。

 

広州市が新小売スーパーの戦場になっている

中国4大都市といえば、北京、上海、広州、深圳。大雑把にいって、北京と上海は人口が2000万人、都市のGDPが1.5兆元。広州と深圳が人口1000万人、都市のGDPが1兆元という感覚だ。

中国全土にビジネスを展開しようと思うのであれば、まずはこの4都市を攻略することが必要になる。しかし、広州は最後になることが多い。北京と上海は巨大な都市で、さまざまな人が暮らしているため、市場を発見しやすい。深圳は若い都市で、市民の年齢も若く、テクノロジーを使った新しいビジネスであれば受け入れられやすい。

一方で、広州市は、伝統的な中国都市の典型だ。華南地域の中心地としての歴史が長く、伝統的な産業構造もしっかりしている。この広州で、新しいスタイルのビジネスを成功させることができれば、華南地域、さらには中国全土も攻略できる道が見えてくる。

各新小売スーパーとも一昨年から広州市に進出をし始めた。広州を制したものが中国を制すと激しい競争になっている。

 

新小売スーパー4強が続々と広州市に出店

2018年4月に最初に進出したのは「フーマフレッシュ」(アリババ)。それに「超級物種」(永輝)が続き、昨年末には「スーフレッシュ」(蘇寧)、「7フレッシュ」(京東)と瞬く間に新小売スーパーの4強が出そろった。

広州市での新小売スーパー競争が始まってちょうど1年。やはりフーマフレッシュは強かった。2019年3月には、広州市8店目を出店した。年内に10店舗体制にする予定だ。

一方、「超級物種」は現在2店舗、スーフレッシュ、7フレッシュは1店舗で、今後の店舗展開の計画は明らかにしていない。

この影響で、地元のスーパーや地元のスタートアップ新小売「食得鮮」の業績が急速に悪化してしまった。一言で言えば、フーマフレッシュが地元勢を駆逐している状況になっている。

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広州市最初のフーマフレッシュ「天河曜一城店」の休日の様子。店の外まで行列ができ、人の流れが変わった。フーマフレッシュは、この人気を宅配ECに誘導していき、現在では宅配EC売上比率が50%を突破している。

 

新小売スーパーの基本は「店倉合一」

フーマフレッシュはなぜ猛烈な勢いで店舗数を増やしていくのか。ひとつには営業成績が好調であること、母体の資金力が桁外れなこともあるが、フーマの戦術は「ひとつの都市に複数店舗を展開して、市内全域をカバーする」ことだからだ。

新小売スーパーは「スーパーだけど、宅配もする。レストランも備えている」と説明されることが多いが、その本質は生鮮ECサービス。しかし、従来の宅配物流そのままでは、新鮮な生鮮食料品を短時間で宅配するのは難しく、冷蔵設備、冷蔵車など高コストの設備投資が必要になる。

そこでフーマは、「配達先のそばに倉庫を置く」という逆転の発想をした。つまり、フーマの店舗は、店舗機能よりも倉庫機能の方が比重が高い。最近では「店倉合一」(店舗と倉庫の一体化)という言葉もよく使われるようになった。フーマでは、店舗から周囲3km圏内を「フーマ区」と定め、その地域の家庭に30分配送を行なっている。

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広州市の現在のフーマ区の様子。西南に2つのフーマ区が隣接しているが、まだ飛び地状態になっていて、効率はよくない。2019年内に10店舗にする計画で、フーマ区で埋め尽くすことで、より配送効率が上がっていく。

 

店舗は倉庫、ショールーム、小売店

フーマフレッシュにとっての店舗は、「倉庫>ショールーム>小売店」という3つの機能を持っている。消費者は徒歩や自転車、自動車で行ける店舗に行き、実際に自分の目で生鮮食料品の品質を見極めることができる。それで安心をして、スマートフォンから宅配注文ができるようになる。

ショールーム機能としては、人を引き寄せなければならない。そこで、販売している商品を利用した料理を提供している。ほとんど利益は乗せていないという。なぜなら、これも「フーマの食材を使えば、こんなに美味しい料理が作れる」というプレゼンテーションのひとつだからだ。

さらに、内陸都市では珍しい豊富な海産物も販売している。これも客寄せの目玉のひとつ。水槽に生きた魚や蟹がいるため、小さな子どもがいる親子が、よくやってくる。さらに、週末になるとさまざまなイベントを開いて、人を惹きつける。

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▲フーマフレッシュで提供される料理は、すべて販売されている食材を使っている。あくまでも食材品質のプレゼンテーションなので、利益をほとんど乗せずに料理を提供している。

 

宅配EC比率を上げて、売上を青天井で上げていく

フーマフレッシュの売上は、60%以上が宅配ECになっている。店舗に来て、品質を自分の目で確認しているので、安心して注文できるからだ。週末には、親子で食事をしに来て、商品を見て、その場で宅配注文し、家に帰るという人もけっこういる。自分で重たい荷物を持って帰らなくていいからだ。

宅配EC比率が高いために、単位面積あたりの売上は、同規模スーパーの4倍近くになっているという。宅配ECの比率を上げていけば、単位面積当たりの売上は、理論上は無限にあげていくことができる。新小売スーパーはここを狙っている。

 

大きな問題となる宅配システムコスト

しかし、フーマ以外の新小売スーパーは、宅配EC比率を公開していないところも多く、20%弱ではないかと言われている。なぜ、フーマだけ宅配比率を上げることができるのだろうか。

宅配をするには、宅配スタッフを用意しておかなければならない。これはスーパーにとって、かなり大きなコストになる。そのため、宅配スタッフをいかに効率的に動かすかが鍵になる。注文が少ない時は宅配スタッフは遊んでしまうことになる。しかし、注文が多すぎると30分配送ができなくなり、遅配が起きる。スーパーとしては、消費者の信用を失う遅配を避けるため、ピーク時に合わせて宅配スタッフを用意せざるを得ない。これが固定費となり、経営を圧迫する。

そのため、多くの新小売スーパーは、経営を圧迫しない程度の宅配スタッフしか用意しないため、宅配注文を積極的に取りにいくことができない。宅配注文が少なければ、既存のスーパーと大差ないことになるし、宅配注文が多ければ配送システムがパンクをしてしまう。このジレンマを乗り越えることができずにいる。

 

多店舗展開、全域カバーで宅配EC比率を上げていく

ところが、フーマは宅配注文を積極的に取りにいっている。むしろ、店舗に対して宅配比率を上げる目標設定までしているほどだ。フーマの店内で買い物をして、セルフレジで支払いをしていると、スタッフが寄ってきて、「その商品、宅配もできますよ」と声をかけてくる。フーマでは宅配比率を上げるためにさまざまな努力と工夫をしている。

それで配送システムがパンクをしない秘密が「多店舗展開」だ。フーマの宅配スタッフは、身分としては店舗に属してはいるが、その店舗だけの配送をするのではない。ほぼ全員が「遊軍」なのだ。A店で荷物を受け取り、A地区に配送、その後、B店に行き、B地区に配送、再びA店に戻りと、ダイナミックに動いている。場合によっては、A店で荷物を受け取り、隣接するB地区に配達するということもある。

これができるのは、配達地域である「フーマ区」が隣接をして、市内をカバーしているからだ。配送スタッフが有機的に動けるため、配送スタッフの効率は極限まで高められている。勤務時間中は常に動き回っていることになる。配送の割り当てシステムは相当に練り上げられているのだと思われる。

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上海市のフーマ区の様子。複数のフーマ区が隣接をしているため、配送スタッフが遊軍として複数のフーマ区を縦横無尽に活動することができる。これにより、配送効率が上がるため、宅配注文を積極的に取りにいくことができている。

 

出店場所よりも、宅配地域の設定がより重要

2018年春に、広州に最初のフーマフレッシュが進出という話が広まると、地元広州の小売業者たちは、恐れるとともに、意外な思いをした。なぜなら、フーマは天河曜一城に出店をするというからだ。

地下鉄の「華師」駅から数分の場所だが、駅の東側は華南師範大学が広がっていて、フーマが出店する前の道は、人通りがあまりなく、スーパーには適さない場所だったからだ。一応、小さなモールにはなっているものの、この5年で、3度も改装しているようなビルだ。しかも、フーマはその2階に入居した。つまりは店舗には適さない場所なのだ。

しかし、この小売業者たちは、フーマのビジネスモデルを理解していなかった。フーマが場所を決めるのに最も重要視するのが、配達地域である「フーマ区」だ。宅配ECを最優先に考えているので、最もお金を使い、最もECを利用する属性の住人が多い半径3kmのフーマ区を最初に設定する。それには、スマホ決済「アリペイ」から得られる膨大なデータ分析の裏付けがある。

フーマ区が設定できれば、店舗はどこでもいいとまでは言わないが、アクセスのいい場所であれば、こだわる必要はない。店舗は、店でもあるが、本質は倉庫なのだ。

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▲1号店の天河曜一城店は、地下鉄「華師」駅から10分ほどかかり、立地はよくない。五山路の東側は大学で、フーマフレッシュの前の道は人通りも少ない。しかし、フーマが出店したことで人の流れが変わったと言われる。

 

物珍しさから来店する客を宅配注文に誘導していく

オープンすると、今まで人通りの少なかった道が様変わりした。オープンしてしばらくは常に長蛇の列ができ、現在でも週末はかなりの混雑だという。特に広州の人は夜が遅いのか、夕方から閉店時間の午後10時の間の宅配注文が多く、夜間売上では、フーマ全店舗の記録を更新するほどだったという。

当初は、物珍しさから来店した客が行列を作っていたが、フーマフレッシュはこれを丹念に宅配ECに誘導し、2019年に入って宅配EC売上比率が50%を突破した。フーマフレッシュ全店の宅配EC売上比率は60%弱なので、広州でも、フーマフレッシュが理想とする販売スタイルが取れるようになっている。

実は、広州市には地元発の新小売スーパースタートアップ「食得鮮」(シーダシエン)がフーマフレッシュよりも早く営業を始めていた。しかし、フーマフレッシュが進出すると、そのあおりを受けて実質的に営業停止に追い込まれてしまった。

なぜ、食得鮮はフーマフレッシュに負けることになってしまったのか。その理由を次回、ご紹介したい。

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▲フーマが広州市で最初に開店した天河曜一城店。集客力の弱いショッピングモールの、しかも2階という悪い場所。しかし、背後にはタワーマンションがいくつもあり、「フーマ区」としては絶好の場所だった。