メディアでは、「内巻」「躺平」「劃水」という言葉がよく使われ、頭打ちになったネット企業では若い社員がやる気を失っているかのような報道が続いている。それは本当なのだろうか。財経国家週刊では、ネット企業に勤める4人に取材をした。
テック企業界隈の流行語「内巻」「躺平」「劃水」
多くの人が、ネット企業の青春時代は終わったと感じている。今、テック企業の間で話題になっている言葉が「内巻」「躺平」「劃水」だ。
内巻(ネイジュアン)は、競争のための努力が外に向かわず、内に向かってしまうこと。製品を製造するとき、歩留まり(合格品率)が60%と低い時は、努力をすれば面白いように歩留まりが上がっていく。しかし、歩留まりが90%を超えると、どれだけ努力をしても歩留まりは上がらなくなる。ネット企業がサービスの普及率が低い時は努力をすれば普及率が面白いように上がっていく。しかし、普及率が高くなると頭打ちになり、努力はライバル企業を倒すため、負けないためという産業の内側に向かうようになる。さらに深刻になると、社内規律に向かい、意味のないルールがたくさんつくられ、単純な業務も複雑化をしていく。これが内巻で、健全な競争ではなくなるというものだ。
躺平(タンピン)は、寝そべるという意味で、努力をしても成果に結びつかないのだから、何もしない方がましという考え方。
劃水(ホワシュイ)は、水をかくという意味で、やっているふりをすることや本人は頑張っていても成果に結びつかず、結果としてやっているふりになってしまうことを指す。複数人の人で漕ぐ船で、要領のいい漕ぎ手はオールを水に入れるだけで力を入れていないずるをする様子からこのような言い方がされる。
いずれも、テック企業の成長は頭打ちになり、社員はやる気を失っているという文脈で語られる。しかし、それは本当なのだろうか。財経国家週刊は大手テック企業で働く4人の社員を取材した。
劉莉。双減で壊滅的な打撃を受けたオンライン教育企業
90后(90年代生まれ、20代)の劉莉は、最大40人の管理職を経験し、2021年5月にこのオンライン教育企業に転職をしてきた。管理職として新人教育をした経験があることから、HR(Human Resource、人的資源)の責任者として招聘された。オンライン教育の分野を選んだのは、将来性があると思っただけでなく、子どもがちょうど就学前の年齢で、英語を学ばせたいと思っていたからだ。
ところが、転職して2ヶ月後に突然「双減」が起きた。中央弁公庁が発表した「義務教育段階の学生の宿題負担と校外学習の負担のさらなる軽減についての意見」で、学校が課す宿題量を制限するだけでなく、補習系のオンライン教育、学習塾が全面的に禁止になるという厳しいものだった。民間の教育企業はほぼ壊滅状態となった。劉莉は本来、優れた人材を採用し、育成することが仕事だったが、この瞬間から社員を大量解雇することが仕事となった。
リストラは人ごとではなかった。劉莉のチームは10数名いたが、HRですら解雇せざるを得なくなり、1人消え1人消えする中で、HR部門は劉莉1人の部署になってしまった。劉莉は他の部門の管理職への異動を願い出ているが、現状を考えると難しく、このつらい仕事をやり続けるしかない。
劉莉は転職をしたことで、報酬が2倍になっている。幸いなことに、報酬の減額はまだ始まっていない。ネット企業の多くがリストラをしており、採用を絞り込んでいる。今の状況では、ここで頑張るしかない。毎日車で通勤し、家に帰るのは8時か9時。残業があると帰宅は10時をすぎる。帰ると子どもはすでに寝ている。子どもたちは双減によって負担が大きく減ったが、劉莉は双減によって負担がかえって大きくなった。
張亮。週休二日制で手取り報酬が減少
1987年に生まれた張亮は、大学を卒業後ネット企業に就職をし、それから数回の転職をしてきた。2021年2月に現在の大手テック企業に採用された。報酬も卒業後の初任給から比べると数倍になっていた。
入社してすぐ週休二日制が実施された。今、ネット企業の多くが週休二日制の導入を進めているが、以前の大小週制度(隔週週休二日制度)を好む人も多い。なぜなら、休日出勤は報酬を2倍にすることが義務付けられているからだ。そのため、週休二日となる週の土曜日に出勤をすれば、手取り給与がかなり多くなる。一方で、週休二日制は、土日の出社が厳しく制限される。
張亮の給料も20%近く目減りしてしまった。給料をあてにして、条件のいいマンションを賃貸しているため、支出を減らすために節約をしなければならなくなった。
しかし、増えた自分の時間を勉強に使っている。ネット企業の業績が頭打ちとなり、週休二日制により手取り報酬が減ってしまっただけに、次の仕事を意識しないとこの世界では生き残っていけない。仕事が忙しい日には疲れて「躺平」になってしまうこともあるが、毎日、寝る前には自分が何をするべきかを考えている。
李聡。35歳の最後のチャンスで民間企業に転身
35歳の李聡は伝統的な業界の国営企業で13年働いてきたが、2021年になって、ネット企業に転職をしてきた。なぜ、ネット企業では「引退年齢」とも言われる35歳でネット企業に飛び込んだのか。
以前の企業では、努力をすれば出世をしたが、その出世のスピードが10年前と比べて遅くなっている。企業の進化は、伝統企業からプラットフォーム企業へ、そしてAIを活用したスマート企業へと考え、自分の人生の中で最後のチャンスと考え、プラットフォーム企業に転職をした。
この転職は成功だと思っている。以前の国営企業では、新しいプロジェクトを始める時は、たくさんの会議を開いて、細かなところまで詰めてからようやく実行をする。しかし、今の企業では、細部を詰めずに先に実行し、やりながら修正をして細部を詰めていく。
当初は面食らったこともあったが、2ヶ月ほどもすれば慣れてしまい、むしろ今のやり方の方が自分に合っていると感じている。国営企業から転職してきたということを気にする同僚はまったくいなく、みな楽観的で、プロジェクトが失敗するなどとは考えていない。
以前の国営企業では朝9時から夕方6時まで働いていたが、今は朝9時から夜9時まで働いている。それでもつらいとは思えない。報酬も6割ほど増えた。毎日、ビジネス書の読み上げ音声を聞きながら通勤をしている。
徐歓歓。生まれた時間を自分に投資をする
6年前にメディア企業から投資機関に転職した時、徐歓歓は目標を持っていた。それは自分の達成感を満足させるために、急成長する投資案件を担当してみたいということだった。
そのため、徐歓歓は努力をした。資料を読み込み、多くの人に会い、投資する領域について学び、新製品について研究し、それを経済的な背景と結びつけて分析をし、社内で評価に値する投資案件を担当し、10数人のチームのリーダーとなった。
しかし、今は投資に向かない時期になっている。ネット企業の業績が頭打ちとなり、将来上場するような企業はないわけではないが、探すのが難しくなっている。そういう意味では、投資機関にとって今は「躺平」の時期だとも言える。
しかし、投資機関にとって、躺平の時期は何度も経験している。いわゆる経済循環のひとつにすぎない。そのため、徐歓歓はこの時期を、過去の投資案件を振り返り、整理をし、次の投資に向いた領域を探すのに適した時間だと考えている。業務のフェーズが変化をしたというだけで、投資機関としては何も変わっていないという。徐歓歓は、時間に余裕ができたことから自分の人生を考える時間も生まれ、より自分の目標を達成したいという思いが強くなっている。
今は、次の飛躍のための仕込みの時間
テック企業では、「内巻」「躺平」「劃水」という言葉がよく使われるようになっている。そのような気分が広がっていることは確かだ。しかし、実際に自分の行動までそうなっているかどうかはまた別の話だ。頭打ちの時期になったらなったで時間を有効に違い、次の飛躍のための仕込みをおこなっている。多くの人が、次はどこから風が吹いているのかを見極めようとしている。