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中国を中心にしたアジアのテック最新事情

マスクつき顔認証の現在の精度は95%前後。入退室管理では実用レベルに到達

中国で入退室管理や決済認証に用いられてた顔認証。それが新型コロナウイルスの感染拡大で、マスクをつける人が増え、課題にぶつかっている。すでに昿視科技、百度ではマスクつき顔認証を実用レベルにまで精度を上げていると中国安防行業網が報じた。

 

普及した顔認証にマスクという新たな課題

中国では、オフィス、公的機関、教育機関などの入退室管理に顔認証が広く使われている。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大により、マスクをつけるのが一般的になり、そのままでは顔認証ができないことから問題になっていた。

入退室管理をする場所では、人が滞りやすく、そこでいったんマスクを外して顔認証をするというのは、感染リスクを瞬間的に高くしてしまう。以前から顔認証システムを提供している昿視科技、百度などでは、感染拡大を受けて、マスクをしたまま顔認証が可能になるシステムの開発を始めている。

 

避けられないマスク付き顔認証技術の開発

企業向けの入退室管理システムだけでなく、スマートフォンの顔認証ロック解除などにもシステムを提供している昿視科技では、「マスクつき顔認証は、顔認証技術にとって新しく生まれた難題です。しかし、挑戦をしなければなりません。私たちは実現することを何よりも重んじる企業だからです」と語っている。

精度の面ではまだ改善が必要なものの、マスク付き顔認証はすでに実用レベルとなり、多くのシステムがアップデートされている。昿視科技は、多くのスマホメーカーに顔認証技術を提供していることから、近々に、スマホの顔認証ロック解除もマスクをしたままできるようになる可能性がある。

 

目認証と顔認証を併用する

マスク付き顔認証を実現するには、2つの技術上のポイントがあった。ひとつは顔認証ではなく、目認証のシステムを構築することだ。目の部分だけで認証ができるように、人工知能を学習させる。これと従来の顔認証を併用することで、個人識別ができるようになる。

しかし、ただ目認証と顔認証を切り替えて使う、同時に使うだけではうまくいかない。そこで、顔映像の中で、どこにより強く注目すべきかも人工知能に学習させた。マスクをしていない、顔全体が撮影されている場合には、目、鼻、口、顔の輪郭などに注目をして識別をするようにし、マスクをしている場合には、目や顔の輪郭に注目をし、マスク部分は注視しないように判断をする。

また、マスクをしている場合は、ほぼ目と輪郭だけで判断をするようになる。このように識別に利用できる要素が少ない時は、自動的に判断基準を厳しくすることで誤認識を減らす工夫をしている。

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▲目認証と顔認証をただ組み合わせるだけでは精度が出ない。状況によって顔のどの要素に注目をするかも人工知能に学習をさせ、利用できる要素が少ない場合は認識基準を厳しくする。

 

不足した教師データをGANで大量生成

また、マスク付き顔認証を開発する際、問題となったのが、「マスクをした顔」の画像データが圧倒的に不足をしていたことだ。これにはGAN(Generative Adversarial Network、敵対的生成ネットワーク)技術が利用された。

GANは教師データが得られない場合に、教師なし学習をする場合に用いられる手法で、データを生成する人工知能と判別をする人工知能の2つを用意し、それぞれが敵対しながら学習を進めていくというものだ。

よく、「偽金づくり」と「鑑定士」に例えられる。偽金を作る方は、鑑定士をごまかすように学習していき、鑑定士は精巧な偽金も見分けられるように学習をしていく。これを繰り返していけば、両方の人工知能が、教師データなしに学習をしていける。

このGANを利用し、すでに豊富に持っているマスクなしの顔画像から、マスクをした顔画像を生成し、これを利用して最終的な学習を行った。

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▲マスクつき顔認証の開発では、マスクをした顔画像という教師データが不足をした。マスクの形状、材質によっても人工知能の学習結果が変わってくるからだ。そこでGAN手法を使い、大量にマスクつき顔画像を生成し、これを教師データとして学習させた。

 

現在の識別率は95%。入退室管理では実用レベル

現在、一般的な企業の入退室管理では、識別率が95%以上にまでなっている。5%以下の確率でうまくマスク付き顔認証ができないことがあるが、その場合は、マスクを外して再度認証してもらうことになる。

百度でも、ほぼ同様の手法でマスク顔認証を完成させ、2月下旬からまずは自社の入退館システムに導入し、問題点を洗い出した。現在は、以前から百度のシステムを利用していた100社以上の企業にマスク顔認証のアップデートを行った。

さらに、百度では、同時に複数の人をマスク顔認証できるシステムも開発済みで、これであれば、通路などに設置をし、人は立ち止まることなく、歩いて通過するだけで認証ができる。このシステムも、空港や駅、公的機関などに導入が始まっている。

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百度はすでにマスクつき顔認証を開発済みだが、精度を上げるデータを取るため、自社の入退室管理に導入し、実験を行なっている。

 

決済認証にも利用可能な精度が求められている

中国では以前からマスクをつける人が増えていた。大きな理由は大気汚染だ。さらに花粉症にかかる人も増えている。また、冬は防寒にもなるということからマスクをつける人が増え、そのような人にとっては顔認証が不便な認証方式になっていた。これが、新型コロナの感染拡大で解決される。

今後、注目されるのは、普及が始まっていた顔認証決済だ。マスク付きでも認証できるのが理想的だが、決済認証の場合は最低でも99%以上の認識率が必要になる。誤認識で決済をしてしまうことはあってならないことだし、認識されずにやり直しをすることがたびたびあると、消費者の間に不安が生まれ、顔認証決済が避けられてしまうことになる。マスク付き顔認証の精度をどこまで上げられるか、注目されている。

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▲同時に複数の人をマスクつき顔認証ができ、同時に体温測定もできるシステムも開発済みで、駅や空港などの公共施設への試験導入が始まっている。