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地下商店街から始まったコミュニティ経済。上海が濃度の濃いオタクの街になるまで

上海市南京路の上海百聯ZX創趣場には40店以上の二次元グッズショップが入居をし、上海以外からも中高生が集まってくる場所になっている。しかし、上海百聯ZX創趣場の成功の前に、地下商店街でコミュニティ経済への助走期間があったと澎湃新聞が報じた。

 

目抜通りに集まる二次元ショップ

上海市南京路。上海きっての繁華街であり、東京で言えば銀座にあたるとよく言われる。しかし、雰囲気は洗練された都会と下町が同居をし、ハイブランドのブティックもあるかと思えば、安売りの3元ショップもあり、高級飲食店もあれば下世話な食堂もあるという、アップタウンとダウンタウンが混在している不思議な空間だ。

その南京路が、今度は秋葉原になろうとしている。華聯商業ビルが2023年に、二次元ショップを40店舗以上入れて、上海百聯ZX創趣場としてリニューアルしたところ、大量の中高生を惹きつけることに成功し、近隣の新世界城、百米香榭、迪美商業街、第一百貨店、静安大悦城なども二次元ショップを導入し、この界隈は歩いて行ける範囲に150店舗以上の二次元ショップが集積をし、にわかに秋葉原化をした。

▲上海のオタク地図を変えた上海百聯ZX創趣場。周囲のモールにも二次元ショップが入居し、南京路人民広場周辺は濃度の濃い場所になっている。

 

韓流グッズ、ロリータと模索をしてきた都市型モール

一般に、この変化は上海百聯ZX創趣場の成功によるものとされるが、実は2015年頃からこの変化はじわじわと始まっていた。最初に起きた変化は、迪美商業街(ディーメイ)だった。迪美は1995年に開設した地下のモールで、隣には香港名店街があった。最初は「新、奇、特、快」の4つをキーワードにした、低価格帯のアパレルモールだった。これは当時としてはごく一般的なモールのあり方だ。

しかし、20年も経つと、古びたモールとして客流が失われていき、1995年、盈石集団がコンサルに入り、大きな改造を行った。服飾店には、当時人気だった韓国ファッションの店を導入し、服飾店の割合を抑え、ゲームなどの体験店舗や飲食店などの割合を高めていった。その中で、人気になったのがeスポーツ系の体験店舗と韓流グッズを販売する店だった。

▲地下を利用した商店街モール「迪美商業街」。中野ブロードウェイのような雰囲気で、ここからコミュニティ経済が始まった。

 

ロリータでコミュニティ経済に気がつく

ところが、中国での韓流ブームは長続きをしなかった。そこで、2019年にはさらに改造を行い、「三坑服飾」を導入した。三坑服飾とは「3つの沼」というような意味で、にわかに人気になったロリータファッション、JK制服、漢服の3つを指す。つまり、韓流ファンからオタク層に対象を変えた。

韓流ファンとオタク層は、層がまったく異なるが、それ以外にも大きな違いがあった。オタク層はオフラインを重視するのだ。三坑服飾はECでも購入できるが、それを購入して着るというだけでは彼ら彼女らは満足をしない。それを着て集まり、食事会をしたり、オフラインミーティングのようなことをして楽しむ。購入するときも、ECで商品を選んで注文するのではなく、友人と一緒に店舗を見て回って楽しむ。

▲二次元ショップには中学生から大学生ぐらいまでがやってきて、自分の推しのキャラクターグッズを購入していく。

 

情報発信がメディアとコミュティと異なる

韓流の発信源は、テレビドラマやK-POPであり、コンテンツが起点になっている。そのため、おめあてのグッズを手に入れたいだけであり、ファン同士のつながりは薄い。同じ推しがある人と知り合いになり、おしゃべりを楽しむ程度だ。しかし、三坑服飾はマスメディア発信ではなく、オタク層自らが発信源となっている。そのため、今、何が流行っているのかはオタクコミュニティに入っていかないと知ることができない。また、三坑服飾は、一人で着て街を歩くのは抵抗がある。そのため、みんなで集まって着るしかない。

このようなことから、コミュニティが重要であり、迪美はそのことに気がついた。

最初に迪美に入居した三坑服飾「Daydream生活館」は、このことをよく理解していた。オーナーは、ビリビリで数万人のファンを持つインフルエンサー「魔都チョコレート」であり、自身のロリータファッション好きが高じて店を開いてしまったという人だ。彼女は、店を開くと、同好の士を店に招待をした。それは次第にイベントに発展をしていき、Daydream生活館はいつもロリータファッションの何らかのイベントが開かれているようになった。

すると、近隣の「魔咒MOJO」「告白気球」「CuteQ」などの三坑服飾店が同じようにイベントを開催し、地下にある迪美では、ロリータ、JK制服、漢服をきた女性が常に歩いている異空間となっていった。

▲店舗側からの入荷の告知。このようなコミュニケーションが重要になっている。

 

地下モールで密かに進んだオタク化

この改造に大きな貢献をしたのが「Kile綺麗少女」だった。隣接する香港名店街を運営する上海地下商城と迪美は兄弟会社だった。どちらも、上海市地下空間開発実業が株主になっているからだ。経営に苦しんでいた香港名店街はKile綺麗少女との共同プロジェクト「綺麗次元創意文化街」をスタートさせていた。三坑服飾の世界で有名になったインフルエンサーに声をかけ、店舗を出してもらうというものだ。インフルエンサーたちは、店舗運営には素人であるため、Kile綺麗少女が全面サポートをする。このプロジェクトにより、香港名店街と迪美は、三坑服飾に特化した地下モールになっていった。

▲不要になったグッズをファン同士で交換する場所。コミュニティ経済ならではの仕組みだ。

 

アニメ/ゲームグッズで成功する上海百聯ZX創趣場

コロナ禍以降、三坑服飾店舗に混ざって、谷子店(グッズ店)が入居するようになった。より若い中高生に向けて、缶バッチやカード、フィギュアといったアニメやゲームのキャラクターグッズを販売する店舗だ。店舗数は少ないが、売上は驚異的だった。三坑服飾とグッズ店では客層がかなり異なるが、友人と一緒にオフライン店舗を見て回りたい、イベントを楽しみにやってくるというコミュニティ経済という点では共通していた。

その状況を鋭く捉えたのが上海百聯ZX創趣場だった。2023年1月15日に、40店舗以上、店舗のほとんどをグッズ店にするという思い切った改造を行った。当初、この上海百聯ZX創趣場の様子を迪美や近隣の第一百貨などが注目をしていたという。グッズ店が人気になっているのはわかるが、まるごとグッズ店を入れるような大胆なことをしてだいじょうぶなのかと感じたからだ。

しかし、上海百聯ZX創趣場の人気は上昇するばかりだ。アニメやゲームのコスプレをした若者たちは、迪美の地下から、上海百聯ZX創趣場がある地上に飛び出すようになった。迪美と第一百貨はそれを見て、グッズ店を強化し、さらに近隣の新世界城、百米香榭、静安大悦城などもそれに続いた。

 

共通するのはコミュニティ経済であるということ

つまり、いきなり上海百聯ZX創趣場が登場して成功したというのではなく、地下モールでの助走期間があった。それは韓流、三坑服飾と変化をし、現在はグッズにたどり着いている。三坑服飾とグッズに共通をするのは、コミュニティ経済であり、オフライン店舗の役割が重要だということだ。

グッズが永遠に人気というわけにはいかず、モールが扱う商品はこれからも変化をしていくことになる。しかし、そこで重要なのはコミュニティ経済ということだ。コミュニティ経済であれば、オフライン店舗が重要であり、モールの存在意義が生まれる。消えていくしかないとまで言われた都市型モールは、自分たちの生きていく道を発見したかもしれない。