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3年で価値が半減以下になってしまう電気自動車。本格EVシフトに求められる中古車市場の確立

EVの中古車価格は3年で半減以下にまでなってしまう。性能が進化をしている最中で、バッテリーの劣化も起こるからだ。そのため、中古車市場が成立をしない。本格的なEVシフトを進めるには、中古車市場の確立が必要になると参謀長説車が報じた。

 

中古価格が急速に下落をする電気自動車

電気自動車EVシフトが本格化している中国。牽引をしているのは小型EV「宏光MINI EV」とテスラの「モデル3」「モデルY」だ。地方都市の日用車として「宏光MINI EV」が、都市部の高級車としてテスラが売れている。これに伴い、BYDなどのEVも売れている。

しかし、EVオーナーの間で問題になっているのが、中古車価格の安さだ。多くのEVが3年で中古相場価格が購入価格の半分以下になってしまい、中には4割を切るようなケースもある。ガソリン車の場合は、6割から7割であり、中にはその希少価値から3年後の中古相場価格が112.43%に上昇するというトヨタアルファードなどの例もある。

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▲2021年1月から9月までのEV販売数ランキング。小型EV「宏光MINI EV」が市場をリードしているが、高級車に分類されるテスラ2車種も都市部で売れている。本格的なEVシフトが始まろうとしている。

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▲ガソリン車では3年程度であれば、中古価格はさほど崩れない。トヨタアルファードなどは、入手のしづらさもあり、中古車が新車価格以上で取引されている。

 

3年で残存価値が半分以下になるEV

このEVの中古価格の問題は、中央電子代の財経チャンネルでも特集され、その中で浙江省杭州市で中古車販売業を営む劉さんの例が紹介されている。劉さんは2020年にEVが売れ始めたのを見て、EV中古車の取り扱いを始めた。しかし、EV中古車を購入する人は少なく、販売価格を下げるしかなく、10数万元の赤字を出したという。

上海のある業者は、EV中古車は1年ものでも新車価格の5割から6割程度の価格でなければ売れず、同グレードの燃料車に比べて20%ほど価格を下げなければ売れないという。

「2021年10月中国自動車残存価格報告」(中国汽車流通協会)によると、一年もののEV中古車の中古価格ランキングでトップとなったのはポルシェタイカンの86.2%、2位は宏光MINI EVの85.6%となったが、いずれも入手の難しさによるもので、3年ものの中古価格は一部の人気車種を除くと、多くが50%を割り込む状態になっている。

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▲NEV1年後、3年後の相場価格ランキング。いずれも希少価値が高く、市場で入手しづらい高級車が上位にきている。しかし、3年後では多くの車種が50%以下になる。

 

EVの中古価格が下落する3つの理由

EVの中古価格が下落をしやすい理由は3つある。

ひとつは、EVはまだまだ未成熟な技術で、毎年性能が上がった新車が発売されるため、中古車の価値が急速に失われていく。特にバッテリー容量と航続距離は短期間の間に大きく改善されている。3年前は、航続距離200km以上というのが一般的だったが、現在では400km以上が一般的になっている。わざわざ性能の劣る中古車を買うのであれば、相当に価格が安くなければ誰も買わない。

 

新エネルギー車の中古市場がまだまだ小さい

2つ目は、まだまだEVの中古車市場がじゅうぶんに形成されていないことだ。新エネルギー車の保有台数は数百万台の水準でしかないが、燃料車は数億台になっている。EVの保有台数は、燃料車に比べればまだまだ小さい。市場が小さいということは購入を考える人が少ないということで、価格は上がりづらい。

 

評価基準も整備されていない

3つ目は、まだ中古車市場の仕組みが確立をしていないことだ。燃料車に関しては、査定項目の標準化が行われ、相場価格情報も常に出回っているため、業界全体でほぼ同じ相場が形成されていくが、EVに関しては査定方法も標準化されず、業界側も査定経験が少ないため、相場が形成しづらい。

 

EVはバッテリーが劣化したら買い換える

最も売れているEV「宏光MINI EV」のバッテリー交換時期は、8年10万kmが目安だと言われている。本体価格が2.88万元(約52万円)からと安いこともあり、多くの人が交換時期がきてもバッテリーを交換するのではなく、新車に買い換えることを考えているという。ちょうど、進化が著しかった時代のスマートフォンと同じように、バッテリー交換をするのではなく機種交換をしてしまうという考え方だ。

EVの中古車市場が形成されるためには、まずEVの技術が成熟をして、性能の進化が安定する必要がある。自動車の市場が成熟をするには、中古車市場の存在も必須となる。EVの中古車市場を形成することがEVシフトにとっては重要になるが、EV中古車市場が自立するまでにはまだまだ時間がかかりそうだ。