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EVに新たな問題。メーカーが発火事故予防にバッテリーにリミッターをかけてしまう「鎖電」

EVオーナーの間で、「鎖電」が新たな問題になりつつある。年間70件起きている発火事故を予防するために、バッテリー容量にリミッターをかけてしまう。満充電にできなくなるため、発火事故のリスクが低減する。しかし、航続距離は短くなり、しかもディーラーはオーナーの了承なく鎖電を行なっているのではないかと車家号が報じた。

 

前年の2.6倍となった新エネルギー車販売

電気自動車(EV)の売上は、2020年後半から急速に上向き、2021年はかつてない販売量となった。中国汽車工業協会の発表によると、2021年のEVの販売量は291万台となり、前年の2.6倍となった。自動車全体では2627万台、3.8%の伸びとなったが、燃料車は5%減であり、EVなどの新エネルギー車へのシフトが進んでいることがうかがわれる。

さすがに、1台目の自動車としてEVを考える人は、まだまだ多くはないものの、家庭の2台目の車を考える時は、多くの人がEVを選択肢に入れるようになっている。通勤、買い物、子どもの送り迎えといった日用車としてはEVの方が使い勝手がいいからだ。

 

新たなEVの問題「鎖電」

EVに対する見方は、2021年の間に大きく変わったが、以前から指摘されていたEVの問題が解決をしたわけではない。バッテリーの爆発、発火問題もある。また、航続距離がカタログ値より実際は少ないという問題もある。特に寒冷地では航続距離が大きく落ちるため、バッテリー切れで立ち往生をし、救援要請をする事態も起きている。さらに、だいぶ整備されてきたとはいうものの充電ステーションもまだまだじゅうぶんではない。

EVの人気は高まっているが、これらの問題が解決されたわけではなく、専門家はEVを購入するときは、このような問題を考慮することが必要だと警告している。

さらに、それだけではなく、「鎖電」と呼ばれる新たな問題も起き始めている。

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▲EVオーナーの間で問題になっている「鎖電」。ディーラーが無料点検と称して、バッテリーにリミッターをかけてしまうというもの。

 

年間70件起きる発火事故を予防する鎖電

鎖電というのはバッテリーの容量にリミッターをかけてしまうことだ。満充電にすることができなくなり、発火事故やバッテリーの劣化による爆発事故のリスクを下げることができる。

EVの発火事故は、年間70件以上が起きていて、その多くが充電中または充電後1時間以内に起きている。つまり、満充電状態の場合に発火事故リスクが急激に上がる。鎖電は、充電リミッターをかけ、満充電にしないことで発火事故リスクを減らすという考え方のものだと思われる。

威馬(ウェルトマイスター)のEVを購入したあるオーナーが、ディーラーから「無料点検と200元の紅包進呈」という言葉につられて、無料点検に出した。車が帰ってくると、明らかに充電量にリミッターがかけられたとしか思えない現象が続いた。充電時間が短くなったが、航続距離も明らかに短くなった。

このオーナーがSNSで自分の疑問を訴えると、威馬以外のEVオーナーからも自分も鎖電されたとしか思えないという訴えが相次いだ。充電は5日に1回で済んでいたものが、3日に1回必要になったという人もいる。

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▲EVのバッテリー発火事故は年間70件程度発生している。EVが売れるようになったことで、発火事故件数は今後上昇すると見られている。

 

再び加熱する航続距離の問題

カタログ上は航続距離500kmというEVを購入しても、現実の航続距離は、実際の運転は経済運転ではなく、エアコンなども使ったりするために400km+程度に落ちてしまう。さらに鎖電をされると350km程度にまで落ちてしまう。しかも、威馬の場合は、オーナーに断ることなく、無料点検と称してこっそりと鎖電をされている可能性がある。これは消費者に対して不誠実なことではないのかという声があがっている。

また、カタログ上の航続距離は、あくまでも統一基準により他車と比較するものであって、その絶対値が保証されているわけではない。とは言え、あまりにも数値に開きがあるのは問題ではないか。オーナーは航続距離のカタログ値につられて、バッテリー切れで立ち往生することが増え、かえって問題を生じさせているという指摘もある。

 

今後問題になりそうな「鎖電」

メーカーとしては、鎖電をすることにより、発火事故のリスクを減らし、バッテリーの寿命を伸ばすことができ、消費者のためになっているという考えなのかもしれないが、だとしたら、メーカーは鎖電をすることを隠さず、カタログにも鎖電を考慮した航続距離を掲載すべきではないかという声が大半を占めている。

現在のところ、鎖電を行なったと認めているメーカーは存在せず、ディーラーも安全性などを考慮してバッテリー充電回路の調整を行うことはあると言うだけで、鎖電行為そのものは否定をしている。

しかし、EVが急速に広がったことにより、今後、この鎖電問題と、発火事故の関係がクローズアップされてくる可能性が出てきている。