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宏光MINI EVに続け。各メーカーから50万円EVが続々発売。コモディティ化する小型EV

小型EV「宏光MINI EV」の大ヒットにより、各社から小型EVの発売が続いている。いずれも宏光MINI EVの2.88万元からという価格を意識し、3万元前後の値付けになっている。小型EVは航続距離が短いことから日用の短距離移動に使われる。ここからEVシフトが始まると小胡娯楽君が報じた。

 

宏光に続いて続々登場する50万円EV

中国で大ヒットとなっている五菱(ウーリン)の小型電気自動車(EV)「宏光MINI EV」(ホングワン)が売れ続けている。昨年2020年8月にEV販売ランキングで1位になって以来、14ヶ月連続して1位の座を保っている。

このヒットを見て、同様の小型EVが続々と登場してきている。雷丁(LETIN)は2.98万元で「芒果」(マンゴー)を、奇瑞(チェリー)は2.88万元で「QQ氷淇淋」(QQアイスクリーム)を発売し、小型EVの領域での競争が激化をしている。

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▲すでに国民的大歩車となった「宏光MINI EV」。本来は、地方都市の通勤用として企画されたEVだが、都市部の若い世代にも受けるという嬉しい誤算があり、大ヒットEVとなっている。

 

消費者が求めているのは移動ツール

小型EVが売れている最大の理由は、自動車というカテゴリーの商品というよりも移動ツールとして見られるようになっているということだ。このようなEV系移動ツールには、電気自転車、電動バイクもあり、小型EVを含めて、俗に「代歩車」と呼ばれる。歩く代わりに利用する車という意味だ。

電気自転車の満充電の航続距離は70km程度、電動バイクは150km程度、小型EVは120km程度。つまり、小型EVのライバルはガソリン車や航続距離が600km以上もある高級EVではなく、明らかに電動バイクなのだ。

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▲雷丁が発売した「芒果」(マンゴー)。価格は2.98万元。都市部の若い世代、特に女性をターゲットにしている。

 

価格は電動バイクの倍以上であるものの、屋根がある

電動バイクは1万元から1.5万元程度が売れ筋価格帯で、小型EVの半分以下。しかし、屋根がない。そのため、冬場に乗るのは厳しく、雨の日は難儀をする。小型EVは屋根があり、ヒーターもついているので、冬でも雨でも乗ることができる。

さらに、電動バイクの場合、バッテリーは3年程度で交換しなければならない。一方、小型EVは8年10万kmが交換の目安になっている。小型EVは本体価格が高いものの、得られる快適さやバッテリー交換のことを考えると、電動バイクに対して強い競争力を持っている。実際、小型EVが売れるにつれ、電動バイクの販売台数は縮小している。

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▲奇瑞が発売した「QQ氷淇淋」(QQアイスクリーム)。価格は2.88万元。明らかに若い女性をターゲットにしている。

 

バスしかない地方都市で売れる小型EV

このような小型EVが売れているのは、大都市ではなく地方都市だ。地方都市では地下鉄などの公共交通が発達をしてなく、バスに頼らざるを得ない。人口増加も著しく、通勤時にはバスが満員になる。中心部以外は本数も少なく、待ち時間も長い。

代歩車があれば、通勤、買い物、子どもの送り迎え、親戚や知人を尋ねるといったことが自由にできるようになる。地方都市というのは大都市に比べて街の大きさが小さい。航続距離が短い小型EVでもじゅうぶんに実用的なのだ。

地方都市でありながら、小型EVの優遇策を取り入れて、新車販売の3割がEVになっているというEVシフトを成功させている都市、広西チワン自治区柳州市で、2020年7月から2021年6月までの間、大規模な小型EVの利用調査が行われた。その結果によると、小型EVの走行距離は1回あたり7.56kmで、1日の走行距離でも30.38kmだった。

このような代歩車としての使い方であれば、EVの航続距離を始めとする欠点が影響をしてこない。

 

購入補助金の縮小により低価格小型EVに注目が集まる

このようなことから、「EVシフトは小型EVから」というのはかなり以前から言われていて、そこに挑戦をするメーカーも多かった。しかし、市場を確立することはできなかった。政府の補助金の仕組みが小型EVにとって不利だったからだ。

中央政府は、2015年から航続距離80km以上のEVに対して3.15万元の購入補助金を出し、地方政府もこれに合わせた補助金制度、免税制度を実施したため、これがEVの販売を後押しした。しかし、2017年には2万元に、2019年には航続距離250km以上に1.8万元と段階的に減額をされていった。つまり、政府は高価格になりがちな高性能のEVに補助金を出していた。これにより、小型EVは補助金対象とならず、多くの人が小型EVを買うよりは、補助金を使って高性能EVを買おうとしたため、小型EV市場が成立をしなかった。

しかし、この補助金が減額をされていくと、高性能EVの売れ行きは鈍っていったが、その分、小型EVが価格で勝負ができるようになっていった。そこに、2020年7月に宏光MINI EVが2.88万元からという驚きの低価格で登場をした。これにより、小型EV市場が立ち上がり始めた。

 

ガソリン車感覚のままでは後悔をすることになる高性能EV

高性能EVの評判は芳しくない。長距離ドライブをするときには、事前に充電ステーションの位置を確かめておき、充電の計画を立てておく必要がある。自動車本来の自由気ままな移動ができなくなる。休日や連休などでは、あてにしていた充電ステーションに先客がいて、待たされるということも起きる。冬季にはバッテリー性能が低下をするため、いつもより早め早めの充電を心がけなければならない。

燃料車の感覚で、EVを購入してしまうと、どうしてもこのような欠点が目について、後悔をすることになる。

むしろ、EVを「代歩車」=日用移動ツールと割り切ってしまえば、このようなEVの欠点が気にならなくなる。通勤、買い物、子どもの送り迎えなど短距離の利用を自由に行うことができ、駐車場は充電設備のあるところを利用し、食事や買い物の間に充電をしておけばいい。EVは自動車の一種ではなく、電動バイクのような代歩車の豪華版と考えることで実用度が高くなる。

 

スマホと変わらないコモディティ化が始まったEV

さらに大きいのが、消費者の自動車に対する意識の変化だ。2010年代、自動車は一般の消費者にとって簡単には購入ができない高額商品であり、ステータスシンボルとなっていった。自動車を所有することが成功した社会人の証であり、同じ車を持つのであれば少しでもグレードが高い車を持ちたい。

しかし、価格帯が代歩車の領域に入ってくると、このステータスシンボルの感覚は薄くなる。このようなことを気にする人は、高級外車などのより高価格帯の車にシフトをしている。一般の消費者にとって、EVはもはや移動ツールであって、電子製品や家電製品と変わらなくなっている。自分の使い方を考え、適切な性能の代歩車を選ばばいいのであって、スマートフォンの選び方と変わらなくなっている。

小型EVはほぼ8年10万kmでバッテリーを新しいものに交換をしなければならず、そこでかなりの出費が必要になる可能性がある。しかし、今、小型EVを買っている人は、8年経ったら新車に買い換えることを想定している人が大多数であるという。8年後には、より性能が高く、価格が安い小型EVが登場していることが予想できるためだ。この辺りもスマホとの付き合い方に似ている。

小型EVが登場したことにより、消費者の移動ツールに対する考え方が大きく変わっている。それがEVシフトの推進力となっている。