中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

有害コンテンツの排除よりは、優良コンテンツを増やす。TikTokが進めるプロジェクト「萌知計画」

中国版TikTok「抖音」が、青少年向けの優良コンテンツを開発する「萌知計画」を進めている。著名な科学者、教育機関、個人クリエイターなどが参加をし、子どもやその親から人気になっている。有害コンテンツの排除には限界があるため、優良コンテンツを増やす努力をバイトダンスがしていると極客公園が報じた。

 

中高生の99.2%がネット環境あり

「青少年ブルーブック:中国未成年インターネット運用報告(2020)」(社会科学文献出版社)が発売され、未成年のインターネット利用が想像以上に進んでいることがわかった。

青少年とは13歳から18歳まで、または中学と高校生の男女を指す。個人、家庭でインターネットが利用できる環境にある青少年は99.2%に達した。しかも、10歳以下で初めてインターネットに触れた青少年は78%に達し、最初にインターネットに触れた年齢は6歳から10歳に集中していた。

 

有害コンテンツを排除するよりも、優良コンテンツを増やす

これだけ未成年がインターネットを利用するようになると、問題になるのが、暴力やポルノなどの有害コンテンツだ。一般には、フィルタリングをかけて、有害コンテンツを青少年に触れさせないようにする。しかし、効果は限定的だ。優良なコンテンツ以外アクセスできないようにするホワイトリスト方式では、青少年がアクセスできるコンテンツが限定をされすぎてしまう。

一方で、有害なコンテンツへのアクセスを遮断するブラックリスト方式では、リストを作成する労力が膨大で、しかも完全なリストを作ることは難しく、漏れがどうしても生まれてしまう。

中国版TikTok「抖音」(ドウイン)では、有害なコンテンツを青少年の目に触れさせない努力だけではなく、優良なコンテンツを積極的に増やしていく必要があると考え、「萌知計画」を進めている。これは青少年向けの優良コンテンツを配信する創作者を育成するプロジェクトで、現在までに4万以上のショートムービーが生まれ、再生回数は累計100億回に到達しようとしている。

f:id:tamakino:20210602105440j:plain

▲抖音の萌知計画では、青少年にとっての優良コンテンツを創作し、紹介している。フィルタリングで排除するだけでなく、優良コンテンツを増やす努力をしている。

 

親子で楽しまれている萌知計画コンテンツ

この萌知計画は、親からも歓迎されている。ある7歳の息子がいるお母さんは、夕飯を作っている時に、子どもからこう尋ねられた。「地球以外にも、人や動物は住んでいるの?」。

正確な回答がわからないお母さんは、「調べるからちょっと待っていてくれる?」と答えた。その日の夜、お母さんは、抖音の中でその答えがわかるムービーを見つけた。

それは「火星には生命はいるのか」と題したもので、話をしているのは、月面探査の主席科学者の欧陽自遠氏だった。これは「之知科普」というアカウント名で、優れた科学者のインタビューなどをテーマごとに編集して配信しているものだ。

f:id:tamakino:20210602105420j:plain

f:id:tamakino:20210602105415j:plain

▲之知科普のアカウント。中国の著名な科学者のインタビューから、「火星には火星人がいるの?」などの子どもが持つ疑問に応えている部分をショートムービーとして配信している。

 

動物園も公式コンテンツを提供

同じような優良コンテンツは他にもたくさんある。「長隆動物科普」は、サファリパーク「長隆野生動物世界」を始めとする動物園、ホテルなどを経営する長隆集団の公式アカウントだ。動物園の中をバーチャル散歩するような映像や動物に関する普通の人が知らない知識を提供している。

f:id:tamakino:20210602105425j:plain

▲サファリパークの公式アカウント「長隆動物科普」。子どもが興味を持つような動物の面白い行動などをムービーで紹介している。

 

楽しみにながら学べるコンテンツも

このような真面目な学習系ムービーだけでなく、子どもたちが面白がって積極的に見てしまうムービーもたくさんある。「模型師老原児」は、なんでも模型にして説明してしまう配信主だ。風邪をひいた時の鼻の中の模型など、キテレツぶりが受け、なおかつ知識が身につくことから人気になっている。

模型師老原児がアカウントを作成したのは、2020年4月。「子どもにはわかりやすく、大人には面白く、誰もがムービーの中から面白さと知識を得られるように」というモットーで配信を始めた。

f:id:tamakino:20210602110048j:plain

f:id:tamakino:20210602105430j:plain

▲子どもから大人気の模型師老原児。なんでも手作りで模型を作って仕組みを説明する。人気なのは、風邪を引くとなぜくしゃみができるのかを手作り模型で説明したムービー。

 

教育系の公的機関も参加する萌知計画

萌知計画では、8つの領域で、創作者を募集している。「科学知識」「就学前啓蒙」「文学」「絵本・歌」「芸術」「知育玩具」「安全教育」「学科知識」で、登録が認められると、優先的に配信がされ、さらに、配信者としての育成プログラムなども受けられる。

現在、2000人近い配信者が登録されている。配信者は個人の場合も多いが、中国教育電子台、中国科協科普部など公的機関も登録をしている。バイトダンスの張楠(ジャン・ナン)CEOは、抖音用の新たな検索エンジンを開発することを公表しており、抖音を人類のムービー百科全書にしたいと述べている。

抖音は、ライブコマース、ECも初めており、ムービーによる商品情報も充実し始めている。

TikTokというと、若い女性のダンス映像ばかりが投稿されていた時代はすぎさり、何かを知りたい時にまず開く、ムービープラットフォームになろうとしている。

f:id:tamakino:20210602105434j:plain

▲幼児向けにしてはいけないことを歌とCGアニメで紹介する「東東龍児歌」。子どもが歌を覚えることで、しつけが身につくというもの。