中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

わずか24時間で100万人のファンを獲得。バーチャルキャラクター「柳夜熙」のクオリティの高さぶり

2021年10月末に抖音で公開されたわずか2分のショートムービーが大きな話題を呼んでいる。柳夜熙というバーチャルキャラクターを使った作品で、そのCGのクオリティの高さ、映像全体のクオリティなどから、ファン登録がわずか24時間で100万人を超えた。この映像を制作したのは、映像制作スタジオ「創壹視頻」。継続して映像を制作していく予算を確保するためにはIPの確立が必要だと判断しての挑戦だったと小胡娯楽君が報じた。

 

わずか24時間で100万人のファンを獲得したショートムービー

中国版TikTok「抖音」(ドウイン)で、10月31日に公開されたショートムービー「柳夜熙」(リウイエシー)が爆発的に拡散をし、わずか24時間で100万人のファンを獲得し、現在560万人以上のファンを獲得している。

内容は、柳夜熙というバーチャルキャラクターを使ったCG作品だ。リアルな映像とシームレスに合成され、中国の古典的な怪異物語の雰囲気と最先端のCG特殊効果がうまく融和されている。ちょうど大きな話題になっていたメタバースとも関連づけられ爆発的な拡散をした。

f:id:tamakino:20211203103647j:plain

▲柳夜熙では、CGと実写が違和感なく融合されている。これが中国特有の怪奇譚の雰囲気と結びついた。

https://www.douyin.com/video/7025168734767631629?previous_page=others_homepage&modeFrom=userPost&cursor=0&count=10&secUid=MS4wLjABAAAA_hsHsgWtEn6fIAs-1U5uhNNlvjtTDcAQZuApn4s-vCaVQdY6ulIRGeQTyYvJxRSf&enter_method=post

▲大きな話題を呼んだ「柳夜熙」のショートムービー。CGキャラクターと実写キャラクターが違和感なく合成されている。

 

特殊効果に長けた映像制作スタジオ「創壹視頻」

この映像を作ったのは、創壹視頻(チュアンイー)。すでに、オリジナルの特殊効果を使った「拍照自修室」、ショートストーリーの「慧慧周」「非非宇Fay」などのアカウントで、ショートムービーを発信し、その特殊効果の開発力、クオリティの高い制作力などで人気となっていた。しかし、ここまで短期間で拡散したショートムービーは初めてのことになった。

f:id:tamakino:20211203103643j:plain

▲創壹視頻創業者の梁子康(リャン・ズカン)CEO。映像制作能力は高い集団であるもののマネタイズに苦労をし続け、現在はIPを確立してビジネス化することに挑戦をしている。

 

特殊効果の開発から始まった創壹視頻

創壹視頻が創業したのは2018年。わずか10人程度の小さな企業で、画像解析系のAIエンジニアと映画、テレビなどの映像制作のプロが結びいて生まれた企業だ。今までになかった映像表現を追求することがミッションで、特殊効果を使ったショートムービーを発表していった。

その中で発表したのが「控雨」という特殊効果だ。雨の中を傘を差した女性が歩いている。手を出して、雨を止める仕草をすると、雨粒が空中に停止をする。手を左右に振ると、雨粒がその動きに連動して左右に動くというものだ。

この特殊効果は、抖音の利用者が自分でも使えるようになっていて、1900万回も利用され、この効果を利用したショートムービーは累計で200億回を超える再生をされている。抖音の使われた特殊効果ランキングの10位以内にも入った。

これで名前が知られるようになった創壹視頻に企業からムービーの制作依頼が入ってくるようになり、創壹視頻も利益が出るようになり2018年の終わりには50名程度の企業に成長していた。

f:id:tamakino:20211203103652g:plain

 

https://www.douyin.com/video/6513401808545647879

▲創壹視頻が最初にブレイクした特殊効果「控雨」。雨粒を手の動きで制御できるようになるというもの。この特殊効果を使って、自分でムービーをつくることができる。

 

ショートストーリーで物語の創作能力を示す

次の目標が、クオリティの高い映像制作能力があることを示すことだった。そこで「慧慧周」「非非宇Fay」という2つのアカウントから、ショートストーリーの配信を始める。

内容は特殊効果を抑え目にして、感動を誘う物語が多い。例えば、ある食堂でフードを被った男性が食事をしている。そこに外で、火災報知器のベルが鳴り響くと、男性は外に走り出す。食堂の店員は無銭飲食かと思い、追いかけるが、男性は出口のところで立ち止まり、その男性の顔を見た通行人がびっくりした顔をする。その男性は消防士であり、顔に大火傷を負ったことがあり、その跡が残っているのだ。席に戻って食事代金を支払おうとする男性に、店員が「お金をもらうことはできない」と告げる。つまり、彼は英雄でありながら、その火傷のためにつらい思いをしている。そういう人からお金を取ることはできないという中国特有の感動物語だ。

このような複雑な物語をわずか40秒程度で表現する構成のうまさ、火災の中にいる消防士や火傷の後の特殊効果、映像全体のクオリティの高さなどから、創壹視頻には高い制作能力があることが証明された。

 

https://www.douyin.com/video/7028510849962642696

▲映像制作能力があることを示すため、感動的なショートストーリーも制作している。特殊効果は前面には出されていないが、要所要所で物語を支える使われ方をしている。

 

制作能力だけでは、次の制作予算が稼げない

しかし、利益は安定をしない。ショートムービーを発表しても、結果は水物で、どのようなムービーが受けるのかが予測できない。ムービーを1本つくるにはそれなりの製作費が必要になり、人手もかかる。確実に拡散し、収入を安定させる方法が必要だ。

映像集団としての評判は高まり、企業からの広告依頼(特定の商品をテーマにしたムービーを制作し配信する)、商品の販売委託(抖音の機能を使って、ムービーから商品が購入できる)などを行なっていたが、創壹視頻が必要とする収益を上げることは簡単ではなかった。広告映像は、再生数が伸びづらく収益も上がりづらい。商品の販売は大量に売れるが、手数料利率が低いために大きな収益にはならない。

f:id:tamakino:20211203103645j:plain

▲柳夜熙のモデルデータ。顔の造作、髪型、化粧など、試行錯誤をしていることがわかる。

f:id:tamakino:20211203103649j:plain

▲非常に精密にモデリングされた柳夜熙。独特の化粧も話題になり、その化粧を真似した女性のショートムービー投稿も大量に生まれている。

 

持続的に映像制作をするにはIPの確立が必須

この問題を打破して、大きな収益を上げ、より大掛かりな映像制作の予算を生み出すという好循環に乗せるためには、IPの確立が必要だという結論に達した。つまり、創壹視頻ならではのキャラクターを生み出し、そのキャラクターを軸にショートムービーを展開していくことが必要になった。リアルな映像を追求しているため、アニメキャラクターのようなものは使えない。そこで、高精細のバーチャルキャラクターが作成された。それが柳夜熙だ。

現在、柳夜熙のムービーは実質2本しかないが、最後には「乞うご期待」という字幕が表示され、今後も柳夜熙の物語が公開されていくはずだが、そう簡単には増えないとも見られている。なぜなら、すでに創壹視頻は150人規模の映像制作集団に成長しているが、それでもこのレベルの映像をつくるには1ヶ月かかるからだ。

多くの人が柳夜熙の次回作を期待している。創壹視頻の本格的な成長がこれから始まるかもしれない。