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中国版TikTok「抖音」に黄色信号。EC志向がコンテンツ力を失わせている

抖音のEC売上が絶好調で2022年は約28兆円という驚異的なものになっている。しかし、その一方でコンテンツ力が失われている。人気になるムービーがあきらかに少なくなっている。EC売上を意識したムービーが増えたことが原因で、かつて商業テレビがたどった道を歩み始めているかもしれないと人人都是産品経理が報じた。

 

EC売上が28兆円になった抖音

ショートムービープラットフォーム「抖音」(ドウイン)=中国版TikTokがその姿を変えようとしている。言うまでもなく、抖音はダンス投稿映像に代表される娯楽の王様になっており、中国人にとっては、暇つぶしをする時はテレビではなく、抖音になっている。

その抖音は、ライブコマースの拠点ともなり、爆発的に商品を販売する網紅(ワンホン、ネットの人気者)を生み出してきた。ショートムービーよりも、ライブコマースによる販売が中核事業になってきた。さらに、抖音は抖音商店(TikTok Shop)をスタートさせ、EC機能も持つようになってきた。このようなオンライン売り上げは2022年で1.41兆元(約28兆円)という驚異的なものになっている。

 

人気になるムービーが登場しなくなっている

しかし、その肝心のショートムービーが勢いを失ってきている。新科データの推計によると、2022年の抖音は、29のムービーが1000万件以上の「いいね」を獲得したが、そのうち25件はニュース映像であり、そのうちの14件は人民日報のチャンネルによる配信だった。つまり、純粋に誰かが創作をし投稿をしたムービーでは4件しか、「いいね」を1000万件以上獲得することができなかった。

2018年、抖音が最も勢いのあった時期には、1000万件以上の「いいね」を獲得した創作投稿ムービーは、少なくとも数十件はあった。つまり、面白いムービーが減少しているのだ。

▲今年2023年5月には、幼稚園の黄先生のお遊戯の歌が広く拡散した。あっという間にこのお遊戯の歌を歌うムービーが投稿され、久々の”現象級”の拡散が起きたが、それでもいいねの数は700万個にすぎない。爆発的な拡散が起こりづらくなっている。

 

ECがコンテンツを腐らせている

なぜ、抖音の投稿主たちは、創作力を失ってしまったのだろうか。コロナ禍以降、多くの人が社会状況を気にするようになり、呑気なダンス映像や面白映像を楽しむ気分ではなくなっていることもある。

しかし、大きいのは抖音がECにシフトをすることで、純粋なエンターテイメントコンテンツが減少し、何らかのコマーシャルや直接商品を販売するムービーが増えていったからだ。つまり、テレビでドラマやバラエティ番組が減り、CMとタイアップ番組ばかりになってしまったようなものだ。

抖音の魅力は、何と言ってもコンテンツ力だった。面白いムービーが山ほどあるので、人は少しの隙間時間が生まれると抖音を開いてしまう。その中に商品を販売するムービーやライブコマースが適切なバランスで含まれているため、商品を買ってしまう。コンテンツとECは抖音の両輪だった。しかし、EC機能ばかりが強くなりすぎて、コンテンツ力が減退をしている。これはテレビが死んでしまったのと同じ道をたどっているのではないかと指摘をする人もいる。

 

インフルエンサーは人気を獲得すると独立へ

では、そのECは好調なのか。こちらにも翳りが見られる。確かに、抖音はライブコマースのメガトン級の網紅を生み出してきた。抖音では東方甄選、快手では辛巴、タオバオライブでは李佳琦というスーパー網紅がいる。しかし、東方甄選は独自アプリをリリースし、辛巴はHolaxというプラットフォームを立ち上げ、李佳琦は独自のミニプログラムをリリースした。

つまり、集客力のあるライブコマースの網紅たちは、他人のプラットフォームでライブコマースを行い、手数料を取られるより、自分たちで運営した方が儲かるのだ。

抖音は、このような網紅たちのジャンプ台となり、人気の出た網紅たちは、抖音を“卒業”して、独自チャンネルを持つようになる。2022年、ライブコマースの視聴者数が1億人を突破した網紅は、わずか6人になってしまった。

本流とも言えるコンテンツ力が失われ、EC方面でもトップスターが抜けていく。2016年にリリースされて、一度も足踏みをすることなく成長してきた抖音だが、2023年はさすがに足踏みをすることになるかもしれない。抖音は、次の成長曲線の源泉となるサービスを模索することになる。