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若年層失業率が過去最高の19.3%。これは摩擦的失業なのか構造的失業なのか、意見が分かれる専門家の見方

16歳から24歳の失業率が19.3%と過去最高になった。国家統計局は、これは摩擦的失業によるもので時間とともに解消されるとした。しかし、専門家の中には構造的失業であり長期化をするのではないかと見る人もいると中国網が報じた。

 

話題になった摩擦的失業という言葉

「摩擦的失業」という言葉が新語として広まっている。経済学では古くから使われる専門用語だが、国家統計局のスポークスマンが「摩擦的失業」という言葉を使ったため、広く一般にも知られることになった。

失業は、その要因から3つに分類される。

1)需要不足失業

経済の先行き不安から、生産が落ち、労働への需要が減少した時に起こる失業で、いわゆる不景気によるもの。企業は賃金を下げようとし、労働者は賃金が低いのであれば働くのをやめようと考え、失業率が上昇をしていく。

2)構造的失業

企業が労働者に求める技能や学歴、年齢、勤務地などの特性が、労働者の特性とミスマッチが起きることによる失業。製造業では失業が起きているのに、介護では人手不足が起きているような状態。

3)摩擦的失業

労働者が就職や転職をするための職探しをする期間による失業。

▲国家統計局は「摩擦的失業」という言葉を使って、若年層の高い失業率は一時的なものだと解説したが、専門家からは異論も出ている。

 

若年層の失業率は19.3%

2022年上半期の16歳から24歳までの若年層の失業率が19.3%にも達した。記者からその要因を尋ねられた国家統計局の広報の付凌暉氏が、「摩擦的失業」という言葉を使って、若年層の就職意欲は高く、労働市場に初めて参入する若年層には普遍的に見られる現象だと説明した。

現在は、新型コロナの感染再拡大により、企業の採用能力が低下をしており、同時に大学卒業生が過去最高を更新するほど多かったことにより、摩擦的失業が起きていると説明した。

つまり、あくまでも一時的な現象であり、コロナ禍の状況が正常化されれば、いずれ解消する問題だと説明したかったようだ。

 

摩擦的失業暦10ヶ月の崔静さん

崔静さんは、「摩擦的失業」状態がすでに10ヶ月続いている。2021年に前職を辞めた時、崔静さんは生きるペースをゆっくりにすることを決断した。

崔静さんはある雑誌社で働いていた。仕事のペースは早く、ストレスも大きい。頭の中は常に張り詰めていたが、糸が切れてしまうことすら許されない。それに疲れて、衝動的に退職してしまった。

辞職をしてから、2つのことを始めた。ひとつは就職活動で、もうひとつは英語の学習だ。銀行口座の残高を見て、出費を抑えることもした。服を買う回数を減らし、タクシーには乗らずバスや地下鉄を使う。さらに、フリーライターとして仕事をし、カフェやコンビニでも働いて生活費を稼ぐようにした。

 

履歴書に空白期間が生まれることが不安

経済問題はなんとかなりそうだが、心配をしているのは、労働市場に復帰をするとき、履歴書上はこの今の期間が空白になってしまうことだ。自分としては、自分の将来を考え直す期間を持つことはいいことだと思っているが、企業はなかなか理解をしてくれない。

同様の摩擦的失業状態の人は多いが、多くの人が、キャリアを考えて、納得のいかない職でも就いてしまい、再びストレスにさらされるということを繰り返してしまう。

崔静さんでさえ、この摩擦的失業期間に20通以上の履歴書を企業に送っている。しかし、それは同様の状態の人からすれば、とても少ない。

辞職をして3ヶ月が経つと、「今後、職を見つけることができなくなってしまうのではないか」という不安に襲われて、積極的に就職活動を始めたが、そこに新型コロナの感染再拡大が起きた。就職をしてもいいと思える企業が見つかり、面接も順調に進んだが、最終的には、新型コロナの感染再拡大により、採用を見合わせるということになってしまった。

▲求職者の合同説明会は、どこも多くの人が殺到する。一部の職業に殺到をするため、高い競争率の職業と人手不足の職業に二極化をしている。

 

辞職後は就職活動が仕事になる

3ヶ月間、摩擦的失業期間を過ごした趙晗さんは、新しい仕事を見つけることができ、ほっとしている。

前職は教育産業だが、1年勤めて辞職をした。入社して半年ほど経った時、機械のように毎日同じことを繰り返すことに疲れてしまった。2021年に双減政策(宿題量の制限と補習ビジネスの禁止)により、教育産業は大きな打撃を受けた。さらに、新型コロナの感染再拡大もあり、会社の前途は暗いものになってしまった。会社もリストラを進めており、それで趙晗さんは辞職をした。

辞職をしてしばらくは気持ちも晴れやかだったが、1ヶ月ともたなかった。すぐに「仕事を探さなければ」という焦る気持ちが支配的になった。それが新たな仕事であるかのように、履歴書を書いて、企業に送る。午前中に10通以上の履歴書を送り、午後は面接に行く。しかし、企業が認めてくれても自分が満足できず、自分が満足できる企業は向こうが採用してくれないということが続いた。

就職サイトを見ると、「納得のいく仕事を見つけるまでに送った履歴書の数は数百通以上」という話があり、自分はまだ努力が足りないと焦り始める。「摩擦性失業」に関連をした報道を見ながら、自分は高望みをしすぎなのだろうかと不安に感じ始めている。

 

摩擦的失業は短期間で解消される?

浙江大学国際連合商学院のデジタル経済・金融イノベーション研究センターの盤和林主任によると、摩擦的失業は構造的失業とは異なり、持続時間は短めで一時的なものだと解説した。

16歳から24歳までの失業率は19.3%と高いもので、前期よりも0.9%ポイント上昇し、2018年からこの統計を取り始めてから過去最高となった。しかし、全体の失業率から13.8%ポイントも高く、この世代特有の失業、つまり摩擦的失業と見做すのに合理性があると解説した。

 

構造的失業なのではないかという批判も

中国政策科学研究会の経済政策委員会の徐洪副主任は、摩擦性失業という言葉に懐疑的で、大卒世代に構造的失業が起きているのではないかと考えている。労働市場が要求するスキルが高すぎ、提供する報酬や条件が低すぎ、大卒生が持っているスキルや希望する条件と合っていない。摩擦的失業と構造的失業が同時に起きていると考えるべきではないかという。

この時代状況では、多くの大卒生が安定した職業を求める。具体的には教師か国営企業の人気が高まっている。多くの大卒生が同様に考えるため、競争は熾烈になっていて、多くの大卒生が希望する職業に就くことができないままにいる。

現在の若年層失業率19.3%が、摩擦的失業なのか構造的失業なのか、あるいは両者の複合型なのかは、時間が経ってみないとはっきりとはしない。しかし、教科書に出ている摩擦的失業よりは長期化する可能性は高いと考えざるを得なくなっている。