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始まった中国義務教育の情報教育。どのような授業が行われることになるのか

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今回は、中国の情報教育についてご紹介します。

 

日本でも小学校、中学校でプログラミング学習が必修科されました。このプログラミング学習は、C言語Javaといったプログラミング言語の学習だと誤解している人もいますが、文部科学省が目指しているのは「プログラミング的思考を養う」ことです。そのため、タブレットなどの基本操作は教えますが、基本的には数学や国語、理科、社会などの各教科の中で、デジタルツールを活用した学習をすることになります。例えば、社会科では地域の事情を取材してビデオ撮影し、それをムービーにまとめたり、スライドにして発表をしたりということをします。決して、コーディングを教えるわけではありません。

 

中国では、2022年版の「義務教育情報科技課程標準」が公開され、小学校1年生から情報科技の授業が行われることが決まりました。今年の9月から施行されます。

これまで、中国が情報科技を教えてこなかったわけではありません。すでに2010年代には先進モデル地区を指定して、情報科技の授業を取り入れ、学校単位、地区単位で試みられてきました。また、2017年頃からは、多くの省市の独自標準で、小中学校での情報教育が行われてきました。今回、国の標準に組み入れられたことで、すべての小中学校で情報教育が行われることになります。

この先進地区で先行をさせていたということがポイントです。すでに授業案も蓄積をしていますし、教育人材も育ってきています。やりたい人に先にやらして、いろいろ問題が起きることもあるけど、それで環境が整ったところで国家標準にするという、いつもの中央政府のやり方です。

今回は、この課程標準に掲載されている事例や、先行していた授業例から、どのような教育が行われているのかをご紹介したいと思います。

 

まず、その前に、情報科技の期末試験の問題例を2つご紹介したいと思います。対象は小学校高学年から中学生です。いっしょに解いてみてください。

 

問題

インターネットの普及により、多くの駐車場がスマート駐車場になっています。車が入庫する時は、スマート駐車場のシステムが監視カメラを通じて車両を撮影し、ナンバーを認識してからゲートを開けます。出庫する時は、運転者がスマートフォンで支払い用のQRコードを表示して、それで支払いをすることで、駐車場の外に出ることができます。



問1:スマート駐車場で、人工知能技術が使われているのは(  )です。

A.車両の撮影 B.QRコードのスキャン C.ナンバーの認識 D.支払い

問2:図の中の監視カメラが、スマート駐車システムの中でどのような役割をしているか、簡潔に述べてください。

問3:スマート駐車システムは、どのようなデータを収集しているでしょうか。「車両の入庫時」「支払い時」それぞれに、どのようなデータを収集しているかを述べてください。

 

もちろん、授業の中でスマート駐車場システムの仕組みを教えているわけですから、あまり難易度の高い問題ではないと思いますが、初見だとけっこう難しいはずです。大人でも全問正解は難しいのではないかと思います。出庫時にもナンバーを認識し、駐車時間から料金を計算しているという記述が抜けているので、全体像が少しわかりづらくなっています。この入庫時と出庫時の両方でナンバー認識をしているということを忘れていると、どこかの問題で間違えてしまいます。

 

もうひとつの問題は、タブレットやPCを持ち込んで、時間内に要求されるデータ整理を行い提出するというものです。実際に与えられた表計算データを編集してグラフなどをつくったりする設問です。

 

問題

大気の汚染度は、直接人の健康に影響します。王君のグループは大気汚染の調査をし、100日間の気象データ(最高気温、最低気温、風力、大気汚染指数)を表計算データとしてまとめました。大気汚染の指数による評価基準も入手することで、王君のグループはデータを分析して、報告をする準備が整いました。

 

作業1:大気汚染指数は1級から6級までの6段階に分かれます。100日間のデータを大気汚染の級別のグラフにまとめてください。

作業2:100日間の天気、最高気温、最低気温、風力についても、適切なグラフにまとめてください。

作業3:天気の状況と大気汚染にはどのような関係がありますか。適切な表やグラフを作成し、結論とその理由を述べてください。

 

作業としても大変ですし、かなり難しい問題だと思います。作業1はExcelヒストグラムのツールを使えばすぐに終わりますが、6つの区間に分けるのが結構面倒です。最初からExcelの分析ツールを使った方が間違いないのですが、いくら授業で教えたと言っても、小学生が分析ツールを使うというのは、かなり難しいように思います。その他の作業も、自由度が高すぎて、しっかりと考えないと、どこから手をつけたらいいかわからなくなります。

 

また、授業も非常にユニークです。モデル地区に指定された北京市東城区の小学5年生の顔認識の授業では、スマートフォンの顔認識などを使ってその仕組みを教えますが、その後の実習では、顔認識機能をごまかすチャレンジをさせます。

変顔をして認識を逃れようとする生徒、サングラスをかける生徒、顔を手で覆う生徒などさまざまなです。このようなゲーム性を持たせることで、顔認識の仕組みを理屈ではなく、体感で理解させることをねらったものです。

中国の情報教育の特徴は、「身近な題材を使うこと」です。先ほどの試験問題のスマート駐車場や大気汚染や顔認識、顔認証は、子どもたちにとっても身近なものです。

もうひとつの特徴が「体験やゲーム性を重視している」です。たとえば、小学校低学年の課題で「家の中にある人工知能を使った家電や電子機器を探してリストにする」というのがありました。多くの子どもがお掃除ロボットスマートフォンをリストにするでしょうが、では、どこに人工知能技術が使われているのかという討論を子どもたちにさせると、ものすごく面白いことが起こりそうです。

今回は、中国教育部が公開した「情報科学教育課程標準」に基づいて、情報教育の授業例をご紹介していきます。

 

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