アリババのスマホ決済「アリペイ」は、建前上はアリババ独自のポイントを扱うサービスであり、金融サービスであるかどうかが曖昧なまま規制の網をかいくぐってきた。しかし、それが金融業界と同等の規制を受けるようになる。アリペイのビジネスは大幅縮小せざるを得ないと小小潮潮が報じた。
罰金が課せられたアリババの二選一行為
アリババのスマホ決済「支付宝」(ジーフーバオ、アリペイ)が大きく変わることになる。
2021年4月、中国国家市場監督管理総局(市場監管総局)は、アリババに対して、市場での支配的な地位を濫用して、「反壟断法」(独占禁止法)に違反する行為があったとして、2019年の営業収入の4%である182.28億元(約3000億円)の罰金を課すことを発表した。
問題となった行為は、「二選一」(二者択一)と呼ばれる排他行為だ。アリババは2015年から、自社のECで商品を販売する業者に対して、他のプラットフォームでは開店しないように迫り、それを無視する販売業者に対して、アリババECの規則や、データ提供、アルゴリズムなどの技術手段を用いて、不利な状況を作り出した。
つまりわかりやすく言えば、タオバオだけに出店するように求め、それを無視する業者には、利用者動向のビッグデータを提供せず、検索結果の下位にしか表示されないようにするなどの冷遇をし、販売業者に圧力をかけたというものだ。タオバオか、それ以外かを選ぶ二選一を事実上強要した。
アリペイも消費者金融機能を分離
しかし、それだけでは終わらなかった。アリペイを運営するアントグループは、人民銀行(中央銀行)、銀行保険監督管理委員会、証券監督管理委員会、国家外滙局と会談をし、スマホ決済「アリペイ」にも独占禁止法に抵触しかねない行為があると指摘され、改善をせざるを得なくなっている。
ひとつはアリペイと「花唄」(ホワベイ)「借唄」(ジエベイ)の分離だ。花唄、借唄というのは、アリペイの中から利用できる消費者金融機能。特に人気なのが花唄だ。アリペイの芝麻信用(ジーマクレジット)により、借りられる限度額が算出される。つまり、「借金をすれば、これだけ使える」という額が表示される。そのまま買い物などの決済をすると、自動的に借入され、商品が購入できる。「借金を申し込む」という心理的ステップがないために、若い世代から「先消費、後払い」として人気になっている。借唄も、ジーマクレジットによって限度額が算出され、申し込みをすると、瞬時にアリペイ残高に送金され、お金を借りられるというもの。この2つがアリペイから分離されることになる。
▲アリペイの消費者金融機能「花唄」。芝麻信用(ジーマクレジット)により、利用限度額が自動算出され表示される。そのまま買い物などの決済ができ、翌月以降返済をしていく。
アリペイから分離をし、他の決済方式にも対応へ
問題となっているのは、花唄、借唄がアリペイからしか利用できないことだ。お金を借りるといっても、それはアリペイでの決済にしか利用できない。これが問題とされ、借りたお金は銀行口座や他のスマホ決済にも入れることができるようにし、消費者の選択権を守るべきだとされた。
この花唄、借唄は若い世代からは歓迎されているが、社会的には問題も指摘されている。それは借金をすることへのハードルが低くなり、破綻をする人も少数ながら現れ始めているからだ。アリペイなどでお金が借りられなくなった人は、違法な闇金融に手を出し、さまざまなトラブルに巻き込まれている。
花唄では利用者拡大のために、1ヶ月以内に返済をすれば利息が0元で、なおかつ借入額に応じたポイント還元のキャンペーンを行うこともあり、このような時は、優先する決済を「花唄」に設定してしまう人も多い。1ヶ月以内に返済をすれば、利息はなく、ポイントだけ稼げるからだ。このようなキャンペーンに対しては、消費習慣を破壊するという批判の声もあがっていた。
規制を逃れていたアントグループ
アントグループは、個人信用調査機関の免許を取得していない。免許を取得していないので、中央銀行や監督官庁の規制から逃れている。アントグループは、アリババの子会社であるので、淘宝網(タオバオ)やアリペイの利用履歴などの膨大なビッグデータから独自に分析をして、ジーマクレジットを算出している。
ところが、ライバルの銀行は、タオバオやアリペイを持っていないので、借り入れをするときは書類審査という従来の方法で個人信用を審査しなければならない。これは信用調査コストの点で勝負にならない。そのため、アントグループも監督官庁の監督を受けるようにし、業界の規制を守らなければならなくなった。これがどのような影響を及ぼすかはこれからだが、常識的に考えて、ジーマクレジットや花唄などの利用手続きが複雑化し、利息などが上がる可能性がある。
準備金の規制も受けることに
花唄、借唄では、現在、準備金の額の100倍まで貸し出しが行われているが、これを10倍までに制限される。アントグループが花唄や借唄で、貸し出しを行うには、準備金を用意しておかなければならない。10万円を貸すのに、10万円の準備金があれば、それを貸すことができる。もし、その10万円が返済されず、焦げ付いたとしても、準備金はなくなり、業績には響くが、アントグループ本体が倒産してしまうようなことはない。
しかし、これまでアントグループは、準備金の100倍までの貸し出しを行なっていた。もし、返済されない事故率が上昇すると、アントグループの存続にも関わってくる。しかし、返済事故を起こした人のジーマクレジットの点数は著しく下がり、花唄を利用できなくなるか、限度額が大きく制限されることになる。このような仕組みで不良な消費者を排除することで、事故率を低く抑えることに成功しているので、100倍まで貸し出しても問題ないというのが、アントグループのロジックだ。
しかし、これが10倍までに制限される。つまり、アントグループは事業規模を1/10にまで縮小させるか、現在の10倍の準備金を用意する必要が出てきた。
余額宝にも利用者保護の仕組みを導入
アリペイのキラーサービス「余額宝」(ユーアーバオ)も規模が縮小されることになりそうだ。余額宝は、アリペイの中から24時間出し入れができる投資機能。集めたお金をアントグループが国債などに再投資し、手数料を引いて、利用者に還元をする。一時期は利回りが6%を超え、7%に迫ったこともあり、アリペイの利用者増に大きく貢献した。しかし、現在は2%を割り込むところまで利回りが低下をしている。
中国の経済が成長期にあったため、大きな問題にはならなかったが、投資商品であるために、今後、経済状況によっては、利回りがマイナスになるということもあり得る。しかし、その場合に、利用者を保護する仕組みは用意されていなかった。すべて利用者の自己責任となる。
そこで、監督官庁の監督を受け、消費者保護の仕組みを導入することになる。つまり、余額宝も規模が縮小されるか、利回りがさらに低下をすることになる。
▲アリペイのキラーサービスだった「余額宝」も、以前は6%越えの高利回りを誇っていたが、現在は2%を切る水準まで低下をしている。
今後は銀行の金融サービスと同等の規制を受けることに
アリペイは、中国の金融業界を大きく変えてきた。アリババの創業者、馬雲(マー・ユイン)が、「銀行が変わらないのであれば、私たちが変えてみせる」とタンカを切ったその通りのことを実行してきた。
しかし、銀行側から見ると、不公平に映っていた。アリペイは、あくまでもアリババ独自のポイントを扱っているので、書面上は金融サービスではないことになり、金融関連の規制を受けずにきた。銀行に言わせれば、「こちらは何かをやろうとすれば、消費者保護などの規制を考えて設計しなければならない。まったく勝負にならない」ということになる。
それが、金融サービスと同等の規制を受けることになる。今までは、銀行が行っているサービスを、テクノロジーを使って効率化して、実現することで、銀行から多くの顧客を奪ってきた。しかし、今後は、銀行と同じ土俵の上で戦わなければならなくなる。アリババとアントグループの底力が試される時期に入った。