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今回は、中国のロボット制御についてご紹介します。
みなさんは、今年2026年2月16日に放送されたCCTVの春晩の「武BOT」の演目はご覧になりましたでしょうか。
春晩は春節前の大晦日に放送される春節連歓晩会という番組で、日本の紅白歌合戦にあたるとよく言われます。実際は歌合戦ではなく、ドラマありコントあり踊りありというバラエティーショーです。日本の若者が紅白歌合戦に見向きをしなくなっているのと同じく、中国でも若者からは、春晩は大晦日の退屈な番組だと思われていました。
しかし、2024年に宇樹科技(Unitree)が参加するようになり、一気にロボットテクノロジーのショーケースとして注目されるようになりました。2024年の段階では、ロボットが二足歩行をする程度でしたが、2025年の秧BOTでは、ロボットが中国東北地方の伝統的な踊り「秧歌」を披露し、ダンスができることが示されました。
そして、今年の武BOTでは武術を披露し、バク転や片足踏切全店などを披露し、驚異的な身体能力を披露しました。ロボット技術に興味を持つ人にとっては驚くことの連続で、中国が人型ロボット産業の世界的なリーダーであることを強く印象づけました。
まだ、ご覧になったことがない方は、わずか4分半の演目ですので、ご覧になることをお勧めします。
▲春晩で放送された4分半のロボットショー「武BOT」。ロボットが考えられない動きを次々と見せてくれる。しかも、ライブ放送だった。
Unitreeが公開する動画の数々は、Xで世界中に拡散され、大きな話題になるということが繰り返されています。
最近では、短距離走でトップスピード10m/秒の世界記録を打ち立てました。100mを10.1秒で走り抜けました。
10m/s!! Unitree Breaks the World Record Again😊
— Unitree (@UnitreeRobotics) 2026年4月11日
With the physique of an ordinary person, running at a world champion’s speed!
Leg length: 0.4+0.4=0.8m, body weight: approx. 62kg!
H1: “Give me one more chance, give the world one more honor!” pic.twitter.com/Fk4Zo9zKit
▲100mを10秒1で駆け抜けるUnitreeが公開した映像。人間のアスリートの領域に近づいている。
武BOTも世界で大きな話題になりましたが、なぜか日本では大きくは取り上げられていないようです。大手メディアは広く一般の人が読者/視聴者ですから、仕方のないことかもしれません。
その頃、Xの投稿を読んでいたら、ある方が次のような投稿をしていて非常に気になりました。それは「武BOTは大したことはない。動きをプログラミングして、仮想空間で練習させたら、すぐにできる」という内容のものでした。
SNSというのは、気楽に投稿して楽しむものですから、その発言を取り上げて反論めいたことをするのは、投稿された方にも失礼なことだと思います。しかし、もし、あの武BOTが大したことがなく、簡単にできるものなのだという誤解が広がっているのであれば問題だなと感じました。
このような誤解はかなり広がっているのではないかと思わせることがあります。それは、今年1月5日の高市総理の年頭記者会見に出てきます。
ハードウェアである半導体の上で動くソフトウェアとして最も重要なのがAIです。AIは、どのようなデータを学習させるかで性能が大きく変わりますが、現在、世界をリードしている米国や中国が学習させているのは、主に言語や画像、動画です。
日本には、産業や医療、物流といった官民の「現場データ」が豊富にあります。特に、我が国が強みを有する製造業やサービス業が積み重ねてきた質の高いデータを集積し、学習させることで、ロボットが自律的に人間を支援する、精密なものづくりを行う工場が無人で制御される、といったことが可能となる「フィジカルAI」が実現できます。日本はこれで世界に打って出ます。
この一節は、そうとうな誤解に基づいています。もちろん、意図としては理解できます。日本はAIの分野では米国と中国から完全に遅れてしまった。米中が将棋で勝負をしているのだから、日本は囲碁で勝負しますという、新年に明るい話題を提供したかったのだと思います。
ところが米中がリードしている言語、画像、動画、音声のマルチモーダルAIと、日本が世界に打って出ようというフィジカルAIは、将棋と囲碁という別種目の関係ではありません。むしろ、詰将棋と本将棋のように、マルチモーダルAIという基礎の上にフィジカルAIが構築されるという関係になっています。
もし、日本がフィジカルAIで世界に打って出たいのであれば、何周遅れであっても、まずは大規模言語モデル、そしてマルチモーダルAI、推論機能と開発していき、ようやくフィジカルAIにたどり着く以外の道はありません。
従来のAIとフィジカルAIは別物なので、米中と同じスタートラインに立てるというのは錯覚です。向こうは、もうスタートラインから60mほどは先に進んでしまっています。これを逆転するのは簡単なことではありません。
もし、この既存AIの基礎なしで、いきなり、無理やりにフィジカルAIを開発すると次のようなことが起こります。ロボットを冷蔵庫の前に設置し、「冷蔵庫を開けて、ペットボトルを取り出してください」と命令すれば、日本のフィジカルAIロボットはこのタスクを遂行できるかもしれません。しかし、もし、リビングにロボットを置いて同じ命令をすると、ロボットは冷蔵庫がどこにあるのかがわからず、戸惑うことになるでしょう。
米中の既存AIの基礎があるロボットは、冷蔵庫がどこにあるかを推論能力を使って推定し、形状を把握して冷蔵庫を認識して、自力で近づいてタスクを遂行することができます。
このような勘違いが生まれる理由は、日本はロボット技術というと、1体の素晴らしいロボットをつくることを考えてしまうからかもしれません。中国の考え方は違います。ロボットプラットフォームを開発しようとしています。最も重要なのは、数十台、数百台を統括するサーバー内のAIで、ロボットはこのAIにぶら下がっているデバイスでしかありません。
中国企業が描いている最終形態というのは、次のようなケースです。ある工場で、A、B、Cの3つの工程があり、これをロボットで自動化させます。まずはそれぞれの工程に5台ずつのロボットを配置します。しかし、作業を進めてみて、Bの工程がボトルネックとなっていて生産性があがらないとAIが判断をすると、Aから1体、Cから1体のロボットをB工程に回します。
それぞれのロボットはB工程の場所に自力で歩いて行って、それまでとは異なるタスクを実行します。また、B工程の作業場所では、すでに5台のロボットが働いていますから、少し場所を譲って作業場所をつくるようなこともしなければなりません。
このようにして、工場にロボットを投入すれば、あとは自律的に最適な生産計画を立て、遂行してくれるということを目指しています。
場所は工場だけではありません。変電所や建設現場など、屋外作業もあります。それを考えていくと、人間と同じ二足歩行ができることが有利なのです。
武BOTではG1とH2という2つのロボットが活躍しました。小さい方のG1は研究用、教育用で、本格的に普及させようとしているのは大きい方のH2です。
この武BOTでは、3つの突出した性能が披露されました。
1)片足による連続3回の空中回転
非常に早い動作で、リアルタイムで乱れた姿勢を修正する必要があります。着地した地面の摩擦力も一定ではなく、自律的に姿勢を安定させることも必要です。

2)自律型のクラスターパフォーマンス
ロボット16台が協調して演技をします。他のロボットの演技が終わったことを目視確認してから自分が演技するなどの処理が要求されます。また、状況によっては他のロボットの間隔を適切にとるなどの自律的な判断も必要になります。あらかじめ、時間と場所が設定され、それどおりにやっていたのでは、なにかトラブルが生じると、すべてのパフォーマンスが崩壊することになります。自律的な調整機能が必須です。

3)人間との協調パフォーマンス
このパフォーマンスは、ロボット16台と河南塔溝武術学校の生徒86名との共演になります。人間もリハーサルを繰り返してはいますが、タイミングはロボット時間から見れば曖昧であり、場所もロボットの物差しから見ればずれが大きくなります。ロボットはこのような人の動きを判断して、そのずれを吸収するようにタイミングや場所を調整する必要があります。

片足着地という難しい連続3回転をこなせる身体性、ロボットが協調してクラスター行動ができること、人間とも協調して演技ができること。これはそのまま応用面で必要とされる機能です。この「武BOT」は、ただ見た目に楽しいパフォーマンスを実現しただけでなく、ロボットを導入しようと考えているプロフェッショナルたちに向けた機能面でのショーケースにもなっているのです。
これは「動きを教えて、仮想空間でトレーニングすれば簡単に実現ができる」ものではありません。Unitreeの核心的突破は、もちろんロボットの設計にもありますが、それを支える数々のAIモデルにあるのです。プリセットされた動きをただなぞっているだけではありません。
今回は、武BOTができるまでのメイキングプロセスを追いながら、Unitreeのチームがどのような困難に直面し、どのようなテクノロジーで解決していったのかについてご紹介します。
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