中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

双減政策から1年。補習系教育企業は6割倒産、4割業態転換。成功例はライブコマース「東方甄選」

宿題の制限と補習塾の禁止をした双減政策から1年が経った。そして、多くの教育企業が消えた。その結果、闇補習塾や親のオンライン授業などが生まれ、親の負担がかえって増えることになっていると経済観察報が報じた。

 

塾とオンライン教育を壊滅させた双減政策

昨2021年7月24日、中央弁公庁と国務院弁公庁は「義務教育段階の学生の宿題の負担と校外学習の負担をさらに減ずることについての意見」(http://www.moe.gov.cn/jyb_xxgk/moe_1777/moe_1778/202107/t20210724_546576.html)を公開した。宿題と補習塾の負担を減ずる内容であることから、通称「双減政策」と呼ばれる。

具体的には、学校が生徒に課す宿題の量を制限すること。そして、営業として行う補習を禁止したことだ。これで、いわゆる塾、オンライン補習などのサービスを提供していた教育産業は事実上の壊滅状態となった。

 

小中の補習サービスは完全壊滅

この双減政策は、多くの人にとって突然のことであり、教育産業にとっては晴天の霹靂だったが、この事態を予測していた教育企業もあったようだ。

2020年コロナ禍が始まると、多くの学校が登校を止めて、オンライン授業に切り替えた。「授業は止めても学びは止めない」という合言葉に乗り、急成長をしたのがオンライン補習サービスだ。

その大手である「作業帮」は、2021年1月に「オンライン教育を緩やかに発展させる」という本を出版した。コロナ禍で急激に需要が伸びたオンライン教育は、子どもたちに質の高い教育を提供するために、競争を緩やかにして、理性的な競争をする必要があるという内容だ。また、3月には業界研究会を主催し、政治家なども招いて、オンライン教育の競争のペースダウンについて議論をしている。

少なくとも作業帮は、政府の意向を察知し、自助努力を試みていたようだ。しかし、それもむなしく、7月には双減政策が実行されて、オンライン教育産業はほぼ壊滅状態となった。

5ヶ月後の統計では、補習塾が83.8%の減少、オンライン補習サービスが84.1%の減少となっている。生き残った企業も、補習サービスを提供することはできないため、プログラミングなどの補習にあたらない教育や、社会人教育にシフトをしている。

▲東方甄選のライブコマース。右のMCを務める董宇輝は、元オンラインの英語の人気講師。

 

6割が倒産、4割は業態転換へ

ある教育業界関係者によると、6割の企業は倒産をして、その他は別の領域に転換をしている。また、補習も業務として行うことはできないが、無料のボランティア、社会貢献活動としては行うことができるため、なんとか無料の体裁を取りながらマネタイズを図ろうとする細く、危うい道を選んだ企業もある。

ある企業は、無料の教育ムービーを公開して、そこから広告収入、投げ銭を得る、ムービーの中で文房具や教育機器を販売するという教育関連の小売業への転換を図ったところもある。また、カフェを展開したり、ダウンジャケットの販売を始める、農業を始めるなど、教育とはまったく関係のない領域に展開した企業もある。

 

集めた会員を活かして別のビジネスに転換をする

大手企業の悩みは、大量の会員を保有しているということだ。会員は宝にも等しいもので、業態転換をするにしても、この会員に対して新たなビジネスが提供できるかどうかが大きい。そこで、多くの教育企業が非営利化をしたり、補習にあたらない教育分野に進出をしたりした。しかし、多くの場合、会員の転換率は1/10程度でしかなかったようだ。

オンライン教育産業は有望視をされていたため、多くの投資資金が流れ込んでいた。しかし、双減政策以降はそのような投資はまったくと言っていいほど行われない。2021年前半には1410億元の投資が行われたが、2022年上半期はわずか24.77億元にまで減少をしている。

オンライン教育産業は、自力でお金を稼いで、生き延びる道を見出さなければならなくなった。

▲ライブコマース中に唐突に英語のワンポイントレッスンが始まる。これがタメになると受けている。

 

成人教育にシフトした企業も業績は渋い

双減政策から1年が経った現在、多くの教育企業が消えた。「巨人教育」「精鋭教育」「DaDa英語」は、教育以外の領域に転換をした。マンツーマンで英語教育を行い、ユニコーン企業となった「VIPKID」は、義務教育段階にある小学生と中学生の顧客を放棄し、高校、大学、成人の英語教育にシフトをした。米国に上場を果たした「51Talk」も成人の英語教育にシフトをし、海外事業を強化している。「新東方」「好未来」はオンライン補習を放棄し、科学、プログラミング、書道、芸術などの補習にあたらないオンライン教育にシフトをした。

しかし、うまく行っているとは言えない。好未来は双減政策前の2021年5月には314.3億ドルの企業価値があったが、双減政策直後には31.01億ドルまで減少をしている。

生徒がやってきて授業を受ける店舗型の補習塾は、そのほぼすべてが消えた。

 

ライブコマースで成功した東方甄選

しかし、成功をしている元教育企業も登場してきている。新東方は、「東方甄選」を設立し、ショートムービー「抖音」でライブコマースを始めた。出演するのは、元教師たちだ。ライブの中では、英語の授業を行いながら、商品の販売もする。董宇輝は、元々生徒たちから「英語の世界のジェイ・チョウ」と呼ばれ、授業もわかりやすいと人気だったオンライン英語教師だった。その先生が授業をし、メロンや烏龍茶を販売している。元生徒たちからの評判が広がり、3日で1777万元を売り上げるという成果を出した。2022年8月の抖音ライブコマースランキングでは、1位となり6.8億元(約137億円)を売り上げた。

さらに、新東方は中国人向けの留学サービスを現在企画中だ。外国語習得から、大学手続きなどの支援、現地での生活支援を総合的に提供するサービスになるという。

▲2022年8月の抖音ライブコマースランキング。オンライン教育企業「新東方」傘下の「東方甄選」が1位となった。

 

双減により親の負担は増加

双減政策のねらいは、宿題と補習の負担を減らし、人格形成に有用な素養教育をする時間を生み出すというものだが、親の中には、依然として有名大学に進学させることが子どもの幸せだと考える人も多い。

例えば、北京市では、清華大学北京大学のいずれかに進学させることが親の夢であり、それを実現するには「海淀六小強」と呼ばれる海淀区にある6つの有名高校に進学させる必要がある。この6つの高校の生徒の多くが、清華大学北京大学のいずれかに進学をするからだ。

そのような有名大学に進学をさせたい家庭では、補習に対するニーズが消えてなく、双減政策により、より親の負担が増加をしている。

 

広がる親子授業、闇補習塾

オンライン補習は禁止をされたが、親子の学習教室という体裁でオンライン補習を続けている企業もある。親子がPCの前にそろって座り、親子で授業を受けるというものだ。建前としては、親に授業内容を教えて、親が子どもに教えるというもの。成人教育という建前であるので、双減政策には抵触しない。

また、隠れて家庭教師、補習塾を開いているケースもあり、口コミで広がっている。しかし、このような家庭教師、補習塾は街中で営業をすると、子どもの出入りがあるためすぐに発覚をしてしまうため、郊外の農村で行われることが多い。そのため、親は遠方まで子どもを送り迎えする必要がある。

双減政策以前、補習塾、オンライン教育は激しい競争が行われていたため、授業料は非常に低く設定されていたが、このような闇教育の場合、競争も少なく、危険なビジネスでもあるため、授業料も高い。親の労力、経済の負担は以前よりもはるかに大きくなっている。

一般の家庭でも、子どもが宿題をしていてわからないところは親が見てやらなければならなくなっている。しかし、小学校高学年になると、親にとっても難しく手に負えなくなる。そこにこのようなグレーな補習の話を耳にすると飛びついてしまう。

双減政策のねらいは素晴らしく、高い理想を掲げたものだが、現実の進学にはあいかわらず学科の成績が重要視をされ、有名大学に進学をすることで人生を切り拓けるという構造は変わっていない。このままでは、グレーな教育がはびこることになり、かえって子どもたちの教育にとってよくないという声もあがり始めている。