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大都市からの移住組は後悔していないのか。大都市と報酬は同じでも、生活コストも大都市並みの杭州市

若い世代の「北上広深から逃避する」現象が続いている。大都市では生活コストがあがり始めて生活が苦しいため、杭州市などの新一線都市に移住をする人が増えているのだ。しかし、統計データによると、杭州市は報酬も高いが生活コストも高い都市であることが判明していると南方小佛爺が報じた。

 

大都市から地方都市へ。移住希望者は多い

中国でも地方移住が注目されている。「北上広深から逃避する」と言う言葉が使われ、大都市から地方都市に移住をすることで、安い物価により生活が楽になり、仕事のプレッシャーからも解放されるというものだ。

しかし、大都市からいきなり農村というのでは生活が変わりすぎてしまい、そもそも仕事が見つかるかどうかもわからない。そこで、注目をされているのが新一線都市や二線都市で、中でも注目を浴びているのが浙江省杭州市だ。アリババの本拠地であるためにエンジニアであれば仕事はすぐ見つかり、報酬も高め。都市インフラも充実をしていながら、自然も豊富に残されている。

しかし、実際に移住をした人は満足をしているのだろうか。それとも後悔をしているのだろうか。

 

地方でも生活コストは下がらない

日本でも、東京、大阪から地方移住を考える人は多い。満足をしている人、後悔をしている人さまざまいる。満足をしている人の典型は、趣味を持っている人だ。サーフィンや釣り、キャンプなどのアウトドア系の趣味を持っている人は、休日には歩いて海に出たり、車で15分でキャンプサイトに行くことができ、地方での生活を満喫している。

しかし、後悔をしている人もいる。地方で暮らすといっても、民家を借りるのではなく、駅近の設備が整ったマンションに住んでしまうと、家賃はそう安くはない。近所の商店街の物価は安いが、閉店時間は早いため、仕事終わりに買い物をしようとすると、スーパーやコンビニを利用することになる。駅ビルやショッピングモールにあるユニクロ無印良品で買い物をするなど、都会と同じ店を利用すれば物価は当然都会と同じになる。都市での暮らしを地方でもそのまま再現しようとすると、生活コストはさほど下がらない。一方で、賃金は大都市並みとはいかない。

結局、地方移住をしても、地方の生活になじんでいかないと生活コストはさほど下がらないのだ。

 

大都市並みの収入がある杭州

中国で、北京、上海、広州、深圳という4大都市から、杭州への移住が人気になっている理由は、地方都市としては収入が多いということだ。2021年の平均可処分所得のランキングでは、4大都市が上位になるものの、杭州も6位であり、4大都市とそう大きな開きがあるわけではない。

可処分所得で見ると、杭州市、蘇州市は4大都市に迫り、移住人気が高まっている。

 

支出も大都市並みの杭州

しかし、平均支出を見てみると、杭州は第3位となる。広州、北京といった大都市より多いのだ。つまり、収入は大都市より少し少ないが、支出は大都市並みということになる。

杭州市の特徴は平均支出の額が大きいことだ。広州市北京市よりも支出が多い。

 

支出割合が非常に高い杭州

各都市の可処分所得に対する支出の割合を計算してみると、杭州は第15位となってしまった。つまり、主要都市の中で、得た収入をほとんど使ってしまう都市ということになる。

しかも、2020年のこの比率は61.8%であり、それが2021年には65.9%、2022年には66.1%と上昇傾向にある。いったい杭州の人々は何にそんなにお金を使っているのだろうか。

▲支出/所得を計算した支出割合では、杭州市は大都市や地方都市よりも高い。つまり、もらった給料の多くを使ってしまう。

 

食品、住居費が大都市並みの杭州

支出の内訳割合を、杭州と同地域にある都市と比べてみると、面白いことがわかる。杭州は、食品では上海より大きく、住居費は南京や蘇州より大きく高い。交通通信費もどの都市より高い。一方、教育文化娯楽費は、どの都市よりも大きく低い。

つまり、簡単に言えば、生活コストがかかりすぎるために、教育文化娯楽費を抑えざるを得なくなっている。

特に大都市である上海と支出割合を比べてみると、食品、衣類、生活用品、交通通信の4つが杭州の方が高く、住居費、教育文化娯楽、医療保健は上海よりも割合が小さい。

杭州市は食品、住居といった生活コストの支出割合が大都市並み。一方で、教育文化娯楽費が極端に少ない。生活コストがかかるため、お金をかけずに遊ぶようになっているようだ。

 

漂流はできても、定着ができない大都市

大都市から杭州に移住をする人が多いのは、単純に杭州には仕事があるからだ。智聯招聘が発表している「中国都市人材吸引力ランキング」では、杭州市は2020年には北京に次いで第2位になっている。その他の都市でも確実に5位以内に入っている。つまり、4大都市に次いで仕事がある都市なのだ。アリババの本拠地であるため、テック関連やEC関連の企業が多く、待遇のいい仕事を見つけるのに苦労をしない。

多くの若者が考えるのが、「定着」ということだ。定着というのは、具体的には結婚をして家を買うことだ。定着する前の段階は「漂流」だと感じている。しかし、4大都市に定着をすることはほとんど不可能になっている。中心部の企業に勤めて中心部のマンションを購入しようとすると、よほどの報酬をもらっていなければ不可能になっている。ごく普通の人たちは、中心部の企業に勤めていても、住居はそこから30分、45分離れたところに持つしかない。通勤ラッシュは過酷であり、人生の貴重な時間を毎日無駄に捨てることになる。

それが、杭州市のように職が得やすい新一線都市や二線都市であれば、中心部の企業に勤めて、中心部に住宅を購入し定着をすることが可能になる。つまり、地方都市の方が住みやすい、環境がいいというよりも、大都市では定着が難しくなっているため、仕方なく地方都市に流れている状況がある。そのため、このような地方移住は「北上広深から離れる」ではなく「北上広深から逃げる」という言い方が使われる。

 

大都市から逃げても大都市生活を捨てられない

「北上広深から逃避する」人たちは、大都市から逃げても、大都市の生活を捨てることができない。地方に移住をしても、中心地のマンションに住み、徒歩通勤し、都市に浸透しているブランドを利用するとする。中には北上広深では実現ができなかった都市生活者の生活スタイルを地方都市で実現しようと考えてしまう人もいる。しかし、それでは大都市並みの生活コストがかかるのは当たり前のことだ。地方移住は、その地方の生活になじむことで生活コストが下がり、新たな人生の楽しみを発見できるようになる。

今度は「新一線都市からも逃げる」現象が始まるのかもしれない。