中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

アリババの社員はなぜ毎日喜んで残業するのか

アリババの社員がモーレツに働くというのは中国では誰でも知っている有名な話だが、その実態がどの程度のものであるのかはあまり知られていない。アリババ社員はどのくらい残業するのか、あるいはどのくらいの残業を強制されているのか。祥懿科技が報じた。

 

古都にある不夜城=アリババ本社

中国浙江省杭州市。「上に天国あり、下に杭州あり」と呼ばれるほど美しい街で、街の中心にある西湖は、古くから文人墨客が水墨画漢詩のモチーフにされてきた。街の空気感も、中国の典型的な大都市にある過剰な活力とは異なり、穏やかで落ち着いている。午後はお茶を飲んで過ごすような古き良き中国の習慣と、欧州系の洒落たセンスが融合し、独特の都市の表情を持っている。

その落ち着いた古都の中に、眠らない不夜城がある。アリババ本社だ。アリババは国内系企業としては図抜けた報酬が得られるが、一方で仕事は中国一ハードワークだと言われる。いったい、その噂はどこまで本当なのだろうか。

f:id:tamakino:20180408134213j:plain

▲アリババで働く社員たち。午後6時終業だが、その時間に帰る社員はほとんどいない。残業をするのが当たり前になっている。

 

就業時間は朝9時から午後6時までの8時間労働

アリババの終業時間は9時始業、6時終業、昼休み1時間の8時間労働で、多くの日本企業と同じだ。中国の習慣では、9時始業はかなり遅めの感覚だ。会社から30分程度のところに住むのが一般的であり、夜明けとともに起床する習慣があるので、かなりゆっくりと朝食を取り、あるいは勢力的な人はジムで汗を流してから出社する感覚だ。日本人の10時始業か、ひょっとすると11時始業ぐらいにあたるかもしれない。

tamakino.hatenablog.com

tamakino.hatenablog.com

 

午前1時退社で、初めて「今日は残業した」

午後6時、終業時間になるが、帰宅をする人は一人もいない。アリババの帰宅者の波は4つあるという。

第1波:午後8時。ようやく帰宅する人が出始める。

第2波:午後10時。多くの人がこの時間に帰宅をする。

第3波:午前1時。この時間に帰って初めて「今日は残業をした」という感覚になるという。しかし、さすがにこの時間まで仕事をするのは独身者が多く、女性も少数ながらいる。当然、地下鉄、バスなどはないので、歩き、自転車、車で帰れる人が中心だ。

第4波:翌日の午後6時。いわゆる徹夜組。プロジェクトの立ち上げをやっている人、繁忙期などは、この2日連続シフトがごく当たり前のことになる。

f:id:tamakino:20180408134217j:plain

▲大きなプロジェクト直前には、徹夜をするのが当たり前。3週間も家に帰らず、会社に居続けるということもよくある。写真は、独身の日セールの準備のために残業する社員たち。

 

喜んで残業する4つの理由

なぜ、アリババ社員はここまで働くのか。抑えておかなければならないのは、アリババが社員に残業を強制することは一切ないということだ。また、中国人の場合、「周りが帰らないから帰りづらい」という感覚を持つこともない。みな、自分の意識で残業をしている。

祥懿科技は、アリババ社員が自ら残業をする理由を4つ挙げている。

1)環境。アリババの社員には億万長者がゴロゴロいて、廊下で普通にすれ違う。アリババの報酬は完全成果主義なので、大きなプロジェクトを成功させた人には、特別ボーナス、自社株など、勤め人としてはありえない額の報酬が支払われる。駐車場には、高級車と自転車が普通に隣り合わせになっている。誰もが、自分も成功したいと頑張るようになる。役員などの一部の人だけが高給なのではなく、高給を取る社員がゴロゴロいるということがモチベーションを刺激している。

2)成長しない人はすぐに淘汰される。一方で、パフォーマンスの上がらない人の仕事はどんどんなくなり、成果も上がらず、給与はどんどん下がっていく。アリババ社内では「3日学ばないと、もう仕事はない」と言われている。

f:id:tamakino:20180408134220j:plain

▲大きなプロジェクトが走っている時は、仮眠室も盛況になる。

 

残業代をフルに支給することがいい効果をもたらしている

3)残業代が青天井で支払われる。残業代は打ち切り制ではなく、残業しただけ支払われるため、若い社員は、給与を補うために残業をしているところもある。しかし、ただ残業代を稼ぐための「仮想残業」にはなっていない。なぜなら、年に数回、業績の評価面接が行われ、それにより次期の目標と報酬が定められる。仮想残業ばかりしていて、サボっていたら、「残業は多いのに、成果が上がっていない」として、ベースの報酬がむしろ下げられてしまう可能性がある。

この残業代をフルに支払うということがいい効果をもたらしている。社員が新たな知識を学ばなけれならない時、自宅に帰って独学するよりは、会社で残業代をもらって学習をしようと考える。そうすると、自然発生的に社内で自主的な学習セミナーが開かれるようになる。このようなセミナーに参加した方が、一人で独学するよりも効率的に学べる。

一方で、仕事がらみのことをする必要がある時は出社をし、家にいる時は仕事がらみのことは一切しなくなる。これが、気持ちを切り替えるいいリズムを作っている。

4)信仰。ジャック・マー会長は、アリババは創立100年後にすべての理想を実現し、中国社会を世界一理想的な社会に変えると宣言している。アリババで働くことは仕事ではなく、その理想への挑戦をしているのだという。外から見ると、やや宗教的にも見えなくないが、アリババの社員はそれを信じている(それが信じられない人は、アリババを去ることになる)。

f:id:tamakino:20180408134223j:plain

▲プロジェクトの打ち上げの一コマ。全員が同じTシャツを着て、団結力が強いことがうかがわれる。しかし、外部では批判的に見ている若者も増えているようだ。

 

モーレツぶりに批判の声も。変わって行く中国人の意識

こうしてアリババ社員は、猛烈に働く。しかも強制されているのではなく、自分の意思で残業をする。

ただし、記事のコメント欄には、アリババを絶賛するコメントもあれば、批判的なコメントもある。中国では最近「仏系」という言葉が流行している。一切を悟って、多くを求めない、ほどほどで暮らしていくというライフスタイルを指している。ひょっとしたら、アリババのようなややもするとレトロな印象すら受けるモーレツな働きぶりは、曲がり角にきているのかも知れない。