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Tik Tokをアジアで大流行させた3つの戦略(上)

Tik Tokが中国、日本、タイ、ベトナムで大流行している。音楽に合わせて、口パクでダンスしている15秒ムービーを投稿する動画SNS。流行をしたのは偶然ではなく、UI/UX、グローカルなど3つの戦略があったからだと接招が解説した。

 

アジア圏で大流行しているTik Tok

Tik Tokは15秒動画のSNS。音楽に合わせて口パクとダンスをすることで動画が簡単に作れ、中国だけでなく、アジア地域で大流行している。日本でも、JC JK流行語大賞2017のアプリ部門の3位にTik Tokが選ばれている。

特に中国国内では爆発的といってもいいほどの流行で、現在、1日の起動回数は1.5億回。これはスマホ決済「アリペイ」の起動回数とほぼ同じだという。

さらに、2017年8月に海外版がリリースされると、瞬く間に広がり、150以上の国でダウンロードされ、ユーザー数はすでに1億人を超えている。Sensor Towerによると、2018年第一四半期のApp Storeでのダウンロード数は4580万回となり、世界で最もダウンロードされたアプリとなった。App Annieによると、日本、タイ、インドネシアベトナム、フィリピン、マレーシアなどでApp StoreまたはGoogle Playの1位アプリとなっている。


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中国発のエンタメアプリ

このアプリを開発したのは、北京字節跳動科技有限公司(英文名Bytedance)。日本人には馴染みがないが、ニュースキュレーションアプリ「今日頭条」が中国内で大ヒットし、Tik Tokの他に、動画キュレーションアプリ「TopBuzz」「BuzzVideo」などが海外で使われている。

この口パク、15秒、ダンスといったコンセプトを最初に手がけたのは、musical.lyで、2014年にこれを始めたのも2人の中国人だった。musical.lyは上海とサンフランシスコに拠点を置き、世界に広げようとしていた。

Tik Tokは、2016年、musical.lyの後追いでサービスをスタートした。すぐに中国国内で火がつき、字節跳動はすでに「今日頭条」の成功で資金力があったため、2017年11月にmusical.lyを10億ドル(約1100億円)で買収。2つのサービスはTik Tokに統合されることになった。

この歴史を見ると、musical.lyが先行したイノベーターであり、Tik Tokはそのフォロワーであるように見える。しかし、musical.lyはなぜ世界展開することができず、Tik Tokは世界展開に成功したのか。答えは簡単で、Tik Tokは最初から世界戦略を持っていたからだ。

 

Tik Tokを流行させた3つの戦略

字節跳動の世界戦略は、3つにまとめることができる。

1)よく考えられたUI(ユーザインタフェース

2)技術力に支えられたUX(ユーザ体験)

3)グローカルなプロモーション

だ。

使った経験がある人ならわかると思うが、Tik Tokは非常に使いやすい。起動をするだけでおすすめのビデオが流れ始め、誰もが思いつく操作=フリックをすることで、次のビデオが再生され、誰もが思いつく操作=タップで停止する。再生ボタンや次へボタン、停止ボタンなどどこにもないのだ。

撮影関連もUIが非常に整理されている。ビデオを録画して、それにさまざまな効果をかけ、しかも時間コントロールもするというのに、15分ほどまごつくだけで、すぐに使いこなせるようになる。相当に練り上げられたUIになっている。

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▲Tik Tokを起動するといきなりおすすめのムービーが流れ始める。右側に並んでいるのがSNS系ボタンで、下の+ボタンをタップすると、自分のムービーが撮影できるようになる。

 

練り上げられたUI。道具として手になじむ感覚

最も画期的なのが、撮影のシャッターボタンだ。タップをすると撮影開始で、もう一度タップをすると撮影終了。これはスマホを伝統的なビデオカメラとして使う手法で、三脚にスマホをセットし、他人を取る場合は有効だ。しかし、セルフィーでは違う。自分で手に持ち、しかもTik Tokの場合、激しくスマホを動かす。この時、伝統的なシャッター手法であると、シャッターを押してからスマホを握りなおす必要が出てきたり、思わぬところでシャッターボタンに触れてしまい、撮影が中断されてしまうことがある。

そこで、長押しシャッターボタンが用意されている。これは触れている時に撮影が行われ、指を離すと撮影が終わるというものだ。しかも、触れている間に指の位置が動いても、ボタンの方が追従して移動するため、撮影が中断されない。これはデザイナーが相当Tik Tokでの撮影をやりこんでいないと発想できないUIだ。

UIが練り上げられているため、ユーザは「使い方」を意識することなく、手になじむ道具として使いこなすことができるようになる。

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▲撮影ボタンは中央下にあり、触れているときだけ撮影が行われ、指を離すと撮影が中断される。指が触れている間、指の位置が少しずれても、ボタンが指に追従してくる。実際に、スマホを激しく動かしながら撮影するということをやってみると、このUIの素晴らしさに気がつく。

 

エンタメアプリだからこそ、優れたUIが必要になる

この練り上げられたUIが、成功の大きな要因のひとつになっている。ショートビデオを共有するというアイディアは、ずいぶん以前から試みられていて、無数のサービスが登場しているが、どれも使い方が難しい。大げさに言えば、一眼レフカメラを扱うような専門的なリテラシーを必要とする。これでは、ユーザは使い方にばかり意識がいってしまい、Tik Tokの魅力である「どのようなビデオを撮れば楽しいか」に集中ができない。

Tik Tokは、徹底してUIを研究することで、ユーザが「楽しいビデオの内容」についてのみ考えられる環境を提供した。数回ビデオ撮影をしてみれば、誰もが使い方の達人になってしまう。優れたテニスプレイヤーがラケットで微妙なタッチを生み出せるように、スマホを使って自由自在に思い通りのビデオが撮れるようになるのだ。

次回は、3つの戦略のうちの、残り2つをご紹介する。