中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

目覚める上海。上海からテックジャイアントが生まれてこない理由

上海は、中国有数の大都市であり、時代の先端を行っている都市だ。しかし、不思議なことに上海からはテックジャイアントと呼ばれる巨大IT企業が生まれてこない。あまりに発展しすぎたため、ハングリーさが失われているとも言われる。しかし、上海からソーシャルEC「拼多多」が生まれてきた。これにより上海の起業状況が変わるかもしれないと淘数碼が報じた。

 

上海にはBATがない

中国では「上海にはBATがない」「上海にはジャック・マーがいない」とよく言われる。中国の4大都市といえば、北京、上海、深圳、広州。しかし、BATの百度は北京、アリババは広州、テンセントは深圳。また、広州には網易がある。しかし、上海には旅行予約サービスの携程(ctrip)ぐらいしか知名度の高いテック企業がない。

上海は、金融と商業の都市であり、中国建国以前から国際都市で、中国最大の都市でもあった。なぜ、大きな経済力を持つ上海からテック企業が生まれてこないのだろうか。

 

ジャック・マーもあきらめた上海での起業

アリババの創業者、ジャック・マーは、以前、上海のことを語っている。ジャック・マーはアリババの創業以前に、北京で政府の仕事をしていたことがある。しかし、その仕事に満足できず、1999年に生まれ故郷の杭州に戻って自分の会社を起業する道を選んだ。その時、杭州から遠くない大都市、上海で起業することも考えたという。しかし、すぐにその考えは捨てた。

ジャック・マーは2つの理由を挙げている。ひとつはオフィス家賃などの運営コストが高すぎるということだ。ジャック・マーは当時上海で最もおしゃれな街である淮海路にいくと、英文字の看板が並んでいて驚いた。家賃を調べてみると、当時の杭州人から見れば、ありえない高額だった。

もうひとつの理由が人材だ。上海は大都市であり、上海交通大学など質の高い教育機関もあり、人材は豊富だ。しかし、ほとんどの人が、外資系企業か国営企業の安定した仕事を求めていた。当時の中国では考えられないほどの高給が約束される。そこにジャック・マーという杭州師範大学を卒業しただけの元英語教師が起業をすると言っても、誰も集まらないだろうと考えたという。

ジャック・マーはそう考えて、杭州に戻り、英語教師時代の教え子たちに声をかけ、自宅マンションをオフィスにしてアリババを創業した。

 

登場しても競争に負けてしまう上海スタートアップ

しかし、上海人が挑戦をしない人々なわけではない。むしろ、インターネットの黎明期には上海から新しいサービスが生まれている。

1999年、アリババよりも早く、上海に易趣網(イーチネット)が生まれている。これは中国で最初のCtoC型ECサービスのひとつだった。後に、米国eBayが中国上陸をする時には、まずイーチネットを買収して進出をしたほどだ。

しかし、後から生まれたアリババの「淘宝」(タオバオ)との競争に負けてしまった。アリババは、出店者に対し、3年間は出店料、手数料を取らないという無料ランチ戦略で徹底して対抗した。多くの出店者がタオバオに移り、イーチネットは惨敗をし、eBayも中国進出を断念した。

BtoC型のECでも、上海から易迅網が誕生しているが、やはりテンセントと京東連合軍との競争に敗れて敗退をしている。上海にはこのようなスタートアップが多い。外売サービスを始めた上海の「餓了麽」(ウーラマ)も、現在ではアリババに買収され、創業者の張旭豪は会社を離れている。

f:id:tamakino:20200229111147j:plain

▲上海の著名テック企業を時代別にまとめたもの。下に行くほど古い。上海からはテックジャイアントは誕生してこないものの、スタートアップ企業は昔から多い。

 

ハングリーさに欠ける先端都市「上海」

他都市よりも早く起業アイディアを発見して創業するものの、ライバルとの競争が始まると、バイアウトして創業者はすぐにイグジットしてしまう。

起業のチャンスは豊富にあるものの、ある程度の成果が出たところで売却をして、お金持ちの仲間入りをする。しかし、アリババのジャック・マーなどのように「アリババを続けるか、死を選ぶか」といった気迫は上海人にはあまりない。都市が早くから発展をしているため、生きていく方法がたくさんあることがハングリーさを失わせているという人もいる。

強力なライバルがなかなか登場してこない小紅書(女性に特化したEC)、ビリビリ(弾幕つき動画共有サービス)などは独自の地位を確保しているが、競争がないために成長が止まってしまう。上海にはBATのようなテックジャイアントが生まれない。

 

テック企業は多いものの、上位に食い込めない

中国工信部は、2013年から、テック企業をスコア化して、毎年「中国ネット起業100強」のリストを公開している。

上位3社はBATが常連で、これに京東や網易が続く。しかし、2013年からトップ20に入り続けている上海企業は、携程(ctrip)のみだ。しかも、最高位は8位で、BATに迫る企業が生まれてこない。

しかし、トップ100を都市別に見ると、上海は19社もランクインされて、北京に次いで100強テック企業の多い都市だ。これは2013年から変わらず、20社弱が常に上海からランクインされている。

f:id:tamakino:20200229111153p:plain

▲中国工信部が公開しているネット企業100強のうちの上位20社。青が上海を本拠地とする企業。100強には毎年20社ほどがランクインしているものの、上位に食い込める企業が出てこない。急成長している拼多多が上位に食い込めるのではないかと期待されている。

http://www.miit.gov.cn/n1146290/n1146402/n1146445/c7260802/content.html

 

上海から生まれた「拼多多」で、上海は変わるか

しかし、上海発の「拼多多」(ピンドードー)の出現により、上海の状況が変わるかもしれない。共同購入型EC、ソーシャルECとも呼ばれる拼多多は、会員数、月間アクティブユーザー数で、京東を抜き、アリババに次ぐ第2位のECに急成長をした。この拼多多の出現により、100強企業の都市別売上高では、上海は23.3%を占め、しかも昨年から37.1%の増加をしている。

ようやく中国テックジャイアントと正面から競争をする上海企業が生まれてきた。2020年は、拼多多が刺激になって、上海のスタートアップ事情に変化が起きる年になるかもしれない。