中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

Tik Tokをアジアで大流行させた3つの戦略(下)

Tik Tokが中国、日本、タイ、ベトナムで大流行している。音楽に合わせて、口パクでダンスしている15秒ムービーを投稿する動画SNS。流行をしたのは偶然ではなく、UI/UX、グローカルなど3つの戦略があったからだと接招が解説した。

 

Tik Tokを大流行させた3つの戦略

Tik Tokは15秒動画のSNS。音楽に合わせて口パクとダンスをすることで動画が簡単に作れることから、中国だけでなく、世界的に大流行している。日本でも、JC JK流行語大賞2017のアプリ部門の3位にmusical.lyとTik Tokが選ばれている。

北京字節跳動科技有限公司(英文名Bytedance)が開発をしたTik Tokは、アジア圏で大流行をしている。

その成功の背景には、3つの戦略があった。

1)よく考えられたUI(ユーザインタフェース

2)技術力に支えられたUX(ユーザ体験)

3)グローカルなプロモーション

前回、1のUIについてはご紹介をしたので、今回は2のUXと3のグローカルについてご紹介する。

 

最高レベルの技術を投入しているTik Tok

Tik Tokは、そこまでやるのかと言うほど技術を追求して、快適なユーザ体験を提供している。

Tik Tokでは、犬の耳と鼻、猫のヒゲなどのスタンプを、リアルタイムで顔に合成することができる。このようなスタンプ合成は目新しいものではない。しかし、Tik Tokが従来のスタンプ合成と一線を画しているのが、激しい動きをしてもきちんと追従してくるということだ。従来のスタンプ合成の中には、顔の位置を動かすとスタンプがずれてしまうものがあった。

Tik Tokのスタンプ合成が正確な理由は、顔認識で常に106カ所の特徴点をリアルタイムで抽出しているからだ。単なる顔スタンプで、ここまで本格的な技術を投入するというのはあまり聞いたことがない。リアルタイムで処理をするのも簡単ではないはずだ。一般的な顔認証システムでも、特徴点の抽出は70カ所程度。

しかし、これが多くの人に受け入れられる大きな理由のひとつになっている。従来の顔スタンプでは、激しい動きをするとスタンプがずれてしまう。それを経験したユーザは、次第に動きを制限してしまうようになる。本当はこんな動きをしたいのに、スタンプがずれてしまうのでできないと感じた時点で、エンタメアプリの価値はほとんどゼロに等しくなる。つまらなくなってしまうのだ。

「エンタメアプリなのだから、技術レベルはこの程度でいいや」ではなく、「エンタメアプリだからこそ、最高の技術を投入して、技術的制限をユーザに感じさせず、エンタメだけに意識を集中させる」とTik Tokは考えている。

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▲撮影時には、顔を認識して、スタンプを合成することができる。これが実に正確で、被写体が激しく動いても見事に追従する。顔の特徴点を106カ所も抽出し、リアルタイムで処理するという高い技術が投入されている。エンタメアプリだからこそ、技術的制約を感じさせてはいけないという発想だ。

 

流行っているスタイルは、国によって異なっている

Tik Tok成功の3つめの理由は、グローカルなプロモーションだ。Tik Tokそのものはアジア圏各国で流行しているが、どのようなスタイルのビデオが受けているかは、各国の文化によって異なっている。

例えば、日本では若い女性の「元気」「可愛い」といったテイストのビデオが人気だが、中国では意外に多いのが家族でのビデオ。お年寄りから子どもまで一緒に撮って、腕だけのダンスをするというビデオが割と多い。恋人が二人で腕だけを使った手振りのダンスというパターンも多い。また、タイではやや大人目の女性と男性が、バラードっぽい音楽でゆっくりと踊るというビデオに人気があるようだ。

このような流行は常に変化をしていくが、流行はグローバルではなく、ローカルなものだという点がポイントだ。


คนไทย vs คนญี่ปุ่น เล่นแอพ Tik Tok Thailand VS Japan

▲日本とタイのTik Tokを比較したビデオ。国によって流行っているスタイルがかなり違うことがわかる。

 

流行を交換する。グローカルなプロモーション

そこで、字節跳動には、各国ごとのチームが存在し、毎日、担当国でどのようなテイストのビデオが流行っているかをウォッチしている。そして、A国で流行ったビデオを共有しあい、B国のチームがそれをプロモーションしていくという作業をしている。

例えば、Duraダンスと呼ばれるテイストのビデオは、中国で最初に火がついて、それから日本やタイでプロモーションをしたところ、人気となった。それだけでなく、中国で背景音楽に「ショートカットの女の子」「愛しているのは君」という2曲に人気が出たのを、インドネシアチームが目をつけ、インドネシアでプロモーションをしたところ、この2曲は中国語の曲であるのに、インドネシアで人気の曲となったという。

つまり、ローカルで起きた流行を、他国に移転することで、次の流行を生み出しているのだ。


【抖音】魔性嘟啦Dura舞,穿超短裙跳的小姐姐也太拼了吧!

▲中国で大流行したDuraダンス。そこから飛び火をして日本やタイでも流行している。

 

マンネリを避けるため、次々と流行のタネを投入する

字節跳動の最初のヒットサービスである「今日頭条」は、ニュースキュレーションアプリだ。ニュースの場合は、コンテンツは日々変わっていくし、ニュースを読む行為は習慣化しやすいので、1と2のUI/UXがしっかりして、使いやすいアプリであれば成功することができる。

しかし、Tik TokのようなエンタメアプリはUI/UXだけでは足りない。面白いと思った時は熱量が極限まで上がる反面、マンネリを感じるとその熱量が落ち、「飽きてしまう」「Tik Tok疲れ」のような現象が起きてしまい、短命に終わるケースもある。ここを補うのが3のグローカル戦略なのだ。他のローカル地域で起きた流行を移転してくることで、次から次へといろいろな流行が連続して起きているように演出することができる。実際、Tik Tokの中では、次から次へと新しい流行が起き続けていて、それが多くの人を惹きつけているのだ。

 

中国IT企業はすでに「Born to be Global」

字節跳動の張一鳴CEOは、Tik Tokの成功についてこう語っている。「デジタル化の潮流の中で、中国企業にもうコピーは必要なく、自らイノベーションを起こすことが必要になっている。今では、字節跳動をはじめとする中国企業は、米国の優秀な企業と同じようにBorn to be Globalになっているのです」。

中国の閉鎖的なインターネット環境は「巨大LAN」と揶揄されることもあり、当初はグーグルやフェイスブックのコピーを作っていた時代が続いた。しかし、アリババのスマホ決済「アリペイ」あたりから、中国ITは次のステップに入り、LANの外側へ普通に飛び出てくるようになった。

Tik Tokを使っている人の多くの人が、これが中国企業が運営するサービスだということは意識せずに使っている。いいものはいい。面白いものは面白い。アジアの国境が溶け始める時代が始まっている。